1. 発注が属人化すると何が起きるか
「そろそろ牛乳を頼まないと」。
そう思ったのは、ランチのピークが終わって一段落した午後3時。
でも締め作業に追われて、そのまま忘れてしまう。
翌朝、カフェオレを頼まれたときに「牛乳が切れています」と伝える——そんな経験はありませんか。
小規模店舗の発注管理では、次のようなことが起きやすいと指摘されています。
- 忙しい時期ほど発注確認が後回しになり、欠品か、不安からの過剰発注につながる
- 在庫が「見えない」ため棚卸が月末にまとめて行われ、疲労から頻度が落ちる
- 発注の判断が店主の頭の中だけに頼り、属人化する
一度この状態に入ると、悪循環になります。
欠品が怖いので多めに発注する。
売れ残りが出る。
もったいないので次は控えめにする。
今度は切らす。
原因が記録として残っていないので、同じ失敗を繰り返します。
手作業での入力ミスや重複発注も、そのまま販売機会の損失につながります。
発注が「その人の勘」で回っていると、その人が休んだ日に誰も発注できません。
体調不良や急な外出が、そのまま欠品のリスクになります。
反対に、不在中の不安から多めに発注して、使わないまま賞味期限を迎える材料も出てきます。
この記事で目指すのは、そこから一歩抜け出すことです。手元の在庫メモをAIチャットに貼り付けて、「要発注・注意・十分」の3段階に分かれた発注リストを作れるようになります。 むずかしいシステムの導入は要りません。パソコンかスマホのブラウザでAIチャットを開ければ、今日から始められます。
まずは、感覚で決めていた発注を「基準と照らし合わせて決める」形に変えていきましょう。
2. 準備:管理する品目と記録項目を決める
いきなり全品目を管理しようとすると、まず続きません。
そこで、次の3つの条件のどれかに当てはまるものだけを、10品目程度に絞ります。
- 価格が高い(ロスが出ると痛い)
- 回転が速い(よく出る)
- 切れると困る(代わりがきかない)
たとえば、架空の個人経営カフェ「カフェ・ミドリ」で考えてみます。
ここでは、牛乳、コーヒー豆(ブラジル)、コーヒー豆(エチオピア)、生クリーム、グラニュー糖、紙コップ、カップのふた、テイクアウト用の紙袋、食パン、卵の10品目を選んだことにします。
この店名も品目も、説明のための架空の例です。
実際にはあなたの店で「これが切れたら困る」と思うものから選んでください。
次に、記録する項目を決めます。
最低限必要なのは次の4つです。
- 品名
- 現在庫数
- 単位(本、kg、個、枚など)
- 発注点(これを下回ったら発注する、と決めておく基準の数)
発注点は、むずかしく考えなくてかまいません。「1日に10本使う牛乳を、翌日に納品してもらうなら、1日分の余裕を見て15本を切ったら発注」のように、普段の使う量と届くまでの日数から決めるのが基本です。正確な数値を一度で決め切るより、「毎回同じ基準を使い続けること」を優先してください。 様子を見て合わないと感じたら、後から調整すれば十分です。
決めたら、スマホのメモ機能などに次のような形で書き出します。
品名, 現在庫, 単位, 発注点
牛乳, 8, 本, 15
コーヒー豆(ブラジル), 2, kg, 3
コーヒー豆(エチオピア), 1, kg, 2
生クリーム, 2, 本, 4
グラニュー糖, 3, kg, 2
紙コップ, 120, 個, 200
カップのふた, 150, 個, 200
テイクアウト用の紙袋, 60, 枚, 100
食パン, 4, 斤, 6
卵, 10, 個, 20
書くときの注意が2つあります。
1つ目は、単位を必ず書くことです。kgとgが混ざったまま進めると、AIも自分も間違えます。2つ目は、発注点が決まらない品目は無理に埋めず「未定」と書いておくことです。あとから足せます。
完璧な台帳を作る必要はありません。
まず10品目、今の在庫数を書くだけで準備は終わりです。
3. 手順1:在庫メモをAIチャットに貼って整理する
準備するものは、ブラウザで開けるAIチャットです。
ChatGPTやClaudeなど、Web版で使えるサービスならどれでも構いません。
