問い合わせ対応、毎回イチから書いていませんか?AIチャットで返信テンプレとエスカレーション基準を作る
AI実用ラボ│Ai活用で入社3年役付社員
1. この記事でできること
同じような質問に、毎回イチから返信メールを書いていませんか。
「料金の支払い方法についての質問」「アカウントの登録方法についての質問」——内容はほぼ同じなのに、相手の名前や状況が少し違うだけで、毎回ゼロから文章を組み立てる。書き終わるころには30分近く経っていて、本来やるべき別の仕事が後回しになる。そんな経験はないでしょうか。
もうひとつの困りごとが、「これは自分で答えていいのか、それとも誰かに確認してもらうべきか」の判断です。判断の基準が自分の頭の中だけにあると、隣の同僚はすぐ上長に確認するのに、自分は抱え込んでしまう。逆に、確認すべき案件を自己判断で返信してしまい、後から訂正の連絡を入れることになる。こうしたばらつきは、担当者個人の努力ではなかなか埋まりません。
この記事は、そんな「毎回イチから」と「判断が属人化」の2つの悩みを、AIチャット(人工知能と文章でやり取りできるサービス)を使って整理するための手順を紹介します。
TL;DR
- 過去の問い合わせ履歴をAIチャットに貼り付けて、よくあるパターンごとの返信テンプレート集を作れるようになります。
- 同じ材料から、「このケースは誰に相談するか」をまとめたエスカレーション(担当者だけでは解決できない問題を、詳しい部署や人に引き継ぐこと)基準表を作れるようになります。
- プログラミングや難しい操作は不要です。文章をコピーして貼り付ける作業だけで進められます。
この記事でできること
読み終わるころには、次の2つが手元に残ります。
1つめは、返信テンプレート集です。「問い合わせの種類」ごとに、件名・書き出し・本文・結びのひな形をまとめたものです。ゼロから考えるのではなく、ひな形を少し直すだけで返信を仕上げられる状態を目指します。
2つめは、エスカレーション基準表です。「こういう問い合わせが来たら、この人に、この方法で、これくらいの時間を目安に相談する」という対応表です。迷ったときの逃げ道も含めて表にしておくことで、判断に使う時間を減らせます。
どちらも、いきなり完璧なものを作る必要はありません。まずはよくある3〜5パターンから始めて、運用しながら育てていく前提で考えてください。
対象読者
この記事は、次のような方を対象にしています。
- カスタマーサポートや問い合わせ窓口で、お客様対応を担当している方
- 社内のヘルプデスクとして、社員からの質問に答えている方
- プログラミングやAPI(外部のサービスとプログラムをつなぐ仕組み)、コマンド操作の知識がほとんどない方
- 「返信文を考えるのに時間がかかる」「判断基準が自分の中にしかない」と感じている方
反対に、すでに社内でテンプレートや基準表が整っていて、それを運用する立場の方には、やや基礎的な内容になります。
使うもの
作業に必要なのは、次の2つだけです。
- AIチャットサービス:文章で指示を出すと、それに沿った文章を返してくれるサービスです。ChatGPT、Claude、Geminiなど、無料で試せるプランがあるサービスが多くあります。ただし、無料プランの使える範囲や回数の条件は変わることがあるため、利用前に各社の公式サイトで最新の条件を確認してください。
- テキストソフトまたは表計算ソフト:メモ帳やWord、Excel、Googleスプレッドシートなど、文章や表を保存できるものであれば何でも構いません。社内で決まったツールがあればそれを使ってください。
費用は、無料プランの範囲で作業する場合は原則かかりません。ただし、有料プランに切り替えないと使えない機能もあるため、途中で「思ったより長い文章を扱えない」と感じた場合は、契約条件を確認するか、入力を分割して進めてください。
注意点:実際の顧客名、個人情報、社外に出してはいけない社内情報は、AIチャットに貼り付けないでください。この記事で使う例はすべて、記事用に作成した架空のサンプルであり、実在の顧客や社内情報ではありません。手元の実際の履歴を使う場合は、名前や連絡先などを伏せた形に置き換えてから使いましょう。
難易度:【初心者向け】
このあとの章では、なぜ「いつも通り」がうまくいかないのかを整理し、そのうえで実際に手を動かす手順に入ります。

2. 背景:なぜ返信もエスカレーションも『いつも通り』にならないのか
「毎回イチから書いている」「判断が属人化している」という状態は、担当者個人のスキル不足から起きているわけではありません。仕組みがないまま運用していると、自然とそうなってしまう、という構造の問題です。この章では、なぜそれが起きるのかを2つの側面から整理します。
返信の質とスピードは、そのまま信頼につながる
