はじめに:在宅医療改定の骨格は「質の証明」と「連携の制度化」
2026年6月1日施行の診療報酬改定(本体改定率+3.09%)は、在宅医療領域においても構造的な転換をもたらす改定だ。
一言で言えば「量から質へ、そして連携の制度化」である。
これまでの在宅医療の評価は「何回訪問したか」という量に依存する側面が大きかった。しかし今回の改定では、訪問回数だけでなく、重症患者をどれだけ診ているか・自院の医師が実際に往診できる体制を持っているか・他職種と連携しているかが評価の核に置かれた。
点数が大きく上がる項目がある一方で、「体制が整っていない施設は点数が下がる」という飴と鞭の構造が今まで以上に鮮明だ。在宅医療に関わる医師・診療所が今すぐ確認すべき6つの変化を整理する。
変化① 在宅医療充実体制加算の新設——旧「在宅緩和ケア充実加算」を吸収・大幅増点
何が変わったか
従来の「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が廃止され、新たに**「在宅医療充実体制加算」に一本化された。点数は大幅に引き上げられ、単一建物診療患者1人の場合は400点→800点(2倍)**、2〜9人では200点→400点、10〜19人では100点→200点と、すべての区分で倍増した。
緊急往診を行った場合の加算も150点→200点に増点(+100点)となり、重症患者を多く診る在宅診療所が夜間・休日に緊急対応することへの評価が厚くなった。
施設基準(ハードルは高い)
この加算を算定するための施設基準は厳格だ:
- 在宅医療を担当する常勤換算医師数3名以上、かつ常勤医師数2名以上
- 機能強化型の在支診・在支病であること
- 自院単独で24時間の連絡体制・往診体制を確保していること(「自院単独で」が重要)
- 月2回以上の訪問診療患者のうち重症患者割合が2割以上(後述のポイント②参照)
「算定できれば収益構造が大きく変わる加算」だが、小規模・1人医師体制の診療所には届かない設計だ。
臨床医への含意
在宅緩和ケアだけでなく重症患者全般への対応が評価対象になったことで、**「がん終末期だけでなく、神経難病・心不全・腎不全などの重症慢性疾患患者を積極的に診ている診療所」**が正当に評価される仕組みへと進化した。
変化② 在宅時医学総合管理料——「月2回訪問」に重症患者2割要件が追加
最大のインパクト項目
今回の改定で在宅医療に携わるすべての診療所に影響する最大の変化がこれだ。
在宅時医学総合管理料(在総管)および施設入居時等医学総合管理料(施設総管)において、「月2回以上訪問診療を行っている場合」の算定に新たな要件が追加された。
具体的には:
月2回以上訪問診療を行う患者のうち、重症度の高い患者(別表第8の2)または包括的支援加算の対象患者(別表第8の3)に該当する割合が2割以上であること
この要件を満たさない場合、月2回訪問の点数ではなく月1回訪問の点数を算定することになる。
「別表第8の2」重症患者とは
主に以下の状態が該当する:
- 要介護度3以上かつ以下のいずれかに該当 医師・看護師等による月1回以上の医学管理が必要な状態月1回以上の精神科医の指示が必要な状態
- 医師・看護師等による月1回以上の医学管理が必要な状態
- 月1回以上の精神科医の指示が必要な状態
- 特掲診療料の施設基準等別表第8の2に掲げる状態(在宅自己腹膜灌流、在宅酸素療法、在宅成分栄養経管栄養法、在宅中心静脈栄養法等を実施している患者など)
何が問題になるか
「軽症の安定した患者を月2回訪問している診療所」では、この要件を満たせず点数が引き下げられる可能性がある。これは**「頻回訪問の内容が問われる時代」**の到来を意味する。
直近3か月の実績で判断されるため、今すぐ自院の患者構成を確認し、重症患者割合を計算することが急務だ。
変化③ 連携型機能強化型在支診——「往診代行」施設は点数が下がる
在支診の「イ」と「ロ」の差が拡大
機能強化型の在宅療養支援診療所(在支診)には「単独型(自院で全て対応)」と「連携型(複数医療機関で連携)」がある。連携型はさらに「イ」(自院医師による往診体制あり)と「ロ」(往診体制を他院に委ねる)に分かれる。
今回の改定で**「ロ」——すなわち自院の医師による往診体制がない連携型在支診——は、機能強化型の点数ではなく一般の在支診の点数を算定することになる**。
「イ」(自院医師による往診体制あり)の要件は厳格だ:
当該医療機関の往診経験を10回以上有する往診担当医師による、連続する24時間の往診体制等を月4回以上確保していること
「往診代行サービス」利用施設への影響
近年、夜間の往診を外部サービス(往診代行)に委託する診療所が増えている。しかし今回の改定では、自院の医師が実際に往診できる体制を持たない連携型在支診は点数区分が下がる設計となった。
往診代行を利用しながら機能強化型の点数を算定してきた診療所は、自院体制の見直しを迫られる。
変化④ オンライン訪問診療の拡充——「月1回は対面、もう1回はオンライン」が可能に
何が変わったか
今回の改定で**「月1回対面訪問診療+月1回オンライン診療」という組み合わせでの在総管算定**が正式に評価される仕組みが整備された。
