【エッセイ】この世の出会いはすべて同床異夢
ミカジー
自分は生来の気質なのか人の話を聞くのが好きだ。
20代から50歳になるいままでもっぱらナンパ的に知り合った匿名の女にもつい余計なことまで聞いてしまう。
知的好奇心……いや性癖だと思う。
匿名の女に会って必ず聞くのはいままで会った男のなかで最も忘れ難いセックスした相手のこと。
その人とセックスした場所は?
その男とどうしてセックスすることになったの?
ある程度、打ち解けると女は意外にも積極的に話してくれる。
リアルのコミュニティで出会う男たちには話さないことを教えてくれる。
おそらくナンパ的に出会った自分、つまり二度と会わなくてもいい男だから話してくれるのかもしれない。
とはいえ、女はつねに嘘つき。
だからこれも真実かどうかはわからない。
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話は変わる。
世の女たちの最初のセックス相手はどういう男なのか。
これも自分には興味深いことで上述の質問の次に聞くことが多い。
自分が聞き出した範囲では、ほぼ8割方はリアルなコミュニティで知り合った男友達の延長とかが多い。幼なじみ、クラスメイト、女ともだちの知り合いなど……。
リアコミュ繋がりで処女を捨てるのはある意味自然だしその多くは「彼氏-彼女」という恋愛関係を前提としてる。
しかし、最初のセックスに至る過程を聞けば、男のウチに連れ込まれた後になし崩し的にヤラれてるケースが多い。
*自分の出会ってきた女たちの層にバイアスがかかってる可能性はあり、これらのケースは一般的ではないかもしれない。
こういう女たちは若さゆえの未熟さもあり、そして「彼氏になってくれるからいいかな…」などと思ったりして【最初の体験】をことさらに意味付けをせずにやり過ごしていく。
女は男が思う以上に現実的(ドライ)だ。
ただそのなかの一部の女には感受性が強すぎるのかファースト・インパクトを事後的に正当化できない少数派もいる
これらの女たちは、男に組み敷かれて屈服した体験をどういうかたちで心理的処理をするのか?
自分はそのことが気になった。
文芸などの表現世界で昇華する女。
政治的に先鋭化してフェミ的復讐に転じる女。
どうせそういうものならばと自らの"オンナ性"を高く売ってやろうと走る女。
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こうした女たちはある意味、恋愛の理念に裏切られてしまったと言える。
恋愛は宗教体験を除けば「自分のすべて」を受け入れてくれるものだ。
恋愛は、かわいくない自分、ダメな自分、弱い自分でも「あなたがあなたでいる限り認める」という全的承認をもたらすもの。
この手の恋愛至上主義は、しかし、必ず裏切られる。
そして、多くの女たちはありうべき理想の恋愛幻想から醒めて現実と向き合う。数少ない少数派を除いて——。
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恋愛やセックスがもたらす多幸感は自然科学の文脈から見れば脳内伝達物質が引き起こすイリュージョン(幻覚)にすぎない。
それはそのとおりではあるけれど〈この世界〉は大学研究機関の実験施設ではない。
そして、私たちは実験動物のラットではない。
〈この世界〉に生まれ落ちてから死ぬまでイリュージョンのなかにいる。
イリュージョンのなかで燃え上がった火はイリュージョンのなかで消さねばならない。
〈この世界〉での出会い、恋人も夫婦もそして家族ですらイリュージョンとイリュージョンの交差でしかない。
どこまで行っても同床異夢なんだと思う。
(終わり)