カスタマーサポートのメール対応について解説したトラムシステム社のコラムでは、対応の遅れや内容の不正確さが、顧客の不信感やクレームにつながるリスクがあると指摘されています。
考えてみると、当たり前に思える話です。問い合わせをした側は、返事が来るまでの間、不安を抱えて待っています。返信が来ない、あるいは来たけれど質問に答えていない内容だったら、「この会社は大丈夫だろうか」という気持ちが芽生えます。反対に、すぐに返事が来て、こちらの状況を理解した文章が返ってくれば、「ちゃんと見てくれている」という安心につながります。
つまり返信は、単なる事務作業ではなく、信頼を積み上げるか損なうかの分かれ目になる作業です。ところが、毎回イチから文章を考えていると、この大切な作業に使える時間が限られてしまいます。丁寧に書こうとすると時間がかかり、早く返そうとすると内容が薄くなる。この綱引きが、担当者の負担になっていきます。
トラムシステム社のコラムでは、メール返信を書くときのポイントとして、次のようなことが挙げられています。
- 専門用語や社内用語を避け、誰にでも伝わる言葉で書く
- 件名と本文の両方に問い合わせ内容を明記し、用件がすぐ分かるようにする
- 回答に時間がかかる場合は、まず一次回答を送り、どれくらいで返せるかの目途を伝える
- クッション言葉や感謝の言葉を添える
- 定型文は作って終わりにせず、現場の声を反映しながら継続的に見直す
これらは、返信テンプレートに必ず入れておきたい要素でもあります。逆に言えば、テンプレートという形でまとめておかなければ、忙しいときに限って抜け落ちてしまう項目です。
エスカレーション基準がないと、対応が長引く
もうひとつの問題が、判断の属人化です。エスカレーションとは、担当者だけでは解決できない問題を、より専門的な知識を持つ部署や人に引き継ぐことです。
DTS社のコラムでは、適切なエスカレーションのルールがないと、問題が解決するまでの時間が長くなってしまうと指摘されています。担当者が「これは自分で対応していいのか、それとも誰かに確認すべきか」で迷い、迷っている間だけ対応が止まってしまうからです。
この「迷いの時間」は、個人の性格や経験の問題に見えますが、実際には組織の仕組みの問題です。判断の基準がどこにも書かれていなければ、人は自分で決めるしかありません。経験のある人は勘所で判断できますが、経験の浅い人は判断できず、抱え込むか、遠慮して聞けずに間違った対応をしてしまう。結果として、対応の速さも正確さも、担当者によってばらつきます。
DTS社のコラムでは、エスカレーションのルールを作るときのポイントとして、次の3つが挙げられています。
- 問題の種類ごとにケース分けし、エスカレーション先を決めておく:どんな問い合わせが来たら、どこに引き継ぐのかをあらかじめ決めておきます。
- 迷った場合の相談先と、連絡がつかない場合の代替ルートを用意する:「判断に迷ったらまずここへ」という逃げ道と、「その人がつかまらないときはこちらへ」という第二の経路を用意します。
- 連絡手段を統一し、「一定時間応答がなければ次の手段に切り替える」といった基準を設ける:チャットなのかメールなのか電話なのかをそろえ、何時間返事がなければ別の手段に移る、という目安を決めます。
この3つを表にまとめて、誰でも同じ判断ができるようにしたものが、この記事で作る「エスカレーション基準表」です。
「いつも通り」を支えるのは、基準の見える化
ここまでの話をまとめると、返信がうまくいかない理由と、エスカレーションがうまくいかない理由は、どちらも「基準が個人の中にしかない」ことにあります。文章の書き方も、判断の分かれ目も、頭の中にあるだけでは共有できません。
逆に言えば、文章のひな形と判断の基準表という形で外に出してしまえば、担当者が変わっても、新しい人が入っても、同じ水準の対応ができるようになります。次の章では、具体的に何がどう変わるのかを、比較表で確認します。
3. 何が変わるのか:自己流対応とテンプレート・基準表ありの比較
前の章で、「基準が個人の中にしかない」ことが問題だと整理しました。この章では、その状態と、テンプレートと基準表がある状態を並べて比べます。次の表は、記事用に作成した架空のサンプルをもとにした比較です。実際の業務に当てはめたときに、どの作業が減り、どの判断が速くなるのかをイメージしながら読んでください。
| 観点 | 毎回自己流で対応する場合 | パターン別テンプレートとエスカレーション基準表がある場合 |
| 返信文を書く際の負担 | 件名・書き出し・本文・結びを毎回ゼロから考える。書き終えたあとに「言葉づかいはこれでいいか」「必要な情報が抜けていないか」を自分で確認する手間もかかる。 | 問い合わせの種類に合うひな形を選び、相手の名前や状況に合わせて一部を書き換えるだけで済む。確認する観点もテンプレートに沿って見ればよい。 |
