「もっと早く終わらせないと」
仕事が進まないとき、僕たちは自分の気合や集中力を疑います。
眠気を飛ばすためにコーヒーやエナジードリンクを飲み、無理に作業スピードを上げようとする。
でも、気合だけに頼る方法は長く続きません。
読書メモを見返していると、作業速度は本人の意志だけで決まるわけではないことを示す、興味深い実験がありました。
実験で変えたのは、能力でも、報酬でもありません。
目の前にある時計の針が進む速さでした。
今日のONE IDEA 作業速度を変えたいときは、気合を入れる前に、時間がどう見えるかを変えてみる。
時計の針を1.5倍速にした実験
東京大学の伴祐樹さんらは、時計の表示速度が単純作業の処理速度に影響するかを調べました。
実験に参加したのは、キーボードを見ずにタイピングできる21〜24歳の6人です。
参加者は、30分間の文章入力作業などを、次の3つの条件で行いました。
- 時計の針を通常の3分の2の速さで動かす
- 時計の針を通常の速さで動かす
- 時計の針を通常の1.5倍の速さで動かす
実際に流れる時間は同じです。
参加者の前に見えている時計の針だけが、遅くなったり速くなったりします。
結果は、時計が速く進む条件ほど、入力された文字数が多くなる傾向を示しました。

入力文字数は、
1.5倍速の時計 > 通常の時計 > 3分の2倍速の時計
という順番になり、各条件の間で約8%、およそ400文字の差が見られたと報告されています。
一方、入力の質には大きな差がなく、本人が感じた疲労度やリラックス度にも明確な変化は見られませんでした。
時計の針が進む速さを変えただけで、作業量に違いが生まれたのです。
「脳が速くなった」とまでは言えない
この結果を見ると、
「時計を速めれば、脳の処理速度も上がる」
と言いたくなります。
しかし、この実験で測定されたのは文章の入力数や質、主観的な疲労感などです。
脳の活動そのものを測定し、「脳の処理速度が上がった」と確認したわけではありません。
また、参加者は6人で、行われたのも文章入力という単純作業です。
企画を考える仕事や、難しい判断が必要な仕事でも同じ効果が出るとは限りません。
それでも、この実験から分かることがあります。
僕たちの作業ペースは、本人の能力や意志だけで決まっているわけではないということです。
目に入る時計の動きのような、周囲の小さな環境にも影響される可能性があります。
時間に追われるのではなく、時間の見せ方を利用する
作業が進まないとき、僕たちはすぐに、
「自分は集中力がない」「もっと頑張らなければいけない」
と考えてしまいます。
でも、努力を増やす前に変えられるものがあります。
机の上に何を置くか。
時間を見えるようにするか。
締め切りまでの残り時間を、どのように認識するか。
人は環境から完全に自由ではありません。
だからこそ、環境に振り回されるだけでなく、自分が動きやすいように環境を使うこともできます。
この実験の面白さは、「時計を1.5倍速にすれば、どんな仕事も速くなる」という裏技にあるのではありません。
作業の進み方は、気合より先に環境で変えられるかもしれない。
そこにあります。
自分の作業でも、小さく確かめてみる
いきなり家の時計を1.5倍速に変える必要はありません。
正しい時刻が分からなくなれば、予定管理に支障が出てしまいます。
まずは、単純な作業を一つ選んで、自分が時間をどのように見せると動きやすいか試してみます。
例えば、
- メールを整理する
- 読書メモを入力する
- 書類を決まった場所へ分ける
- 記事の誤字を確認する
といった、作業量を数えやすいものです。
今日は15分間、残り時間が見えるタイマーを目の前に置いて作業する。
別の日には、タイマーを見えない場所に置いて同じ作業をする。
そして、
- どれだけ進んだか
- ミスは増えなかったか
- 疲れ方は変わったか
を比べてみる。
研究結果をそのまま信じるだけでなく、自分にも合うかを小さく試す。
それが、本の知識を自分の生活で使う第一歩です。
作業が遅いとき、自分を責める必要はありません。
気合を入れ直す前に、一度だけ周りを見てみる。
変えるべきなのは、自分ではなく、目の前の環境かもしれません。
💡 今日から使える武器
15分だけ、残り時間が見える状態で単純作業を行い、普段との違いを記録する。
読書から得た知識と自分の経験を組み合わせ、今日使える「ONE IDEA」を発信しています。
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参考:
- 堀田秀吾『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード…科学的に証明された すごい習慣大百科 人生が変わるテクニック112個集めました』(SBクリエイティブ)
- Ban, Y. et al.(2015)“Improving Work Productivity by Controlling the Time Rate Displayed by the Virtual Clock”
