先に、このnoteで繰り返し出てくる言葉を簡単に説明。知っている人は読み飛ばしてもらっていい。
人気(にんき):単勝オッズが低い順につけられる順位。1番人気がいちばん支持されている馬、10番人気なら10番目にしか支持されていない馬。
単勝:その馬が1着になったら当たる馬券。
馬連:1着と2着になる2頭を、着順は問わずに当てる馬券。
3連複:1〜3着になる3頭を、着順は問わずに当てる馬券。
回収率:賭けた金額に対して、戻ってきた金額の割合。100%が収支トントンで、100%を下回れば赤字。この記事で「回収率68.3%」と書いたら、1万円賭けて6,830円しか戻らなかった、という意味。
的中率:買った点数のうち、実際に当たった点数の割合。
信頼区間(CI):「本当の値がだいたいこの範囲におさまっていそうだ」という統計の言い方。「90%信頼区間 [-38.7, +10.4]」と書いたら、真の差は-38.7〜+10.4の間にある可能性が高い、という意味。この範囲が0をまたいでいる場合、「効果があるともないとも言い切れない」ということになる。この記事ではその都度きちんと書く。
pt(ポイント):パーセンテージ同士の差を表す単位。65%と70%の差は5pt。
36レースは、同じ難易度ではない
競馬を予想するとき、多くの人は最初に「どの馬が勝つか」を考える。
私もそうだった。出馬表を開いて、前走を見て、調教を見て、◎を打つ。18頭立ての未勝利戦でも、8頭立てのオープン特別でも、やることは同じだった。
でも、ある時から違和感があった。
土日のJRAは、3場開催なら36レース。この36レースを、私たちは同じ姿勢で予想している。同じだけ時間をかけて、同じように印を打って、同じように買う。
けれど実際には、1番人気が半分近く勝つレースと、10番人気が平然と3着に飛び込んでくるレースが、同じ土俵に並んでいる。
日曜(8/23)の36レースを、あとから馬連配当で並べてみた。
- 8頭立ての障害戦:馬連 190円
- 16頭立ての最終レース:馬連 103,090円
同じ日の、同じ「1レース」だ。500倍以上ちがう。
前者に◎を打つ作業と、後者に◎を打つ作業は、本来まったく別のものだ。にもかかわらず、予想する側はどちらにも同じ精度を要求されているつもりでいる。これはおかしい。
「荒れそう」は、事後にしか使われていない
「堅い」「荒れる」という言葉は昔からある。でも、たいていは事後的に使われる。荒れたレースを見て「荒れましたね」と言う。それは分析ではない。
必要なのは、発走前に、数字で言えることだ。
そこで私は、馬を見る前に、レースそのものを採点することにした。
荒れ度 ★1〜★5
作ったのは「荒れ度」という指標だ。1レースを★1〜★5の5段階で判定する。星が多いほど荒れやすい。
荒れ度目安想定決着
★☆☆☆☆鉄板1〜3番人気で決着濃厚
★★☆☆☆堅め人気サイド中心、ヒモ荒れ程度
★★★☆☆混戦中穴(4〜8番人気)が絡む
★★★★☆波乱含み二桁人気の激走警戒
★★★★★大荒れ警報万馬券・大万馬券ゾーン
内部では100点満点の連続スコアで採点していて、公開するときに5段階の星へ丸めている。星の実体は「10番人気以下が3着以内に入る確率」の推定帯だ。★は感覚ではなく、この確率に対応している。
内部スコアの配点は5つのブロックに分かれている。
A 市場混戦度(35点)1番人気の市場確率、上位3頭の確率合計、オッズ分布のエントロピーを見る。
B 市場乖離(25点)上位人気馬が自分の評価では何位か。自分のTOP3に6番人気以下が何頭いるか。
C 人気馬脆弱度(15点)人気馬側の不安材料(休み明け、距離大幅変更、前走大敗など)。
D 穴馬層(15点)買える穴馬候補が何頭いるか。
E 不確実性(10点)頭数、想定逃げ馬の数、馬場状態、キャリア3戦以下の比率。