| 対応品質のばらつき | 書き手の経験や、その日の忙しさによって、文章の丁寧さや情報の量が変わる。専門用語が混ざったり、一次回答が抜けたりする。 | 一次回答や目途の提示、クッション言葉など、入れるべき要素がひな形に組み込まれているため、誰が書いてもある程度そろう。 |
| エスカレーション判断のスピード | 「これは自分で答えていいのか」と迷うたびに、同僚や上長に聞くか、抱え込むかを選ぶことになる。聞くにしても、誰に聞けばいいか分からないことがある。 | 「このケースはこの相談先」と表で決まっているため、該当する行を探せば次の行動が決まる。迷ったときの相談先も表に書いてある。 |
| 新人が対応する際のハードル | 先輩のやり方を見よう見まねで覚えるしかなく、独り立ちまでの期間が読めない。不安なまま対応して、後から修正が発生することもある。 | テンプレートと基準表が読み方の手引きになる。分からないときにどこを見るかがはっきりしているため、確認しながら進められる。 |
| 引き継ぎや見直しのしやすさ | ノウハウが担当者の頭の中にあり、異動や退職のたびに失われる。改善したいと思っても、何を直せばいいか分からない。 | テンプレートと表という形で残るため、引き継ぎがしやすい。運用しながら「この言い回しが分かりにくい」「このケースが表にない」と気づいた点を書き足していける。 |
この表のとおり、テンプレートと基準表があるからといって、対応のすべてが自動でうまくいくわけではありません。相手の状況を読み取る力や、文章を自然に整える力は、やはり人が担う部分です。ただ、「毎回ゼロから考える」「誰に聞けばいいか分からない」という2つの負担が減るだけで、本来集中すべきことに使える時間が変わります。
ここでひとつ注意してほしいのは、「時短の効果」を数値で約束することはできない、という点です。どれくらいの時間が浮くかは、問い合わせの量や種類、テンプレートの使いやすさによって変わります。この記事で目指すのは、あくまで「省ける作業を明確にして、判断の迷いを減らす」ことです。
また、テンプレートは作って終わりではありません。トラムシステム社のコラムでも、定型文は現場の声を反映しながら継続的に見直していくことが大切だと述べられています。使い始めてから「この言い回しは相手に伝わりにくい」「この質問パターンが抜けている」と気づいたら、そのつど書き足したり直したりしてください。エスカレーション基準表も同じく、運用しながら更新していくものです。DTS社のコラムでも、運用後の記録や定期的な見直しが必要だとされています。
この後の具体的手順で、実際にテンプレートとエスカレーション基準表を作ってみます。難しい操作はありません。手元の問い合わせ履歴を用意して、AIチャットに貼り付けて、出てきた文章を整える。この流れを、順番に確認していきましょう。
4. 必要なものと全体像
この章では、これから始める作業に何が必要で、どのような順番で進めるのかを先に確認します。ここで全体像をつかんでおくと、途中で「今どこをやっているのか」を見失わずに済みます。
用意するもの
新しく有料のソフトを買ったり、専門的な契約を結んだりする必要はありません。次の3つがあれば始められます。
- 普段使っているメールやチャットの問い合わせ履歴
過去に実際に受けた質問と、それにどう答えたかの記録です。直近1〜3か月分を10〜30件ほど選ぶと、よくあるパターンが見えやすくなります。件数が多すぎると整理が大変になるので、まずは少なめから始めてください。
- 表計算ソフト、またはメモ用のテキスト
履歴を1件1行に整理するために使います。特別な機能は必要なく、行と列に文字を並べられれば十分です。苦手な場合はテキストファイルに箇条書きで書き出しても構いません。
- Webブラウザで使えるAIチャットサービス
「AIチャット」とは、文章でお願いごとを送ると、それに沿った文章を返してくれるWeb上のサービスのことです。多くのサービスに無料で試せるプランがありますが、使える回数や機能の条件は変わることがあるため、利用前に各社の公式サイトで確認してください。追加のAPI契約(プログラム同士をつなぐ契約)は必要ありません。ふだんブラウザでサイトを開くのと同じ感覚で使えます。
これ以外に、社内の対応ルールが書かれたマニュアルや、これまでに作った返信の下書きがあれば手元に置いておくと、AIチャットに渡す情報が増えて精度が上がります。
全体の流れ(5段階)
作業は次の5つの段階で進みます。この流れを頭に入れておくと、今どの作業をしているのかが分かりやすくなります。
ステップ1:過去の問い合わせ履歴を集める まず、実際に受けた問い合わせと返信の記録を、ひとつの場所にまとめます。