サービスによっては利用にアカウント登録が必要なので、先にログインしておきましょう。
入力する前に1つ注意があります。
取引先の名前、お客様の情報、カード番号など、外部に出て困る情報は貼らないでください。ここで貼るのは、品名と在庫数だけです。
チャットの入力欄に、次の文をそのまま貼り付けて送ります。
前の章で作ったメモを、そのまま下の続きに貼る形です。
次の在庫メモを表に整理してください。 列は「品名」「現在庫」「単位」「発注点」の4つにしてください。 単位や発注点が書かれていない品目があれば、表を作る前に私に質問してください。 数字はメモに書いたとおりに使い、勝手に丸めたり推測で埋めたりしないでください。 品名, 現在庫, 単位, 発注点 牛乳, 8, 本, 15 コーヒー豆(ブラジル), 2, kg, 3 コーヒー豆(エチオピア), 1, kg, 2 生クリーム, 2, 本, 4 グラニュー糖, 3, kg, 2 紙コップ, 120, 個, 200 カップのふた, 150, 個, 200 テイクアウト用の紙袋, 60, 枚, 100 食パン, 4, 斤, 6 卵, 10, 個, 20
返ってくる結果は、たとえば次のような表になります(架空の例です)。
| 品名 | 現在庫 | 単位 | 発注点 |
| 牛乳 | 8 | 本 | 15 |
| コーヒー豆(ブラジル) | 2 | kg | 3 |
| コーヒー豆(エチオピア) | 1 | kg | 2 |
| 生クリーム | 2 | 本 | 4 |
| グラニュー糖 | 3 | kg | 2 |
| 紙コップ | 120 | 個 | 200 |
| カップのふた | 150 | 個 | 200 |
| テイクアウト用の紙袋 | 60 | 枚 | 100 |
| 食パン | 4 | 斤 | 6 |
| 卵 | 10 | 個 | 20 |
ここで、次の3点を必ず自分の目で確認してください。
- 品目の数がメモと同じか(今回は10行あるか)
- 数字が書き換わっていないか(牛乳は8のままか)
- 書いていない単位を勝手に補われていないか
もし単位を書き忘れた品目があったのに、AIが「本でしょう」と勝手に埋めていたら、次のように伝えてやり直します。
推測で埋めないでください。不明な欄は「不明」と書いてください。
数字を勝手に丸められた場合は、こう伝えます。
メモに書いた数字をそのまま使ってください。
表が崩れて読めなくなったら、「表の形に整えて、10行になるようにしてください」と具体的に指示すると整います。それでもうまくいかないときは、新しい会話を開いて最初からやり直しましょう。メモは手元に残っているので、貼り直す手間だけです。ここでは、表の見た目より「元のメモどおりに並んだこと」を合格の目安にしてください。

4. 手順2:発注点をもとに優先度を3段階に分けてもらう
表ができたら、同じ会話の続きに次のように入力します。
さきほどの表に「優先度」列を追加してください。 判定は次の基準でお願いします。 ・現在庫が発注点以下 → 要発注 ・現在庫が発注点より多く、発注点の1.2倍以下 → 注意 ・それ以外 → 十分 当てはまらない行や判断できない行は「要確認」と書いてください。
ここが一番大事な点です。基準の数値をAIに決めさせず、あなた自身が決めてください。 上の「1.2倍」はあくまで一例です。納品が遅い店なら1.5倍にする、賞味期限が短いものは1.3倍にする、といった調整はあなたの仕事です。一度決めたら、その数値をメモに書き残しておきましょう。毎回同じ基準を使うことで、判断がぶれなくなります。
返ってくる結果は、たとえば次のようになります(架空の例です)。
| 品名 | 現在庫 | 単位 | 発注点 | 優先度 |
| 牛乳 | 8 | 本 | 15 | 要発注 |
| コーヒー豆(ブラジル) | 2 | kg | 3 | 要発注 |
| コーヒー豆(エチオピア) | 1 | kg | 2 | 要発注 |
| 生クリーム | 2 | 本 | 4 | 要発注 |
| グラニュー糖 | 3 | kg | 2 | 十分 |
