Garudoraです。声劇・ボイスドラマの台本を書いてきました。シリーズ創作だけで累計約30万字、手元のアーカイブは受託の納品物も含めて236本。動画用シナリオの受託では、テーマ指定だけの案件も、プロット提出から始まる案件も両方経験しています。
台本の依頼を受けたとき、こんな場面で手が止まりませんか。
- 「テーマは〇〇でお願いします」とだけ言われて、何から決めればいいか分からない
- 「先にプロットをください」と言われたが、プロットに何をどこまで書くのが正解か分からない
- 逆にプロットを渡されて「これで台本に」と言われたが、渡されたものが穴だらけに見える
- 書き始めてから設定の矛盾に気づいて、途中まで書いた本文を捨てた
- 思いつきで書き始めた話が、指定の尺に全然収まらない
ぜんぶ、台本の腕前の問題ではありません。書き始める前の「土台」の問題です。
私は声劇の台本で「土台の弱さは書き直しで返ってくる」ことを何度も体験してきました。耳だけで聴くリスナーは、設定の矛盾やモタつきを聴き逃してくれません。だから声劇畑の書き手は、書き始める前に土台を固める癖がつきます。この癖は、そのまま受託の台本仕事で武器になります。
この記事が役に立つ人
- YouTube台本・シナリオの受託を始めたばかりの人
- プロット提出で毎回書き直しになる人
- 自作では書けるのに、指定テーマだと手が止まる人
この記事が不要な人
- プロット承認から納品まで一人で回せている人
- 物語理論(三幕構成など)を学術的に学びたい人(この記事は現場の手順書です。物語理論は別の記事で扱う予定です)

依頼には3つのパターンがある
まず、受託の台本依頼は土台の観点で3種類に分かれます。既存のハウツーはここを区別せずに「プロットの書き方」を教えるので、現場で混乱します。
| パターン | 渡されるもの | あなたが作るもの |
| A. テーマだけ指定 | 「〇〇系でスカッとする話を」 | 土台もプロットも本文も全部 |
| B. プロット提出あり | テーマ+条件 | まずプロット→承認後に本文 |
| C. プロット支給 | 先方のプロット | 本文だけ(ただし土台の検品は必要) |
ポイントは、どのパターンでも「土台を作る(or 検品する)」工程は消えないことです。Cの「プロットをもらって書くだけ」の案件でも、もらったプロットの穴に気づかず書き始めると、書き直しはあなたの時間から出ていきます。
プロットの有無で、相手が見ているものが分かる
もうひとつ、このパターン分けはクライアントを読む道具にもなります。誤解を恐れずに、経験上の見解を言います。
プロットを求めるクライアントは、物語そのものを分かっていないことが多い。そこで生きるキャラクターではなく、インスタント映画のようなもの——インパクトと分かりやすさ——を求めているケースが多いんです。だからプロットで判断する相手には、「何が大切です」「ここがポイントです」を書類の側から教えないと、理解してもらえません。
逆に、プロットを求めないタイプは、作品本体を見てくれる人です。全体を見て、整合性を見て、良い点・悪い点を出してくれる。
だから、使い分けが大切です。プロット重視の相手には「ポイントを教える書類」を、本体重視の相手には「作品そのもの」を。同じ台本の腕でも、出し方を相手に合わせるだけで通り方が変わります。
なお、パターンC(プロット支給)はまた別で、自分の構想を持っている人です。この場合、基本的にはプロット通りに書いていい——とはいえ、それはそれで難しいのですが。ただし構想がある人が書き慣れているとは限らないので、後述の検品だけは通してください。

土台の最小セットは3つ
土台とは、プロットより前に決める骨のことです。最低限この3つが決まれば、話は転がり始めます。
- 主人公——名前・立場と、その人が欲しがっているもの
- 問題——欲しいものを邪魔するもの(人・状況・本人の欠点)
- 結末——最後にどう転ぶか(手に入る/入らない/別のものが手に入る)
逆に言うと、テーマだけ指定される案件(A)は「指定テーマをこの3つに変換する」作業が最初の仕事です。
変換の例:指定テーマ「職場のパワハラでスカッと」
→ 主人公: 中堅社員・静かに辞める準備をしている/欲しいもの: 平穏な退職
→ 問題: 手柄を横取りする上司が、退職を察して引き留め工作を始める
→ 結末: 横取りの証拠が役員会で開示され、主人公は円満退職・上司は左遷
この記事の例はスカッと系で通しますが、手順そのものはジャンル共通です。恋愛なら——
変換の例2:指定テーマ「幼なじみとのすれ違い恋愛」
→ 主人公: 大学生/欲しいもの: 幼なじみとの関係を壊さずに恋人になる
→ 問題: 相手に恋人ができたという噂(実は誤解)で、告白の機会を失う
→ 結末: 誤解が解けて、噂の顛末ごと笑い話にしながら告白が通る
(ホラーのような雰囲気主導のジャンルは、土台の作り自体が変わるので、この手順の適用外です)
この3行が決まってから、あいだを埋めていきます。