月2回訪問のうち、2か月目はオンライン訪問を行う場合の点数が明示された:
| 対象 | 単一建物1人 | 単一建物2〜9人 |
対面2回に比べて点数は下がるが、医師の移動コスト・時間コストを考慮すると診療効率の観点から選択肢として成立する場面が増える。
患者数カウントの緩和(医師1人あたり100人上限の緩和)
訪問診療を担当する医師1人当たりの実人数上限100人の計算において、以下の患者は「1人を0.5人とみなして計算できる」と明確化された:
- 在総管または施設総管の「単一建物診療患者が2人以上の場合の点数」を算定する患者(70人まで)
- 月1回訪問診療を行っている患者(70人まで)
施設や集合住宅に複数の患者を持つ診療所にとっては、実質的な患者数上限が緩和される実務上重要な変更だ。
変化⑤ 新設加算——「訪問診療薬剤師同時指導料」と「往診時医療情報連携加算」
訪問診療薬剤師同時指導料(新設)
医師と薬剤師が同時に患家を訪問し、共同で指導を行った場合の新加算:
- 医科側:150点(6か月に1回算定可)
- 調剤側(薬局):300点(訪問薬剤管理医師同時指導料として)
ポリファーマシー対策・服薬管理の精度向上を目的としており、医師と薬剤師が「伝言ゲーム」ではなく現場で同時に課題を解決する連携モデルを評価するものだ。
在宅患者の多剤服用・残薬問題は深刻であり、この加算の活用は患者の安全性向上・再入院予防にも直結する。かかりつけ薬局・薬剤師との連携体制を構築している診療所にとって、6か月に1回の算定でも年間収益への貢献は小さくない。
往診時医療情報連携加算——算定対象の拡大
他の医療機関が主治医として定期的に訪問診療を行っている患者に対し、緊急往診を行った際の「往診時医療情報連携加算」について、算定対象が拡大された。
これは「1人医師クリニックAが夜間、かかりつけ在宅クリニックBの患者に緊急往診を行う」という地域の面的な在宅医療提供体制を評価するものだ。主治医以外の医師による往診情報が主治医に確実に連携される体制構築が前提となる。
変化⑥ 退院直後の在宅栄養管理——「退院時訪問栄養指導」の拡充
新設の背景
病院から在宅への移行直後は、栄養状態の急激な悪化・再入院リスクが最も高い時期だ。今回の改定では、病院の管理栄養士が退院後1か月以内に患家を訪問し、具体的な献立を用いた栄養管理指導を行う「退院時訪問栄養指導」が4回を限度として算定可能となった。
対象は:がん患者・摂食嚥下機能低下患者・低栄養状態患者・医師の食事箋に基づく特別食が必要な患者。
在宅医の視点からの含意
これまで病院の管理栄養士と在宅医療側の栄養管理は分断されがちだった。この評価の新設により、退院前カンファレンスで栄養評価を共有し、退院後の在宅栄養管理を病院栄養士が継続サポートするという連携モデルが制度的に後押しされる。在宅医療機関単独で担ってきた退院後栄養管理の負担が軽減される可能性がある。
まとめ:2026年在宅医療改定の「飴と鞭」を整理する
| 項目 | 方向性 | 影響を受ける施設 |
今すぐ確認すべきチェックリスト:
□ 自院の月2回以上訪問患者のうち、重症患者割合は2割以上か?
(不足なら月1回訪問の点数に下がるリスクあり)
□ 夜間・休日の往診は自院の医師が対応しているか?
(往診代行頼みの連携型在支診「ロ」は点数が引き下げられる)
□ 在宅医療充実体制加算の施設基準(常勤医3名以上等)を満たすか?
(満たすなら点数が倍増する可能性あり)
□ かかりつけ薬剤師・薬局との同時訪問体制を構築できるか?
(訪問診療薬剤師同時指導料の算定機会として)
□ 退院前カンファレンスで病院栄養士と情報共有できているか?
(退院時訪問栄養指導との連携機会として)
おわりに:「診ている患者の質」が問われる時代へ
在宅医療の診療報酬改定をひと言で総括するなら、**「訪問の量より、診ている患者の重症度と自院の対応力を証明せよ」**というメッセージだ。
軽症・安定患者への定期的な訪問を主体としてきた診療所モデルは、今後点数的に不利になる。一方で、重症患者を引き受け、24時間自院で対応し、薬剤師・栄養士と連携できる診療所は、大幅増点の恩恵を受ける構造だ。
「在宅医療の質の証明」——それが2026年改定が在宅医療に突きつけた最大の課題である。
参考資料
- 厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定答申(2026年2月). 中医協総会資料.
- GemMed. 2026年度診療報酬改定答申14「連携型機能強化型在支診の見直し」. 2026年2月.
- 厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定告示(2026年3月5日).
- 厚生労働省. 2026年度診療報酬改定疑義解釈(その2・その3). 2026年3〜4月.
- 久保裕樹. 2026年度診療報酬改定 在宅医療「充実体制」への道. note. 2026年3月.
本記事は2026年6月時点の診療報酬改定内容に基づきます。施設基準の詳細・経過措置等は各施設の医事課・地方厚生局への確認をお勧めします。