ステップ2:パターンに分けてAIチャットに渡す 集めた履歴を「発送について」「返品について」のように似た内容ごとにまとめ、その内容をAIチャットの入力欄に貼り付けます。
ステップ3:返信テンプレート案をもらう 「このパターンごとに返信文の下書きを作ってください」とお願いして、下書きを出してもらいます。ここで出てくるのはたたき台であり、そのまま使うものではありません。
ステップ4:エスカレーション基準を一緒に整理する 「エスカレーション」とは、担当者ひとりでは解決できない問題を、より詳しい知識を持つ部署や担当者に引き継ぐことです。どんなときに誰へ渡すかの基準を、AIチャットと対話しながら表にまとめていきます。
ステップ5:実際の対応で使いながら手直しする 作ったテンプレートと基準を現場で使い、しっくりこない部分を書き直していきます。テンプレートは一度作って終わりではなく、使いながら育てていくものです。
この記事全体の流れを図で示すと、次のようになります。上の5つの箱が順番に並び、最後の箱から最初の箱へ向かう矢印が戻っている形です。これは「手直しの結果を次の見直しに活かす」という意味で、一方通行ではなく繰り返し使う流れであることを表しています。
| 段階 | やること |
| ステップ1 | 過去の問い合わせ履歴を集める |
| ステップ2 | パターンに分けてAIチャットに渡す |
| ステップ3 | 返信テンプレート案をもらう |
| ステップ4 | エスカレーション基準を整理する |
| ステップ5 | 実務で使いながら手直しする |
この章でご紹介した3つの道具がそろったら、次の章から実際の作業に入ります。所要時間の目安は、履歴整理に30分〜1時間、AIチャットとのやり取りに30分程度です。途中で中断しても、保存しておけば続きから再開できます。
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5. 手順1:問い合わせ履歴を整理してAIチャットに渡す
この章では、最初の作業である「履歴の整理」と「AIチャットへの貼り付け」を順番に説明します。ここが一番の下準備であり、丁寧にやるほど後の作業が楽になります。
なぜ整理が必要か
AIチャットは、渡された情報をもとに文章を作ります。逆に言うと、渡していない情報は考慮されません。「うちの会社ではこう答えている」というクセや言い回しは、実際の履歴を見せて初めて伝わります。逆に、整理せずに長い履歴をそのまま貼るだけでは、どこが大事なポイントなのかが伝わりにくくなります。
ステップ1:履歴を1件1行にまとめる
まず、表計算ソフトを開き、1行目に見出しを入れます。列は次の3つで十分です。
| 受付日 | お客様からの質問 | こちらが返した内容 |
| (例)1月10日 | 商品が届くのはいつか | 発送から3日以内に届く見込みと案内 |
ここに、実際に受けた問い合わせを1件ずつ書き写していきます。文章は要点だけで構いません。全部を一字一句写す必要はありません。
ステップ2:似たものをパターンに分ける
10〜30件ほど書き出したら、内容が似ているものをグループにまとめます。たとえば次のような分かれ方になります。
- 発送状況の問い合わせ(例:「いつ届きますか」「発送済みですか」)
- 返品・交換の問い合わせ(例:「返品したい」「サイズが合わなかった」)
- 料金プランの問い合わせ(例:「プランを変更したい」「料金の内訳を知りたい」)
この分類に正解はありません。自分が日々の対応で「この3つが多いな」と感じる分け方で構いません。3〜4パターンに収まると、次の作業が進めやすくなります。
ステップ3:個人情報を置き換える
ここで必ず行ってほしい注意点があります。お客様の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、注文番号、社内の担当者名、取引先名、未公開の数値などは、AIチャットに貼り付ける前に必ず仮名やダミーに置き換えてください。
たとえば「山田太郎様」は「A様」、「注文番号12345」は「注文番号XXXX」、「株式会社○○」は「B社」といった具合です。手間はかかりますが、この一手間が情報漏えいを防ぐ基本です。社内のセキュリティルールがある場合は、それに従ってください。判断に迷う情報は「入れない」が原則です。
ステップ4:AIチャットに貼り付ける
置き換えが終わったら、AIチャットの画面を開きます。入力欄に、次のような形でテキストを貼り付けます。
以下は、当社に届いた問い合わせの履歴です。
パターンごとに分けてあります。
【発送状況について】
・「商品はいつ届きますか」
・「発送されたか確認したい」
→ これまでは「発送から3日以内にお届け予定です」と案内
【返品方法について】
