qSOFAは「もう使えない」のか?——敗血症早期認識の現在地とスコアの正しい読み方
DR.MK
はじめに:Sepsis-3が変えた世界、そしてSSCG2021が揺り戻した
2016年、JAMAに発表されたSepsis-3定義は、20年以上使われてきたSIRS基準を廃し、敗血症を**「感染に起因する制御不能な宿主反応による生命を脅かす臓器障害」**と再定義した。そして臓器障害の代替指標としてSOFAスコアを採用し、ICU外での迅速なスクリーニングツールとしてqSOFA(quick SOFA)を世に送り出した。
「3項目を問診・観察するだけでリスク評価ができる」というqSOFAのシンプルさは、現場に歓迎された。しかし5年後の2021年、Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG 2021)は明確にこう述べた。
「qSOFAを単独の敗血症スクリーニングツールとして使用しないことを強く推奨する」(Strong recommendation)
これはqSOFAの「終わり」を意味するのか。否、そうではない。問題はqSOFAが何のためのツールであるかを誤解したまま運用されてきたことにある。本稿では、Sepsis-3の定義を整理しながら、qSOFAとSOFAの正しい使い分けと、臨床で陥りやすいピットフォールを解説する。
Sepsis-3の核心:「臓器障害」が診断の軸
まず定義を正確に押さえる。Sepsis-3における敗血症の診断要件は以下の2点だ。
- 感染の疑い(suspected infection)
- SOFAスコアのベースラインからの急性変化 ≥2点(臓器障害の代替指標)
SOFAスコアは6臓器系(呼吸・凝固・肝・循環・神経・腎)をそれぞれ0〜4点で評価する、ICUで開発された重症度スコアである。ベースラインSOFAが不明な場合は0点と仮定してよい。
そして敗血症性ショックの定義は:
- 敗血症に加え
- 適切な輸液補充後も平均動脈圧(MAP)≥65 mmHg を維持するために昇圧薬が必要
- かつ血清乳酸値 >2 mmol/L(循環血漿量低下なし)
この定義において重要なのは、「SIRS基準を満たすかどうか」はもはや関係ない、という点だ。発熱・頻脈・白血球増多があっても、臓器障害がなければSepsis-3の敗血症ではない。逆に体温正常・脈拍正常でも、SOFAが急増していれば敗血症である。
qSOFAとは何か:「予後予測ツール」であり「診断基準」ではない
ここが最大の誤解ポイントである。
qSOFAの3項目は:
| 項目 | 陽性基準 | 点数 |
2点以上で陽性(感染疑い患者において院内死亡・ICU入室の高リスクを示唆)。
qSOFAはSepsis-3論文の中で、ICU外(一般病棟・救急外来・院外)で使用するための予後予測・リスク層別化ツールとして位置づけられた。決して「これが陽性なら敗血症」という診断基準ではない。しかし現場では「qSOFA ≥2 = 敗血症疑い」として誤用され、陰性なら安心してしまう、という事態が生じた。
qSOFAの感度はどれほど低いか
複数のメタ解析・後向き研究が示す現実は厳しい:
- 感度:約50〜60%(研究・患者集団によって32〜85%と幅あり)
- 特異度:約90〜98%(高い)
ある前向き研究では、Sepsis-2基準の重症敗血症108例のうち、qSOFA ≥2で同定できたのはわずか33例(感度32%)であったのに対し、別のトリアージスコアでは感度85%を達成した。
Sepsis-3の原著研究では、感染患者のうちqSOFA ≥2だったのは24%のみだったが、そのような患者が不良転帰の70%を占めていた。つまりqSOFAは「陽性なら危険」という特異性には優れるが、「陰性だから安心」とは言えない設計なのだ。
SSCG2021は、複数の大規模メタ解析がqSOFAを単独スクリーニングツールとして使用することに強く反対したことを受け、qSOFA単独使用を推奨しないと明示した。
SOFAはどう使うか:臓器障害を「定量化」する道具
SOFAは診断・スクリーニングのツールではなく、「すでに敗血症が疑われる患者」の臓器障害の重症度を定量化し、経時変化を追うためのツールである。
| 臓器 | 指標 | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 |
