1. 面接メモがバラバラで比較できない、その原因
「Aさんは主体性があって良さそう」「Bさんは技術は強そうだけど、チームに馴染めるかは読めない」——採用会議の直前に、面接官ごとに書かれたメモを並べて、こんなふうに困ったことはありませんか。
いざ応募者を横に並べて比べようとすると、書式も言葉遣いもバラバラで、どこを見ればよいか分からなくなる。
これは、多くの採用現場で起きている典型的なつまずきです。
たとえば、3人の面接官が同じ応募者に会ったとします。
- 面接官Xさんのメモ:「主体性あり。好印象。」
- 面接官Yさんのメモ:「・Java経験3年 ・前職でリーダー経験 ・質問は多め」(箇条書き)
- 面接官Zさんのメモ:「落ち着いた話し方で、こちらの質問にも丁寧に答えてくれた。ただ、転職理由をもう少し深掘りしたかった。」(長めの感想)
この3つをただ並べても、「XさんとYさん、どちらがこの求人に向いているか」は見えてきません。
理由はとても単純で、書かれている項目が違うからです。
Xさんは印象、Yさんは経歴、Zさんは受け答えの様子。
それぞれ別のことを書いているので、同じものさしで比べられません。
採用会議では、複数の応募者を同じものさしで比べる必要があります。
しかし、メモの段階で項目が揃っていなければ、比較はどうしても記憶と勘に頼ったものになります。
面接評価シートの設計について解説する記事でも、評価項目と評価基準を事前に統一しておくことが、面接官の間の評価のブレを抑えるために重要だと指摘されています。
つまり、書式がバラバラなのは、書く人の努力不足ではなく、そもそも共通の枠が決まっていないことが原因なのです。
もう一つの困りごとが、引き継ぎです。
一次面接を担当した人が別の部署や二次面接の担当者に状況を伝えるとき、メモをそのまま渡しても意図が伝わりにくい。
「なぜこの人は合格なのか」「次に何を確認すべきか」を口頭で説明したり、その都度ゼロから文章を書き起こしたりする手間が発生します。
これが積み重なると、引き継ぎのたびに30分、1時間と時間が溶けていきます。
この記事で目指すゴール
この記事が目指すのは、次の2点です。
- 面接官ごとに書式が違う面接メモを、1つの横並びの比較表にまとめる
- 引き継ぎにそのまま使える短いコメント文(誰が読んでも「事実・評価・次のアクション」が分かる文章)を用意する
やることはシンプルです。
手元にある面接メモをパソコンで文字にして、AIチャット(ClaudeやChatGPTなどの、文章でやり取りする無料のチャットサービス)に貼り付け、「比較表とコメント文に整えてください」とお願いするだけ。
特別なソフトのインストールは不要で、APIやコード、コマンドの知識も必要ありません。
必要な道具は、AIチャットの無料アカウントと、パソコン(またはスマートフォン)のブラウザだけです。
費用はかかりません。
この記事は、次のような方を対象にしています。
- 複数の応募者の面接メモを比較・引き継ぎする人事・採用担当者
- 現場マネージャーで、面接後の情報整理と引き継ぎを担当している方
- エンジニアではないが、AIチャットを使って採用業務を少し楽にしたい方
一方で、この記事では扱わない範囲もはっきりさせておきます。
面接でどんな質問をするかの設計や、最終的な採否の判断そのものは対象外です。
あくまで「面接後に残ったメモを、比較しやすい形と引き継ぎやすい形に整える」ところまでを扱います。
判断の中身は、面接官と採用チームの皆さんが行うものです。
始める前に押さえておきたいこと
ここから先の実演では、応募者名・会社名・面接内容をすべて架空のサンプルとして使います。
「Aさん」「Xさん」のような記号的な呼び方と、実在しない面接内容で手順を追います。
実際に自分の業務で使うときは、実在の応募者情報をAIチャットに入力することになりますから、その際の注意点は後の章で詳しく説明します。
まずは架空のデータで、流れと手触りをつかんでください。
準備するものは、次の3つだけです。
- AIチャットの無料アカウント(すでに持っているもので構いません)
- 面接メモのテキスト(手書きなら文字起こし、パソコン入力済みならそのまま使えます)
- 面接官の間でそろえておきたい評価項目の一覧(これもこれから一緒に作っていきます)
面接メモを残すタイミングについても、少しだけ触れておきます。
面接評価コメントシートの運用を解説する記事では、面接の直後、できれば当日中に一次記録をつけておくことが勧められています。