考え方はシンプルで、AとEは「市場とコースの構造」、BとCとDは「市場と自分の評価がどれだけズレているか」を見ている。
前者だけなら誰が計算しても同じ数字になる。後者が入ることで、はじめて「自分にとって荒れそうなレース」になる。
算出の順番のほうが、配点より大事
ここで順番を間違えると、指標そのものが意味を失う。
オッズを見てから馬を評価したら、「市場とのズレ」は自分が作り出したものになってしまう。人気馬を見て「これは危ないかも」と思ってから低く評価すれば、B(市場乖離)はいくらでも大きくできる。それは指標ではなく、後付けの言い訳になる。
なので手順を固定した。
- 出馬表の段階で、各馬に独自の総合評価をつける。このとき人気とオッズは一切見ない
- オッズが出そろった時点で、市場と自分の評価を突き合わせ、荒れ度を算出して★に変換する
- ★4以上を「分析対象」として、そこだけ深く掘る。それ以下のレースには時間をかけない
- レース後に、実着順と3連複払戻を入力する
- 星の段階ごとに、実際の波乱率を集計する
1と2の間に線が引いてあることが、この指標の生命線だ。
分析対象の線(★4、内部スコア70点相当)は、検証期間中は動かさない。うまくいかないたびに閾値をいじると、何を検証しているのか分からなくなる。そして判定は、300レース以上たまるまで出さない。
何を「荒れた」と呼ぶかを、先に決めておく
指標を作るとき、いちばん大事なのは点数の付け方ではない。正解の定義だ。ここを曖昧にすると、あとからいくらでも都合よく解釈できてしまう。
なので先に固定した。
波乱 = 6番人気以下が3着以内大波乱 = 3連複の払戻が30,000円以上
この定義は、結果を見てから変えない。
前身の指標で、すでに分かっていること
実は荒れ度には前身がある。もっと単純な、頭数とレース番号だけで引く2軸の表だ。過去6,546レースから「10番人気以下が3着以内に来た率」を集計し、それを星に割り付けてある。
頭数\時間帯1〜4R5〜8R9〜10R11R以降11頭以下★1 (2.7%)★1 (3.7%)★2 (5.2%)★2 (6.6%)12〜14頭★2 (14.0%)★3 (17.0%)★3 (20.3%)★4 (22.3%)15頭以上★4 (22.4%)★4 (24.3%)★5 (28.0%)★5 (35.6%)
この2軸だけで、実測値は13倍ひらく。★1の少頭数・午前中なら37回に1回、★5の多頭数・メイン以降なら3回に1回強。
先週日曜の36レースを星で分け、実際の馬連配当を見るとこうなった。
- ★1〜★2(15レース) … 馬連の中央値 1,170円/最高 13,410円
- ★3(7レース) … 馬連の中央値 1,790円/最高 45,860円
- ★4〜★5(14レース) … 馬連の中央値 3,870円/最高 103,090円
中央値で3.3倍。その日いちばん星が重かった★5(16頭・最終レース・内部35.6%)の中京12Rが、その日の最高配当103,090円を出した。1着は9番人気、2着は単勝150.9倍。
方向としては、機能している。
ただし、同じ日にこういう事実もある。
馬連が1万円を超えた6レースのうち、3本は★4以上だったが、2本は★2以下だった。
- 新潟3R(12頭・★2)→ 13,410円
- 中京5R(11頭・★1)→ 11,380円
荒れ度は予言ではない。★1のレースが荒れることは起こる。★1でも100回に3〜4回は起こると、星の中身の数字自体が言っている。
そして、いちばん重要な失敗
前身の指標を作ったとき、私は当然こう考えた。「荒れるレースでは賭け金を減らし、堅いレースに寄せれば、回収率が上がるはずだ」と。
13開催日・329レース・1,932点で測った。配分の影響を消すため全部100円均等にして、星の帯だけで比較した。
- ★1〜★2(95R) … 回収率 77.2%[90%CI 58〜97]/レース的中率 51%
