技術士R06【1203農業部門-農業農村工学】Ⅲ-1|1800字では伝えきれない!骨太論述と全詳解|用水パイプライン化と管理・長寿命化対策
小泉士郎🎈|技術士(建設・総監部門)×セルフケア
🔷R06_Ⅲ-1|過去問題
農業者の高齢化や労働力不足が進み、また、農業構造や営農形態が変化する中、水田地帯において水管理の省力化を図りつつ多様な水需要に対応していくうえで、用水路のパイプライン化は有効な手段である。しかしながら、パイプライン化に当たっては、水管理方式やその操作・運用等の見直しを行う必要があり、パイプラインの特性を踏まえた施設の長寿命化や防災対策にも配慮する必要がある。このような状況を踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)用水路のパイプライン化を進めるに当たり、計画・設計及び整備後の管理において、農業農村工学の技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を、専門技術用語を交えて示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
「日本技術士会」HP
🔷R06_Ⅲ-1【1.5倍論述のための】骨子例
(1)パイプライン化の多面的課題
〇観点1:水理学的特性への対応
・水撃作用や静水圧変動への対策
・流況モニタリング体制の構築
〇観点2:営農形態変化への対応性
・多様化する水需要への柔軟な対応
・統合的水管理への転換と合意形成
〇観点3:維持管理体制の確立
・非破壊検査技術と人材育成
・予防保全型管理への転換
(2)最重要課題およびその解決策
▼最重要課題
・水理学的特性への対応の重要性
▽解決策1:水撃圧対策の実施
・水撃圧の定量評価と緩和装置の配置
・制水弁の開閉制御機能の付加
▽解決策2:圧力制御システムの導入
・減圧弁・分圧水槽による圧力管理
・遠方監視制御システムとの連携
▽解決策3:水理解析に基づく最適設計
・定常流・非定常流の数値シミュレーション
・管径最適化とサイフォン部の安全性検証
(3)解決策実行に伴うリスク及びその対策
◇リスク及びその対策1:施設の複雑化による維持管理負担の増大
・維持管理マニュアルのデジタル化推進
・遠方監視制御と技術研修による体制強化
◇リスク及びその対策2:初期投資コストの増大による事業推進の停滞
・ライフサイクルコストによる経済性評価
・補助事業活用と段階的整備による負担軽減
◇リスク及びその対策3:想定外事象への脆弱性
・耐震設計と管路のブロック分割
・漏水検知システムと事業継続計画の整備
🔷R06_Ⅲ-1【深掘り考察】設問(1)解答
(1)パイプライン化の多面的課題
〇観点1:水理学的特性への対応
パイプラインは開水路と異なり管内を満水状態で流れるため、急激な流速変化に伴う水撃作用や地形の高低差による静水圧変動など、動水理学的特性への対応が求められる。急激な弁操作や揚水ポンプの急停止により管内に正負の圧力波が伝播し、管路破損や継手部離脱などの重大事故につながるリスクがある。地形の高低差が大きい地域では管路内に過大な静水圧が作用し、管体や接合部に設計許容応力を超える負荷がかかる懸念がある。サイフォン部では負圧が発生しやすく、空気混入による通水阻害が生じる可能性がある。開水路では目視可能であった流況が管路内では直接確認できないため、流量・圧力のモニタリング体制の構築が重要な課題となる。
〇観点2:営農形態変化への対応性
水田農業では水稲単作から水田の畑地化、転作作物の導入など営農形態が多様化しており、用水需要パターンが複雑化している。パイプラインは開水路に比べて水量調整の自由度が低く、多様化する末端水利需要や急激な需要変動に対応するための動的制御が困難となる。大区画化やスマート農業の推進により圃場単位での精密な水管理が求められる一方、パイプラインシステム全体としての調整機能確保が課題である。地域営農組織や担い手農家への農地集積が進む中、従来の水路番による管理からデータに基づいた統合的水管理への転換が必要となり、その合意形成と仕組みづくりが課題となる。将来の農業構造変化や作付体系変更に対応できる柔軟性を持った施設計画と段階的整備手法の検討が重要である。
〇観点3:維持管理体制の確立
パイプラインは埋設構造であるため、漏水や損傷箇所の発見が困難であり、非破壊検査技術を用いた早期診断技術の確立とその技術を担う人材育成が不可欠である。開水路と異なり泥土堆積や雑草繁茂は少ないが、管内へのスケール付着や異物混入による通水断面減少が長期的に生じる。空気弁、制水弁、減圧弁などの付属施設の定期的点検・整備が不可欠であり、専門的知識を持つ技術者の確保が課題となる。農業者の高齢化や兼業化による水管理組織の担い手不足に対応するため、遠隔監視・遠隔操作システムの導入とそれを活用できる専門性の高い管理者の育成と組織体制再編が急務である。施設の機能診断に基づくストックマネジメントの導入により予防保全型の維持管理へ転換し、ライフサイクルコストの低減を図る必要がある。
🔷R06_Ⅲ-1【重要課題特定と解決策の提示】設問(2)解答
(2)最重要課題およびその解決策