| 紙コップ | 120 | 個 | 200 | 要発注 |
| カップのふた | 150 | 個 | 200 | 要発注 |
| テイクアウト用の紙袋 | 60 | 枚 | 100 | 要発注 |
| 食パン | 4 | 斤 | 6 | 要発注 |
| 卵 | 10 | 個 | 20 | 要発注 |
この表ができたら、手で1〜2品を検算してください。
牛乳は現在庫8、発注点15なので「8は15以下」で要発注、で合っています。
グラニュー糖は現在庫3、発注点2なので、2の1.2倍は2.4、3はそれを超えるので「十分」、これも合っています。
1品でも自分の手で確かめれば、基準どおりに動いているかを見分けられます。
期待と違う結果になったときは、次のように戻ります。
- 全部が「要発注」になった → 発注点が高すぎるか、基準がうまく伝わっていません。上の基準3行をそのまま貼り直してください。
- AIが勝手に「1.5倍」などと読み替えた → 「1.2倍で計算してください」と数字を明記して、もう一度指示します。
- 「十分」が多すぎて要発注が埋もれた → 1.2倍の部分を1.3〜1.5倍に広げて調整します。これもあなたが決める数値です。
- 表全体がおかしくなった → 新しい会話を開き、在庫メモの貼り付けからやり直します。
「要発注」が並んだ上から順に発注すれば、今日の仕事は終わりです。
感覚ではなく、自分で決めた基準に沿って選んだリストになっています。
5. 架空例:個人経営カフェでの発注リスト作成
ここからは、架空の個人経営カフェ「こもれびカフェ」を例にします。
実在する店ではありません。
品目は、回転が速く、切れると困るものを中心に5つに絞ります。
コーヒー豆、牛乳、紙コップ、テイクアウト用フタ、砂糖スティックです。
まず、あらかじめ発注点を決めておきます。
発注点とは「在庫がこの数を下回ったら発注を考える」という、自分の店で決める基準です。
- コーヒー豆:3袋
- 牛乳:6本
- 紙コップ:200個
- テイクアウト用フタ:200個
- 砂糖スティック:100本
閉店時に手書きメモへ記録した在庫が、次の内容だったとします。
コーヒー豆 2袋
牛乳 8本
紙コップ 150個
テイクアウト用フタ 220個
砂糖スティック 80本
この在庫メモと発注点を、手順1・手順2で使った2つの依頼文と同じ考え方でAIチャットへ送ります。
まず「品名・現在数・単位・発注点の表に整理してください」という依頼、続けて「現在数が発注点以下なら要発注、発注点の1.2倍以下なら注意、それ以外は十分、という基準で優先度列と理由列を追加してください」という依頼です。
すると、次のような発注リストが返ってきます。
| 品名 | 現在数 | 単位 | 発注点 | 優先度 | 理由 |
| コーヒー豆 | 2 | 袋 | 3 | 要発注 | 発注点を下回っている |
| 牛乳 | 8 | 本 | 6 | 十分 | 発注点の1.2倍以上ある |
| 紙コップ | 150 | 個 | 200 | 要発注 | 発注点を下回っている |
| テイクアウト用フタ | 220 | 個 | 200 | 注意 | 発注点以上だが1.2倍未満 |
| 砂糖スティック | 80 | 本 | 100 | 要発注 | 発注点を下回っている |
この例では、コーヒー豆・紙コップ・砂糖スティックが「要発注」、テイクアウト用フタが「注意」、牛乳が「十分」です。
発注数は、仕入れ先の箱入り数や納品単位に合わせて、自分の手で空欄に書き足します。
うまくいったかどうかは、元の在庫メモと見比べて、5品目すべてが表に入っているか、数量と単位がメモと同じか、優先度が「要発注・注意・十分」の3段階で付いているかで確認します。
ここで違和感があれば、次の章の確認作業に進みます。

6. 完了確認:発注リストが使える状態かチェックする
AIチャットが出した表は、そのまま発注書にせず、発注前に次の項目を上から確認してください。確認を怠ると、発注漏れや重複発注につながります。
- 品名の表記ゆれがないか。元のメモでは「牛乳」なのに、表で「ミルク」になっていないか。品名は店で使っている呼び方に統一します。
