
賽は投げられた

イル
あれは多分、2年程前の暑い夏の日だったと思う。
いつもの様にTinderをぶん回し、アポの取れた子と会うことになっていた。
写真で見る限りは巨乳、綺麗な雰囲気で身長も高め、俺が好きなタイプだったからそれなりに期待してをしていた。
待ち合わせ場所は都内某所の商業ビルの入口。
俺はいつも5分前には待ち合わせ場所についているのだが相手から遅刻するとの連絡があった。
暑いのがとにかく嫌いな俺は少しイラ立ち始めた。
その5分後に相手が現れた。
相手の顔が一瞬引き攣ったのをすぐに確認できたが、こちらも”ん、なんか違うぞ、いや誰かに似てるな。テリーだ、テリー伊藤だ!”
なにがとは言わんがテリー伊藤に似ていた。
ここで言っておくが、決してブスだったわけではない。
繰り返すがなにがとは言わんが似ていたのだ。
合流したので「じゃあいきましょうか?」
そうしたらテリーは「トイレ行ってもいいですか?」と
そして商業ビル3階に着き、テリーはトイレに向かった。
左脇には服が吊るされたラックが置いてある通路のの奥にトイレがあった。
テリーがトイレに行くのも見ていたが、トイレの標識の手前を左に入ろうとしている。
ただ俺は目が悪いのでよく見えず勘違いかと思ったが、いや間違いなく手前に入ろうとしている。
通路には服が並べられており体全体は見えないが肘だけが左右に激しく揺れていた。
最初なにをしているのかと思ったがよく見るとそこは非常口で逃走を図っていたのだ。
肘が左右に激しく揺れていたのは鍵が掛かっているドアを力づくで開けようとしている動作だった。
逃走に失敗したテリーはこちらに戻ってきた。
でもまあいいやと、気づかないフリをしてそのままホテルに向かおうと「酒とか飲むんだっけ?なんか買っていこう」と話をしたがテリーは「すいません、解散でいいですか?」と。
あー、気づいてたよ!100%気づいてたよ!
でもな最後に言っておく、俺は火事でも地震でもねえんだよ、非常口からじゃなくて正面から帰ってくれ。
完