・「返品したい」
・「サイズが合わなかった」
→ これまでは「到着後7日以内なら返品可能です」と案内
【料金プランについて】
・「プランを変更したい」
・「料金の内訳を知りたい」
→ これまでは「マイページから変更可能です」と案内
このパターンごとに、丁寧で分かりやすい返信文の下書きを作ってください。
最後の1文が、AIチャットへの「お願いごと」にあたります。「パターンごとに」「丁寧で分かりやすい」「下書き」という3つのキーワードを入れると、意図が伝わりやすくなります。
ステップ5:返ってきた内容を確認する
送信すると、しばらくして返信文の下書きが返ってきます。すぐにそのまま使おうとせず、まず次の点を眺めてください。
- パターンの数が、こちらが指定した数と合っているか
- 各パターンに、あいさつ・回答・結びがそろっているか
- 事実としておかしい内容(実在しない制度や日数など)が混ざっていないか
もし「パターンが足りない」「余計な項目が増えた」と感じたら、その場で「発送状況のパターンが抜けています。追加してください」と続けて送れば修正してくれます。何度かやり取りして整えていくのが普通の進め方です。
うまくいかないときの戻り方
返ってきた内容が的外れに感じるときは、次の順番で見直してください。
- 貼り付けた履歴が少なすぎないかを確認する。1パターンにつき2〜3件は例があると安定します。
- 依頼文が曖昧でないかを確認する。目的(返信文の下書き)と条件(丁寧・パターン別)を書き足します。
- パターンの分け方が細かすぎないかを確認する。細かすぎると、AIチャットも迷います。
それでもうまくいかない場合は、いったん作業を中断し、履歴をパターンごとに分けた状態で保存しておきましょう。翌日、頭が切り替わった状態で見直すと、依頼文の修正点が見つかることがあります。
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6. 手順2:返信テンプレートを作ってもらい、自分の言葉に直す
前の章で下書きが返ってきたら、次はそれを「そのまま使えるテンプレート」に育てます。この章では、返ってきた下書きの例と、確認すべき観点、そして自分の言葉に直す作業を説明します。
ここで示す返信例は、すべてこの記事のために作成した架空のサンプルです。実際の顧客情報や社内情報ではありません。そのまま自社で使うのではなく、読み方の参考として眺めてください。
返ってきた下書きの例
たとえば、先ほどの依頼に対してAIチャットが返す下書きには、次のようなものがあります。
例1:発送状況について
A様 いつもお世話になっております。お問い合わせいただきありがとうございます。 ご注文の商品につきまして、現在発送の準備を進めております。お届けまで今しばらくお待ちくださいませ。 発送が完了しましたら、改めてご連絡いたします。恐れ入りますが、今しばらくお待ちいただけますと幸いです。 引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
例2:返品方法について
A様 お問い合わせいただき、ありがとうございます。 返品をご希望とのこと、承知いたしました。商品到着後7日以内であれば、返品を承っております。お手数ですが、ご注文番号をお知らせいただけますでしょうか。 確認でき次第、返品の手順をご案内いたします。なお、確認にお時間をいただく場合がございます。その際は改めてご連絡いたします。 何卒よろしくお願いいたします。
例3:料金プランについて
A様 平素よりお世話になっております。お問い合わせありがとうございます。 料金プランの変更につきまして、マイページよりお手続きいただけます。変更手続きの詳しい方法は、追ってご案内いたします。少々お時間をいただく場合がございますので、あらかじめご了承くださいませ。 ご不明な点がございましたら、お気軽にお知らせください。
いずれも「あいさつ → 回答 → 結び」という流れで書かれています。ただし、このまま自社のテンプレートとして採用してよいかは、次に説明する観点で確認が必要です。
チェックすべき4つの観点
返ってきた下書きを採用してよいかを見るときは、次の4点を確認してください。これは、カスタマーサポート向けのメール返信の書き方を解説したトラムシステム社のコラムで挙げられているポイントを、確認しやすい形に整理したものです。
観点1:専門用語や社内用語が混ざっていないか 「エスカレーション」「一次対応」「SLA」といった言葉は、社内では通じても、お客様には伝わりません。AIチャットの下書きには、こうした言葉が混じることがあります。見つけたら、ふだんお客様に説明するときの言葉に置き換えてください。