臨床的に重要なのは「ベースラインからの変化量」である。慢性腎不全でCr 3.0の患者がCr 4.5になっても、腎スコアは3→4点の1点変化に過ぎないが、Cr 0.8の若者がCr 2.5になれば0→2点の急変を意味する。背景疾患の文脈で解釈することが必須だ。
ピットフォール:現場で陥りやすい6つの罠
① qSOFA陰性で「敗血症ではない」と判断してしまう
前述のとおり、感度50〜60%のツールを「除外」に使うことは危険だ。特に**免疫抑制患者(ステロイド長期投与・化学療法中・HIV)**では、発熱・頻脈などの炎症反応が抑制されており、qSOFAの3項目(呼吸数・血圧・意識)さえも正常を保ったまま急速に悪化することがある。
「qSOFA 0点だから大丈夫」は禁句である。感染巣の確認・乳酸値の測定・経時的な再評価がセットで必要だ。
② 「感染の疑い」を飛ばしてスコアだけを見る
Sepsis-3の定義の大前提は「感染の疑い」である。qSOFAもSOFAも、感染疑いという臨床判断が先にあって初めて意味を持つ。
外傷後のSIRS・膵炎・心筋梗塞後の炎症反応でSOFAが上昇することはあるが、感染がなければ敗血症ではない。逆に言えば「感染源を探す臨床的思考」なしに数値だけ追っていると、敗血症の見逃しと過剰診断の双方が発生する。
③ 乳酸値を軽視する
SSCG2021は、感染疑い患者において乳酸値の上昇が敗血症の診断確率を有意に高め、正常乳酸値が診断確率を下げることを示した。感度66〜83%、特異度80〜85%という数値は、qSOFAより優れた特性を持つ。
特に「血圧は保たれているが何か変」という患者での**潜在性ショック(cryptic shock)**の発見に乳酸値は有用だ。lactate >2 mmol/Lが持続すれば、血圧が正常でも敗血症性ショックの定義に含まれることを忘れてはならない。
横浜での日本の多施設研究では、qSOFAに毛細血管再充満時間(CRT)または乳酸値を組み合わせることで感度・特異度がともに80%超に改善し、単独スクリーニングの限界を補完できることが示された。
④ Hour-1バンドルの「開始タイミング」を誤る
SSCG2021が推奨するHour-1バンドルは以下の5項目だ:
- 乳酸値測定(初回>2 mmol/Lなら再測定)
- 抗菌薬投与前に血液培養採取(2セット)
- 広域抗菌薬の投与(認識後1時間以内)
- 低血圧または乳酸≥4 mmol/Lなら30 mL/kg晶質液急速投与
- 輸液後も低血圧持続なら昇圧薬開始、MAP≥65 mmHg目標
ピットフォールは「培養を取ってから抗菌薬を入れる」という手順の前後関係を守ることへの執着だ。血液培養は当然先に採るべきだが、採取に時間がかかるようであれば抗菌薬を先行させてよい。抗菌薬の遅延は死亡率上昇と直結する。1時間の遅れが7〜10%の死亡率上昇に相関するという報告は複数存在する。
⑤ 「SOFA ≥2点の変化」を計算しない、または誤計算する
「なんとなく敗血症っぽい」という印象診療から脱却するためにSOFAを使うはずが、SOFAを計算しないか、計算しても「ベースラインからの変化」ではなく「絶対値」だけを見てしまう。
慢性疾患患者では、ベースラインSOFAが0点でないことが多い。CKD、慢性肝疾患、慢性心不全の患者では入院前の値を推定してベースラインとし、そこからの急性変化≥2点を確認する習慣をつけるべきだ。
⑥ 高齢者・免疫抑制患者での「非典型的敗血症」を見逃す
高齢者では意識変容が唯一の主訴として来院することがある。「なんとなくおかしい」「いつもと違う」が家族から聞かれた場合、感染巣を積極的に探すべきだ。尿路感染・肺炎・胆道感染・皮膚軟部組織感染——いずれも見逃されやすい。
また**好中球減少患者(化学療法後の発熱性好中球減少症;FN)**は別のプロトコルが存在し、qSOFAやSOFAの点数が低くても緊急抗菌薬投与が必要になる。FNの文脈ではSepsis-3の基準に縛られてはならない。
では2026年現在、何をどう使うべきか
SSCG2021と現時点のエビデンスを統合すると、以下の実践的フレームワークが導かれる。
ステップ1:「感染を疑う」——ここが全ての起点
バイタルサイン・症状・病歴から感染の可能性を考えた瞬間に、プロセスが始まる。感染源(尿・肺・胆道・皮膚・腹腔・髄膜)の同定を意識する。