時間が空くと記憶が薄れ、事実と印象が混ざりやすくなるからです。
この記事の手順でも、「面接直後にメモを取り、その日のうちに文字にする」という流れを前提にしています。
すでに手元にメモがある方は、そのまま読み進めていただいて構いません。
次の章では、比較表と引き継ぎコメントが具体的にどんな形になるのか、そして「メモをテキストにする→AIチャットに貼る→比較表とコメントに整えてもらう」という全体の流れを、ビフォー・アフターで見ていきます。
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面接メモの整理って、結局AIに丸投げするってこと?なんか不安なんだけど…

丸投げじゃないよ。メモに書かれていない内容を勝手に補わせないルールを決めて、整理だけをAIに頼む。判断は人がするところがポイント。
2. 比較表と引き継ぎコメントの全体像
前の章では、面接メモがバラバラだと比較も引き継ぎも大変になる、という課題を見ました。
この章では、それをどういう形に整えればよいのか、完成イメージを先に描きます。
ゴールが見えていると、この後の作業がぐっと楽になります。
引き継ぎコメントの型:「事実→評価→次のアクション」
まず押さえたいのが、評価コメントの型です。
人材管理の分野でよく紹介されている考え方に、「事実→評価→次のアクション」の3つを分けて書く、というものがあります(出典: kaonavi の評価コメントの書き方に関する解説記事)。
- 事実: 候補者が実際に話したこと、行ったこと
- 評価: 事前に決めた基準に照らして、どう判断したか
- 次のアクション: 次に何をするか(二次面接で確認する、推薦する、など)
この型が優れているのは、「主体性あり」のような一言では失われてしまう情報を、3つの層に分けて残せる点です。
「主体性あり」と言われても、「何を根拠に?」「基準とどう照らした?」「で、次はどうするの?」が分かりません。
逆に3層に分けて書いてあれば、引き継ぎを受けた人はすぐ状況を飲み込めます。
1項目あたりの分量は、150〜300字程度が目安とされています。
ただし、これはあくまで目安です。
短くても3要素が揃っていれば十分伝わりますし、長ければよいわけでもありません。
実際に書いてみると、この目安は「3要素を全部書くと、だいたいこれくらいになる」という感覚に近いものです。
比較表に必要な共通項目
次に、横並びの比較表です。
面接官ごとに項目がバラバラだと比較できないので、共通の「ものさし」を用意します。
最低限そろえたい項目は、次のとおりです。
- 応募者名(または管理番号)
- 面接日、担当した面接官の名前
- 評価項目ごとの点数(例:5段階)と、その根拠となる短いコメント
- 総合コメント(「事実→評価→次のアクション」の型で書いた文章)
- 次のアクション(二次面接の日程、追加確認事項など)
評価項目のほうは、面接の前にチームで決めておくのが理想です。
たとえば「技術スキル」「コミュニケーション」「チーム適性」「主体性」「カルチャーフィット」といった具合に、5〜6個に絞ると扱いやすくなります。
項目を事前に統一しておけば、面接官ごとの評価のブレを抑えられるという考え方は、面接評価シートの設計に関する記事でも紹介されています(出典: digireka-hr の面接評価基準に関する解説記事)。
ここで大事なのは、評価項目を完璧に決めることではなく、少なくともチーム内で「同じ項目で見る」と合意することです。
項目数が多すぎると、かえって埋まらない欄が増えてしまうので、まずは5〜6個で始めるのがおすすめです。
運用しながら「この項目は機能していないな」と気づいたら、次の採用サイクルで見直せば十分です。
全体の流れ:3ステップ
ここまでの内容を踏まえて、実際の作業の流れを整理します。
大きく3ステップです。
ステップ1:メモをテキスト化する 手書きのメモや、頭の中に残っている印象を、パソコンの文字にします。箇条書きで構いません。整った文章にする必要はありません。「事実」と「感想」が混ざっていても大丈夫です。むしろ、混ざった状態のまま貼り付けて、AIチャットに整理してもらうのがこの手順の狙いです。
ステップ2:AIチャットに貼る テキストにしたメモを、AIチャットの入力欄に貼り付けます。あわせて「どんな項目で比較表を作りたいか」「コメントは事実・評価・次のアクションの3つに分けてほしい」といったお願い(プロンプト)を一緒に伝えます。プロンプトの具体的な書き方は後の章で扱いますが、考え方は「作業の指示書」を一緒に渡すイメージです。