観点2:一次回答と、対応の目途が示されているか すぐに完全な答えを出せないときは、「お問い合わせは確かに受け取りました」という一次回答と、「いつ頃までに改めてご連絡します」という目途を伝えることが大切です。例2と例3には、「確認にお時間をいただく」「追ってご案内いたします」といった一文が入っています。この一文が抜けていると、お客様は「返事が来ない」と不安に感じてしまいます。目途は「○日以内」のように、できるだけ具体的な表現に直してください。
観点3:クッション言葉や感謝の言葉が入っているか 「恐れ入りますが」「お手数ですが」「ありがとうございます」といった言葉は、文の印象をやわらかくします。ただし、くどくなりすぎると読みにくくなるので、1通に1〜2か所が目安です。
観点4:件名と本文で用件がすぐ分かるか メールの場合は、件名にも「発送状況について」「返品方法について」のように用件を入れます。本文の冒頭でも、何についての返信かを一言添えると、読み手が状況をすぐつかめます。
自分の言葉に直す
4つの観点をチェックしたら、次は自社の言葉遣いに合わせて手直しします。ここが一番大切な作業です。理由は3つあります。
- 会社ごとの言い回しがあるため。同じ「ありがとうございます」でも、社風によって「感謝申し上げます」「ありがとうございます」と使い分けが異なります。
- 実際の対応とズレがないようにするため。AIチャットは過去の履歴をもとに書きますが、制度や手順は日々変わります。事実と違う内容が書かれていたら、必ず正してください。
- 読み手に伝わる温度感を保つため。お客様との関係性によって、硬すぎる言い方・やわらかすぎる言い方の適切さは変わります。
手直しの具体的なやり方は、次のとおりです。
- まず、AIチャットの下書きを自社の文書にコピーする
- 上から順に読み、「お客様にそのまま伝えて違和感がないか」を確認する
- 違和感のある箇所を、自分の言葉で書き直す
- できあがった文を、上司や先輩に一度見てもらう
最初から完璧を目指さず、まずは3〜4パターン分を作ってみてください。使ってみてから出てきた「この言い方だと誤解される」という気づきを、次の見直しに反映させていきます。テンプレートは、作って終わりではなく、現場の声を反映しながら繰り返し見直していくものです。
失敗したときの戻り方
手直しの途中で「元の下書きの方がよかった」と感じたら、AIチャットに戻って「今の案だと硬すぎます。もう少しやわらかい言い方にしてください」のように追加で依頼すれば、別案を出してもらえます。1つの下書きに固執せず、複数案を見比べてから選ぶと、自社に合った言い回しを見つけやすくなります。
また、下書きの内容に「これは自社ではやっていない対応」が含まれていた場合は、その部分を削るだけでなく、AIチャットに「当社ではこの対応はしていません。代わりに○○と案内しています」と伝え直してください。次に別のパターンを作るときも、同じ間違いが繰り返されにくくなります。

7. 手順3:エスカレーション基準表を作る
ここまでの手順で、よくある問い合わせへの返信テンプレートができました。ただし、すべての問い合わせを自分だけで答えられるわけではありません。判断に迷う内容や、専門的な確認が必要な内容は、適切な人や部署へつなぐ必要があります。
この「自分では解決できない問題を、より詳しい知識を持つ人や部署に引き継ぐこと」をエスカレーションと呼びます。カタカナで聞くと難しそうですが、要は「これは私の手に負えないので、詳しい人にお願いしよう」と決めておくルールのことです。このルールをあらかじめ表にしておくと、担当者が変わっても、忙しいときでも、同じ判断ができます。
エスカレーションの基準を作るときに押さえたいポイントは、次の3つです(DTS社のコラム「エスカレーションルールの作り方」より)。
- 問題の種類ごとにケース分けし、引き継ぎ先を決めておく
「返品の相談は〇〇さん」「技術的な不具合は〇〇チーム」のように、内容ごとに行き先を決めます。
- 迷ったときの相談先と、つながらないときの代替ルートを用意する
「どちらか判断できないときは、まずリーダーに聞く」「リーダーが不在なら、サブ担当に連絡する」という逃げ道を決めておきます。
- 連絡手段を統一し、「一定時間返事がなければ次の手段に切り替える」基準を決める
チャットなのか電話なのかメールなのかをそろえ、「30分返事がなければ電話に切り替える」のように時間の目安を書いておきます。
これらをふまえ、AIチャットに次のように依頼します。
以下は、私の部署に届いた問い合わせの履歴です。この内容をもとに、問い合わせパターンごとに「自分で対応してよい範囲」と「誰に相談すべきか」を整理したエスカレーション基準表を作ってください。 表の列は「ケース」「自己対応の可否」「相談先」「連絡手段と目安時間」の4つにしてください。 迷った場合の相談先と、その人がつながらない場合の代替ルートも、表の下に箇条書きで入れてください。 (ここに問い合わせ履歴を貼り付ける)
