落ちてくる FALLING — THE STORY OF TETRIS ①
発見の処方箋
1984年、モスクワ。ソ連の研究者が、昼休みに作ったゲームが、冷戦を越え、国境を越え、世界で最も遊ばれたゲームになった。——誰も、止められなかった。
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Episode 01 昼休みの発明
1984年、モスクワ。
アレクセイ・パジトノフは、ゲームを作るつもりはなかった。ただ、暇だった。
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1984年6月。モスクワ。ソビエト連邦科学アカデミーのコンピュータセンター。
アレクセイ・パジトノフ、二十九歳。人工知能の研究者。仕事の合間に、彼はよくパズルで遊んだ。幼い頃から好きだった「ペントミノ」——五つの正方形を組み合わせたブロックパズル——をコンピュータ上で再現しようとした。
しかし五種類では複雑すぎた。四つにしよう。四つの正方形からなるブロック——「テトロミノ」——を使えばいい。
ブロックが上から落ちてくる。隙間なく並べると、その行が消える。消えないと積み上がって、やがて限界が来る——。
最初のプログラムは、数週間で動いた。
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パジトノフは同僚に見せた。
同僚は画面を見て、黙った。そして、プレイし始めた。一時間後、まだやっていた。
「なんだこれは」
パジトノフも、うまく説明できなかった。面白い理由が、わからなかった。ただブロックを積むだけのゲームが、なぜここまで止められないのか。
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プログラムはコピーされ、研究所内に広まった。科学アカデミーのコンピュータが、仕事そっちのけでテトリスに占領された。上司が怒鳴った。それでも誰も止めなかった。
パジトノフはゲームに名前をつけた。「テトロミノ」と「テニス」を組み合わせた造語——テトリス。
彼はまだ知らなかった。このゲームが彼の手を離れ、世界中を飛び回ることを。そして彼自身が、長い間、そこから何も得られないことを。
── 第2回「鉄のカーテンを越えたブロック」へ続く