あいだの埋め方:樹形図法
「あいだ」を埋める私のやり方を教えます。樹形図法と呼んでいます。
- スタートは1。これが「起」になります
- そこからの展開は、分岐させます。その場所でどういう選択を取るのか——という分岐を3つくらい用意する
- 選んだら、それで走らせる。次の分岐点でまた3パターン。どれが一番面白いか。これを繰り返すだけで、物語は動き出します
エンディングが決まっているなら(受託はたいてい決まっています)、分岐を繰り返す中で「結末に辿り着くためにはどうするか」も一緒に考えます。分岐は自由に広げつつ、着地点だけは見失わない。
そして大事なのはここです。分岐は「どれが面白いか」だけでなく、それぞれの用途で読みます。さっきのパワハラ退職の例で実演します。
起1:上司が引き留め工作を始める。主人公はどう動く?
- a. 静かに証拠を集め始める——ソロでできるし、周囲への影響が少ない。さらに隠して行動が可能
- b. 同僚に相談する——同僚キャラを確定で出さないといけない。あと、その同僚がスパイの可能性も否定できない。バレる可能性は上がる。ただ、証拠集めのスピードはaよりも速い
- c. 気づかないふりで進める——このまま進むとバッドエンドルートのため、途中で手助けキャラの登場が必須になる。手助けキャラを主人公が助ける演出などで、小さく理由作りも同時に行う必要がある
分岐2:集めた証拠をどうする?
- a. 役員会に持ち込む——王道。妨害が発生する可能性はある。「これは転に使えるかも?」と、この時点で検討しておく
- b. 上司本人に突きつける——もめ事が発生する。脅迫は強い切り札だが、デメリットも同時に考える(例:上司が証拠隠滅を図る)。そしてデメリットを考えた場合、それを逆転する目も同時に持っておく(例:「クラウドに保存してあります」)
- c. 保険として持っておくだけ——主人公は「あまり被害を出したくない人」という印象を視聴者に与えられる。優しさを出す演出として有用。最後に堪忍袋の緒が切れる、という演出にすることで、上司の悪役感をインパクトとして残せる
見ての通り、分岐の1本ずつに「キャラの出し入れのコスト」「視聴者に与える印象」「後の展開への布石」「リスクと、その逆転の目」が付いています。面白さと用途の両方を読んでから選ぶと、選んだ幹が後の展開で効いてきます。
「面白い方を選ぶ」と「結末に着く道を選ぶ」を両方見ながら分岐を繰り返すと、紆余曲折が勝手に生まれます。プロットに書くのは、この樹形図の選ばれた幹だけです。切った枝は、後述の通り資料として貯めておく。
ただし、この技には使いこなしの条件が2つあります。分岐がそもそも思いつかないと回らないこと。そして、選んだ分岐がそのキャラに合っているか——ここを確認せずに走ると、面白いけど嘘のある話になります。この2つのクリアの仕方は、本編で扱います。