- ★3(89R) … 回収率 87.7%[90%CI 60〜121]/レース的中率 42%
- ★4〜★5(145R) … 回収率 68.7%[90%CI 52〜86]/レース的中率 34%
的中率は狙いどおりきれいに下がる。★1〜★2の51% → ★4〜★5の34%。
しかし回収率の差、★4以上 vs ★3以下は -13.5pt、90%信頼区間 [-38.7, +10.4]。0を跨いでいる。日ごとの符号も13日中6日で、コインを投げているのと変わらない。しかも前半6日は★4以上のほうが+24.4pt良く、後半7日は-62.5pt悪い。符号が完全に反転している。
理由は、あとから考えれば単純だった。
荒れ度は「10番人気以下が来る確率」であって、「自分の買い目が外れる確率」ではない。的中率は確かに下がる。だが荒れた分だけ配当が高くなり、回収率では相殺される。市場はとっくに織り込んでいる。
だから私は、荒れ度を賭け金に連動させる実装を見送った。使い道は「このレースは的中率が構造的に低い土俵だ」と自分に警告することだけだ。
まず問うのは「儲かるか」ではない。「星が増えるほど、実際の波乱率が上がるか」だ。そこが崩れたら、配点の議論に進む意味がない。
レース後に、全部検証する
結果が出たら突き合わせる。先週日曜の実弾成績はこうだった。
- 対象 … 28レース・124点(すべて馬連)
- 的中 … 8点(6.45%)
- レース的中率 … 28.57%(8/28R)
- 投資 … 139,200円
- 払戻 … 95,080円
- 回収率 … 68.30%(90%CI 31〜108%)
負けている。馬連の理論払戻率77.5%を下回っている。
信頼区間が31〜108%と広いので「1日ぶんではノイズの範囲」とも言えるが、そう言って逃げないために毎回記録する。
外れた分析も消さない
ここが、このnoteでいちばん書きたいことだ。
私は検証結果を「意思決定ログ」というファイルに全部残している。採用した施策だけでなく、否定された仮説と、その反証の中身をそのまま書いている。
たとえば直近だと、こういう記録がある。
1. 荒れ度連動の資金配分 → 不採用。 上に書いたとおり、効果が存在しなかった。
2. 「前走で不利があった馬は次走で走る」→ 反証。 一度は+14.9ptの効果が出たと結論した。しかし対照群の取り方が誤っていた。「不利と書かれた馬」を「全出走馬の平均」と比べていたが、そもそもコメントが付く馬は人気も実績も上の馬だった。正しい対照群(コメントは付いたが不利語がない馬)と比べ直すと、効果は+3.1pt、信頼区間 [-3.1, +9.3] で0を跨いだ。効いていたのは「不利があったこと」ではなく「記事に取り上げられるような馬だったこと」だった。
公開するもの
- 発走前の荒れ度(★1〜★5)と、その日の予想
- レース後の突き合わせ(的中率・回収率・信頼区間つき)
- 検証してダメだった施策と、なぜダメだったかの中身
儲かる買い目を売る場所ではない。というより、現時点で私は勝てていない。上に書いたとおり、先週日曜の回収率は68.3%だ。
公開するのは研究過程そのものだ。
競馬には、検証されないまま語り継がれている「常識」が多い。私はそれを一つずつ数字にして、その多くが否定されるのを見ている。否定された記録のほうが、当たった予想より役に立つと思っている。
読んだ人に持ち帰ってもらえるものがあるとすれば、買い目ではない。「その主張は、何と比べて、何レースぶんで確かめられたのか」と問い返す癖だと思う。この問いは競馬に限らず効く。そして自分の思いつきに対して最初に向けるべき問いでもある。
うまくいかなかった過程を、そのまま置いていく。
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