【本作中の登場人物は全てフィクションです】
さっきまで駅近くのカフェでコーヒーを飲みながら、子どもの体と精神の発達について書かれた本を読んでいた。ページをめくり、外の小雨をぼんやりと眺め、本当に彼女は来るのだろうかと考えていた。もしかしたら気が変わって、
「やっぱりやめておこうかな」
と迷っているのかも知れないな、と考えていた。ただ事実は、まだ彼女がここに現れていないということ。来る、来ない、延期などの可能性について考えるのを僕はやめた。
活字を追い、雨を眺め、コーヒーに口をつけ、要点をノートに記して、ふと顔を上げたらパステルブルーの軽自動車が道路をスーッと横切った。運転しているのは、クリーム色のコートを着た二十代前半と思しき女の子。本当に来たのか、と僕は驚いていた。
少し先、カフェの窓からギリギリ見える所で路肩に寄って車は停まる。僕は本を鞄にしまい、お店の紙カップを片手に店を出る。コーヒーがこぼれないようにゆっくりと車に近付く。彼女がこちらに気付く。彼女が助手席のドアを開けようとしたけれど、手が届かない。大丈夫、と僕は手で制して助手席に乗り込む。かすかにオーデコロンの香りがする、心地よい車内。彼女の香水だろうか。
彼女は、
「はー、会えて良かった」
とため息をつく。車はゆっくりと二ブロック進み、左に曲がった。大きなプレゼント袋を担いだ張りぼてのサンタクロースが、赤レンガ色の壁にしがみ付いている奇妙な光景が現れる。サンタクロースのずっと上にはホテルの看板。ホテルの名前に「クリスマス」という言葉が入っている。車はホテルを素通りして、なぜかコインパーキングに入った。ホテルに駐車しないの? と訊くと、