出力は表形式で返ってくることが多いので、そのまま表計算ソフトに貼り付けて保存します。以下は、記事用に作成した架空のサンプルです。実在の顧客や社内情報ではありません。
| ケース | 自己対応の可否 | 相談先 | 連絡手段と目安時間 |
| 商品の在庫状況の確認 | 可(マニュアル確認で回答) | 不要 | ― |
| 配送日の変更希望 | 可(規定の範囲内で変更) | 不要 | ― |
| 請求金額の誤り指摘 | 不可 | 経理担当 | 社内チャットで連絡、30分返事がなければ電話 |
| 商品の不具合・故障の連絡 | 不可 | 品質管理チーム | 社内チャットで連絡、1時間返事がなければ上長へ報告 |
| 解約・契約変更の申し出 | 不可 | 契約担当 | 社内チャットで連絡、当日中に回答がなければメールへ切り替え |
| 判断に迷う内容全般 | 不可 | まずリーダー、不在ならサブ担当 | 社内チャット、10分返事がなければ電話 |
表ができたら、次の3点を必ず確認してください。1つ目は、自分が普段の対応で「これは聞いたことがある」と思うケースが漏れていないか。2つ目は、相談先の人が実際にその役割を担っているか(異動や退職で変わっていないか)。3つ目は、連絡手段と時間の目安が自分の現場で実行できる現実的な数字か、です。どれかが合わなければ、その部分だけAIチャットに「〇〇の行を、相談先を△△に変えて作り直してください」と伝えれば修正できます。
もしAIチャットの出力が「一般的すぎて自分の職場に合わない」と感じたら、問い合わせ履歴に加えて、社内の連絡先一覧やこれまでの引き継ぎメモを貼り付けてから、もう一度同じ依頼をしてみてください。判断の材料が増えるほど、現場に合った表になります。

8. 手順4:実運用に組み込み、定期的に見直す
テンプレートと基準表ができたら、いよいよ実際の対応で使ってみます。ここで大切なのは、いきなり全員に配って終わりにしないことです。まずは自分自身が数回使ってみて、「しっくりくるか」「抜けているパターンはないか」を確かめます。
実際に使ってみると、次のようなことに気づきます。
- テンプレートの言い回しが、自社の雰囲気に合わない(硬すぎる/くだけすぎる)
- 想定していなかった問い合わせパターンが届いた
- エスカレーション基準表に載っていないケースで判断に迷った
- 相談先に連絡したが、思ったより時間がかかった
こうした気づきが出たら、そのつどAIチャットに追加や修正を依頼します。たとえば次のように伝えます。
実際に使ってみて、次の2点を直したいです。 1. 「配送日の変更希望」のテンプレートが少し硬いので、もう少しやわらかい言い回しに変えてください。 2. 「ギフト包装の可否」という問い合わせが来ましたが、基準表にありません。同じ形式で1行追加してください。
このように、気づいた点をそのまま伝えれば、テンプレートや表を少しずつ育てていけます。一度に完璧を目指すより、使いながら直していくほうが現実的です。トラムシステム社のコラムでも「メール定型文は作成して終わりでなく、現場の声を反映しながらPDCAで継続的に見直す」ことが大切だと述べられています。PDCAとは「計画→実行→確認→改善」を繰り返す進め方のことです。テンプレートも基準表も、作って終わりではなく、使うたびに良くしていくものだと考えてください。
見直しのタイミングは、あらかじめ決めておくのがおすすめです。たとえば「毎月1回、月初の落ち着いた時間に15分だけ見直す」とカレンダーに入れておきます。月末に「今月届いた問い合わせのうち、テンプレートになかったもの」「エスカレーション基準で迷ったもの」を思い出しながらメモしておくと、見直しのときに困りません。見直しの手順は次のとおりです。
- 今月届いた問い合わせのうち、テンプレートに当てはまらなかったものを書き出す。
- エスカレーション基準表で「これはどこに相談すればいいか」と迷ったケースを書き出す。
- 書き出した内容をAIチャットに貼り付け、「テンプレートと基準表に追加・修正すべき点を提案してください」と依頼する。
- 提案のうち、自社の実情に合うものだけを採用する。合わないものは無理に取り入れない。
- 更新後のテンプレートと基準表を保存し、古い版と入れ替える。
見直しの結果、「今月は追加なし」という月があっても問題ありません。何も変える必要がないと確認できたこと自体が、運用が安定している証拠です。
もし見直しの時間が取れない忙しい月が続いたら、頻度を「2か月に1回」に下げても構いません。大切なのは、決めた頻度を守り続けることより、見直しをやめないことです。逆に、新しい商品やサービスが始まったタイミング、担当者が変わったタイミングは、月1回のサイクルを待たずに臨時の見直しをしましょう。状況が大きく変わったときは、テンプレートや基準表も一緒に変わっている必要があります。