ステップ2:qSOFA + SIRSの「並行評価」
- qSOFA ≥2:高リスク。直ちに臓器障害評価へ
- qSOFA 0〜1でも:SIRSを確認。SIRS陽性(発熱または低体温・頻脈・頻呼吸・白血球異常の2項目以上)であれば油断しない
- どちらも陰性でも:乳酸値の測定と経時的再評価を忘れない
ステップ3:乳酸値・臓器障害マーカーの測定
- 乳酸値(>2 mmol/L → 高リスク、>4 mmol/L → 敗血症性ショックのリスク)
- 血算・生化学(Cr・Bil・Plt)→ SOFAのベースライン変化を算出
ステップ4:Hour-1バンドルの即時起動
「敗血症かもしれない」と思った時点でバンドルを開始する。確定診断を待つ必要はない。"Sepsis is a medical emergency"——心筋梗塞・脳卒中と同じ時間軸で動く。
まとめ:qSOFAは死んでいない、誤解が問題だった
qSOFAは「敗血症の診断基準」ではなく「感染疑い患者の予後予測・リスク層別化ツール」である。その感度の低さゆえに単独使用はSSCG2021で否定されたが、ツールとしての価値は生きている。
重要なのは以下の5点だ:
- 感染を疑う臨床判断が先——スコアはその後
- qSOFA陰性でも敗血症を除外できない。乳酸・SIRS・経時変化との組み合わせで評価する
- SOFAはベースラインからの変化≥2点を確認する。絶対値ではない
- Hour-1バンドルは「疑い」で動かす。確定を待つと命を失う
- 高齢者・免疫抑制患者は非典型的。qSOFAのスコアが低くても直感を信じてさらに掘れ
"Sepsis-4"に向けた定義見直しの議論も国際的に進んでいる。機械学習を用いた新たなスコアリングへの移行が予測される中でも、臨床的な「感染を疑う感度」と「迅速な臓器障害評価」の原則は変わらない。数字を追う前に、患者の顔を見よ——これが敗血症診療の永遠のコアである。
参考文献
- Singer M, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810.
- Evans L, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Intensive Care Med. 2021;47(11):1181-1247.
- Freund Y, et al. Prognostic Accuracy of Sepsis-3 Criteria for In-Hospital Mortality Among Patients With Suspected Infection Presenting to the Emergency Department. JAMA. 2017;317(3):301-308.
- Serafim R, et al. A Comparison of the Quick-SOFA and Systemic Inflammatory Response Syndrome Criteria for the Diagnosis of Sepsis and Prediction of Mortality. Chest. 2018;153(3):646-655.
- Nakamura K, et al. Hour-1 bundle adherence was associated with reduction of in-hospital mortality among patients with sepsis in Japan. Crit Care. 2022;26(1):52.
- 日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG 2020). 日本集中治療医学会・日本救急医学会.
- Hasegawa T, et al. A Screening Tool to Predict Sepsis in Patients With Suspected Infection in the Emergency Department. Cureus. 2025.
本記事は2026年6月時点のエビデンスに基づき作成しています。実際の診療はJ-SSCG 2020・SSCG 2021および各施設のプロトコルに従ってください。