- 数量と単位が一致しているか。「8本」が「8個」や「80本」になっていないか。「1袋」と「1箱」では意味が大きく変わります。
- 優先度が3段階で付いているか。すべての行に「要発注」「注意」「十分」のどれかがあり、空欄や二重の優先度がないか見ます。
- 発注点が自分の店の基準と合っているか。コーヒー豆3袋、牛乳6本など、入力した発注点から勝手に変わっていないか確認します。
- 発注先の連絡先メモが添えられているか。発注先名、電話番号やメール、締め切り時間、納品日を表の横に書いておくと、忙しい時間でも迷わず発注できます。
- 同じ品目が2行になっていないか。重複発注を防ぐため、品名の並びを上から確認します。
- 元の在庫メモの品目がすべて入っているか。5品目を記録したなら、表も5行あるか数えます。
確認の基本は、元の在庫メモとAIチャットの表を横に並べ、1行ずつ照合することです。
品名・数量・単位・優先度の4点が合っていれば、発注リストとして使える状態です。
もし違う箇所があれば、次の章の方法で、その行だけを直します。

7. 失敗時の戻り方:AIの読み取りがずれたとき
AIチャットは便利ですが、数量や単位を読み違えることがあります。大切なのは、全部を最初からやり直さず、ずれた行だけを直すことです。 元の在庫メモは消さずに残しておきます。
数量を誤読した場合は、元のメモの該当行だけを貼り直します。
たとえば牛乳が「8本」なのに「80本」になったら、次のように頼みます。
元のメモでは「牛乳 8本」です。表の牛乳の現在数だけ8本に直してください。他の行は変更しないでください。
単位を誤読した場合は、単位を明記して再依頼します。
「砂糖スティック 80本」が「80個」や「8箱」になったら、「80本です。
個数や箱数ではなく、本数として表の該当セルだけ直してください」と伝えます。
品目が抜け落ちた場合は、抜けた行だけを追加します。
紙コップが表にないときは、元のメモから「紙コップ 150個」を貼り、同じ表に組み込むよう頼みます。
優先度だけが違う場合も、該当行だけを修正します。
たとえば牛乳が「十分」なのに「要発注」になったら、「牛乳は発注点6本、現在8本なので十分です。
牛乳の行だけ直してください」と伝えます。
AIチャットが他の行まで変えてしまったときは、「元の表に戻し、指定した行だけ修正してください」と頼みます。
それでも合わない場合は、新しいチャットを開き、元の在庫メモと発注点をもう一度貼り直すのが最終手段です。
修正後は必ず元のメモと見比べ、品名・数量・単位・優先度が合っているか確認します。
8. 次の一歩:発注点の見直しと記録の習慣化
発注点は一度決めたら終わりではありません。
季節や売れ行きの変化、仕入れ先の変更、イベントの有無によって、適した基準は変わります。
月に1回、忙しくない日に見直す習慣をつけましょう。
見直すときは、まず「よく売れた品」と「切れると困った品」を思い出します。
そのうえで、発注点を上げるか下げるかを決めます。
たとえば、売れ行きが増えた品は発注点を少し上げ、動きが遅くなった品は下げる、といった調整です。
AIチャットに「先月の在庫メモをもとに、発注点の見直し候補を整理してください」と頼むと、考える材料を表にまとめやすくなります。
ただし、最終的に基準を決めるのは読者自身です。
記録は、毎日少しずつ積み上げるのがおすすめです。
閉店前などタイミングを決めて、まずは5品目だけ数えます。
毎日記録すると、月末にまとめて棚卸する負担を減らしやすくなります。
忙しい時期ほど発注確認が後回しになり、欠品や過剰発注につながりやすいため、完璧よりも続く運用を優先してください。
AIチャットは、手元の在庫メモを整理し、発注リストの下書きを作る道具です。発注点を決め、記録を続け、月1回見直すのはあなた自身です。 まずは5品目から始めて、感覚だけに頼らない発注へ少しずつ変えていきましょう。
初心者にも分かりやすいAI活用情報をこれからもお届けします。
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