匂いは記憶だ。言葉は要らず、本能は正直だ。俺がさと子の何に惹かれているかといえばその一つに間違いなく、匂いがある。
香水や柔軟剤のような人工的なものじゃなく。彼女自身の身体から染み出てくる、あの独特の温度と湿度を含んだ香り。それを嗅ぐと、妙に安心する。
帰り際、軽くギューするときに、彼女が悪戯っぽい目をして「あ、」と言う。そんなとき、彼女のアソコを直接触ることがある(けっこうたくさんw)。
指ですくい取る体液の温もりと匂い。それを味わって嗅ぐと、なんとも落ち着く。これは興奮ではなく、安堵だ。俺にとってあの香りは、媚薬のようなものだ。
なぜ匂いにこんな力があるのか、気になって調べた。
そしたら嗅覚は五感のなかで、唯一感情を司る脳の領域に直接つながっているという。つまり、匂いは理性を通さず脳に届くということだ。科学的に見ても、それは本能と記憶のスイッチとなっているらしい。
また愛液に含まれる水分や乳酸、微量のアミノ酸などの成分が揮発するとき、わずかな香気が生まれる。けれど、その匂いはとても儚い。空気や温度、時間の影響ですぐに変わり、同じ香りは二度と再現できない。
ちょうどこの記事を書いた日も指にたっぷり絡めてバイバイしたんだけど、先に舐めたら匂いが薄くなってしまってやけに悲しい気持ちになってしまった。
だからこそ思った。この匂いを保存できないだろうかと。
いろいろ調べてみたけど、現実は厳しい。体液は腐敗しやすく、pHや成分が変化してすぐに性質を失う。冷蔵しても、冷凍しても、元の香りは戻らない。結局、残すことができるのは液体ではなく「記憶」だけだと知った。
もしほんの少しでも香りを留めたいなら、布や紙に移しておく方法があるという。コットンに移せば一日か二日は残るらしい。でも、完全には無理なようだ。結局のところ、残せるのは感覚そのものではなく、「感覚を呼び戻す記憶」だけだ。だから俺は写真が好きなのかもしれないし、彼女のことをよく撮るんだと思う。
いまのところそれで十分だと思うことにしている。
俺はあの匂いを嗅ぐたびに、心のなにかが整う。消えてしまうからこそ、また確かめたくなる。だから触るし弄る。匂いは、つながりの証なんじゃないかな、と。