9. よくある失敗と早見表・まとめ
ここでは、実際に起こりやすいつまずきと、その対処を紹介します。
失敗1:AIの下書きをそのまま送ってしまう AIチャットが作った返信文は、文章としては整っていますが、自社の言い回しや温度感とはずれていることがあります。そのまま送ると「いつもと雰囲気が違う」「機械的で冷たい」と受け取られ、かえって不信感につながるおそれがあります。トラムシステム社のコラムでも、専門用語・社内用語を避けて誰にでも伝わる言葉にする大切さが述べられています。AIの下書きはあくまでたたき台とし、必ず自分の言葉に直してから送ってください。「この言い回しは自社で使わないな」と感じたら、その場でAIチャットに「もっとやわらかく」「もう少し簡潔に」と伝えて作り直します。
失敗2:エスカレーション基準が実態と合わず、形だけになる 基準表を作った時点では正しくても、担当者の異動、連絡ツールの変更、業務フローの見直しなどで、少しずつ実態とずれていきます。すると「表には〇〇さんと書いてあるけど、今は△△さんだ」「この手段では連絡がつかない」となり、結局は担当者の勘で動くようになってしまいます。これを防ぐには、手順4で説明した定期的な見直しを欠かさないことです。あわせて、日々の対応で「基準表と違う動きをした」ときは、その理由を一言メモしておくと、見直しの材料になります。
失敗3:テンプレートが増えすぎて使われなくなる 丁寧に作ろうとするあまり、似たようなテンプレートが何十個もできると、かえって「どれを使えばいいか分からない」状態になります。まずは本当によく届く問い合わせ5〜10個分に絞り、それ以外は都度対応するくらいの気持ちで始めてください。増やすときは「これは月に何回も来るか」を基準にすると、自然と絞られます。
依頼文と確認項目の早見表
AIチャットに依頼するとき、次のポイントを押さえておくと安定した結果が得られます。
| 場面 | 依頼文の書き方(例) | 確認する項目 |
| テンプレートを作る | 「以下の問い合わせ履歴から、よくある質問への返信テンプレートを作ってください。専門用語は避けてください」 | 専門用語が残っていないか/クッション言葉やお礼があるか/回答が遅れる場合の一次回答と目途があるか |
| エスカレーション基準表を作る | 「問い合わせパターンごとに、自分で対応してよい範囲と相談先の基準表を作ってください。列は『ケース・自己対応の可否・相談先・連絡手段と目安時間』にしてください」 | 相談先が実在の担当か/迷ったときの代替ルートがあるか/連絡手段と時間の目安が現実的か |
| 修正する | 「〇〇の行の言い回しを、もう少しやわらかくしてください」「△△というケースを追加してください」 | 元の表と形式がそろっているか/意図した箇所だけが変わっているか |
| 見直しをする | 「今月届いた想定外の問い合わせです。テンプレートと基準表に追加すべき点を提案してください」 | 追加すべき/不要なものを自分で選んでいるか/古い版と入れ替えたか |
まとめ
この記事でできるようになったことを振り返ります。
- 自部署に届いた問い合わせ履歴をAIチャットに貼り付けて、よくある質問への返信テンプレートの下書きを作れるようになった。
- 専門用語を避け、回答が遅れるときの一次回答と目途、クッション言葉を入れるという返信の要点を押さえられた。
- 「ケース分けと相談先」「迷ったときの代替ルート」「連絡手段と目安時間」の3点を柱にしたエスカレーション基準表を作れるようになった。
- 作ったテンプレートと基準表を実際に使い、気づいた点をAIチャットに伝えて追加・修正する運用の流れを理解した。
- 月1回など見直しのタイミングを決めておき、現場の声を反映しながら育てていく考え方を身につけた。
参考にした情報:
- DTS社コラム「エスカレーションルールの作り方」(エスカレーションの定義と3つのポイント、運用後の見直しについて)
- トラムシステム社コラム「カスタマーサポートのメール返信の書き方」(専門用語を避ける、一次回答と目途の提示、クッション言葉、定型文の継続的な見直しについて)
なお、本文中の問い合わせ履歴・返信テンプレート例・エスカレーション基準表はいずれも記事用に作成した架空のサンプルであり、実在の顧客や社内情報ではありません。AIチャットサービスの無料プランは多くのサービスで用意されていますが、条件は変わることがあるため、利用前に各社の公式サイトで確認してください。
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