ステップ3:比較表とコメントに整えてもらう AIチャットが、バラバラのメモを項目ごとに整理し、表の形とコメント文を返してくれます。出力を確認し、事実と違う箇所や、点とコメントが食い違っている箇所があれば、追加で指示を出して直します。
ビフォー・アフターで見る変化
同じ3人のメモが、この流れを通すとどう変わるかを見てみましょう。
ビフォー
- Xさんのメモ:「主体性あり。好印象。」
- Yさんのメモ:「・Java経験3年 ・前職でリーダー経験 ・質問は多め」
- Zさんのメモ:「落ち着いた話し方で、こちらの質問にも丁寧に答えてくれた。ただ、転職理由をもう少し深掘りしたかった。」
- 状態:3人分のメモが別々の形式。比較したい項目が揃っていない。引き継ぎのたびに口頭で補足説明が必要。
アフター
- 応募者ごとに、同じ評価項目(技術スキル、コミュニケーション、チーム適性、主体性、カルチャーフィット)で点数とコメントが並ぶ
- コメントは「事実→評価→次のアクション」の3層で統一されている
- 引き継ぎたい人に表と短いコメントをそのまま渡せば、追加説明なしで意図が伝わる
- 会議では、応募者を左から右に並べて見比べるだけで比較が成立する
この流れで得られること
この3ステップを回すと、次のような効果が期待できます。
- 比較の時間が減る:項目が揃っているので、目線を動かすだけで違いが見える
- 引き継ぎの説明が減る:コメントの型が統一されているので、補足説明が不要になる
- 面接官の負担が減る:メモは箇条書きのままでよく、整える作業はAIチャットに任せられる
一方で、注意点もあります。
AIチャットは、指示した内容に対してそれらしい文章を返しますが、渡したメモに書かれていない事実を勝手に補うことはありません。
逆に言えば、メモに事実が抜けていれば、出力も薄いものになります。
第4章で扱う「評価項目をそろえる」ステップと、第7章で扱う注意点を押さえておけば、この落とし穴は避けられます。
次の章では、いよいよ実際に手を動かします。
架空の応募者1名分のメモをAIチャットに貼り付けて、簡易版の比較メモを作ってみましょう。
無料アカウントだけで完結する範囲です。

3. 無料でできる、1名分の簡易比較メモを作ってみる
ここまでで、全体の流れは見えました。
実際に手を動かして、1名分だけ試してみましょう。
架空の応募者「Aさん」の面接メモを例にします。
Aさんのメモ(架空、面接官が箇条書きで残したもの)
・前職で顧客対応を1日30件ほど処理していた
・質問は的を射ていて、こちらの説明の矛盾も指摘してきた
・繁忙期の残業をチームで乗り越えたと前向きに話していた
・転職理由は「もっと上流の設計に関わりたい」で一貫していた
このメモをAIチャットの入力欄に貼り、次のようにお願いします。
以下はAさんという応募者の面接メモです。
「コミュニケーション」「専門性・実務経験」「自走力・主体性」「成長意欲」の
4項目で簡単な評価メモに整えてください。メモに書かれていない内容は
追加せず、該当する記載がない項目は「記載なし」としてください。
(ここにAさんのメモを貼る)
返ってくる出力の例
- コミュニケーション: 質問は的を射ており、説明の矛盾も指摘できる
- 専門性・実務経験: 前職で顧客対応を1日30件ほど処理
- 自走力・主体性: 繁忙期をチームで乗り越えたと前向きに話す
- 成長意欲: 上流の設計に関わりたいという転職理由が一貫している
4つの箇条書きに整うだけで、面接直後の箇条書きメモよりずっと見返しやすくなります。
複数の応募者を同じ形式で作れば、横に並べて比べられることも、想像がつくはずです。
無料でできることの範囲
ここまでの手順は、AIチャットの無料アカウントだけで完結します。
1名分であれば、特別な準備なしにすぐ試せます。
ただし、実際の採用現場では「3人以上を横並びで比較したい」「点数と根拠をセットで引き継ぎたい」「評価項目が面接官ごとに違っていて、そもそも揃っていない」といった場面に必ず出会います。
このあと有料パートでは、評価項目を面接官間で揃える具体的な手順、3名分の比較表・引き継ぎコメントの完成例とそのまま使える指示文テンプレート、会議前に点数とコメントの食い違いに気づく確認手順、そして評価項目がバラバラなまま貼ってしまったときの立て直し方まで、実際の運用に必要な範囲を一式で用意しています。