指定の尺が、書ける物語を決める
受託の台本には、ほぼ必ず尺(長さ)の指定があります。ここで先に知っておいてほしいことがあります。
物語は、求められている長さが固定されていると難しくなります。制限が掛かれば掛かるほど、質は上げにくくなる。裏を返すと平均化されるので、万人受けには良いし、初めて書く物語としても向いています。
一方で、名作と呼ばれる物語——映画や小説——は、どれも「長い」ことが前提の作りです。指定尺の中でああいうものは書けない、と最初から考えておいた方がいい。あれを目指して詰め込むと、尺にも質にも跳ね返ってきます。
絵本くらい単純な話に振り切る手もありますが、それはまた使う技が異なります(一本のシンプルなラインで通す作り)。
では指定尺で何が求められているかというと、一定の紆余曲折です。つまり起承転結。ただし、序盤から全部を書こうとすると大変です。そこで——
- 起承結にする。「転」を落として、話を素直に転がして締める。初心者向けはこれ
- なんなら「起」もカットして、冒頭はナレーションで状況を説明してしまい、承転結だけを書くという技もあります
「起をナレーションに任せる」は、尺が厳しい台本ほど効きます。状況説明にセリフを使わない分、本編の紆余曲折に尺を全部使えるからです。
「転を落として、紆余曲折は足りるのか?」と思うかもしれません。足ります。紆余曲折は「承」で稼ぐからです。
スカッと系で実演すると——立ち上がりで嫌がらせや目撃を増やせば、視聴者はストレスを溜めていきます。だから転はそこまで気にしなくていい。代わりに、その度に「証拠を集めているカット」をちょっとだけ描く。そうすれば結が描けます——「集めていた証拠を渡して、報告しました」。あとは悪役の落ちぶれシーンだけを厚く書く。
つまり、転であるバトルシーンをカットして、アフターを厚くする方向性です。ぶつかり合いの見せ場がなくても、承で溜めたストレスが結で一気に放出されるので、視聴者の満足は成立します。
尺で変えていいものと、変えてはいけないものも言っておきます。どんな物語でも、目的は1つ。事件の数が、長さ次第です。長編なら、細かい蓄積のために多くの事件やストレスポイントを配置していい。短尺なら事件を絞る。尺が変わっても、主人公の欲しいもの(目的)を増やしてはいけません。話が濁ります。

プロットは「相手に見せる書類」——粒度は3段階
プロットを「自分用のメモ」と思っていると、提出で失敗します。パターンBのプロットはクライアントが承認の判断をするための書類です。しかも前述の通り、プロットで判断する相手は「ポイントを教えてもらわないと分からない」人が多い。つまり提出用プロットは、あらすじではなく見どころの案内書として書くものです。
- 200字——土台3つ(主人公・問題・結末)を文章にしただけのもの。方向性の確認用
- 400〜800字——展開の順番(何が起きて、どう転がって、どう終わるか)まで。提出用の標準はここ
- 1,600字〜——シーン割り・主要なセリフ案まで。長尺や初取引の相手に
先方に聞けるなら「プロットはどのくらいの粒度がいいですか?」の一言で、この3段階のどれかに必ず落ちます。聞けない案件なら400〜800字で出すのが安全です。
書き方は「一度全部出して、引き算」
プロットの仕事は、引き付けることです。「読みたくなる」「どうなるんだろう」と思わせるストーリーを見せる。とはいえ受託では結末まで書くのが基本なので、どこまで匂わせるかはプロットの濃さ(求められる粒度)次第です。
おすすめの書き方は、最初から削って書くのではなく、一度書き出した後、引き算でインパクトのある展開だけを残すやり方です。足りないものを探すより、多めに出して強いものだけ残す方が、プロットは締まります。
そして、引き算で削ったネタは捨てないでください。資料として貯めておいて、またの機会にインパクト要員として使えばいい。ネタは組み合わせ次第で化けます。受託を続けるほど、このストックが効いてきます。

もらったプロットは3点だけ検品する
パターンC(プロット支給)のとき、書き始める前に見るのは3点だけです。
- 主人公が欲しがっているものは書いてあるか(無ければ全シーンがぼやけます)
- 結末は決まっているか(「いい感じに締める」は決まっていないのと同じ)
- その尺に収まる事件の数か(10分の動画に事件が5個入っていたら溢れます)
穴があったら——ここが大事なんですが——指摘するのではなく、埋めてから見せます。やり方は本編で詳しく書きますが、原則だけ言うと「穴があります」と最初から言うのはなし。整えて補って「こう見ましたが?」と聞く形にします。
よくある質問
Q. 型(三幕構成・起承転結)は覚えるべきですか?
A. 名前を覚える必要はありません。土台3つ(主人公・問題・結末)が決まっていれば、展開の型は「問題が悪化する→ぶつかる→転ぶ」の順に並べるだけで自然に三幕になります。物語理論の話は別の記事で改めて扱います。
Q. プロットの段階でAIを使ってもいいですか?
A. 使えます。ただし向き不向きがあって、テーマ→土台3つへの変換の「案出し」は得意、尺に収まる事件の数の判断は苦手です。私の使い分けは本編で開示します。
Q. プロット提出で「面白くない」と返されたら?
A. 直すのはたいてい本文ではなく土台の3つのどれかです。本編で「どれから疑うか」の順番を渡します。
本編は約4,000字。提出用プロットのひな型(そのまま書式として使える形)と、実例を工程ごと付けています。
プロット付きのシナリオ案件は単価が上がります。この記事は¥500なので、プロットから受けられる案件を1本取れれば元が取れる計算です。
本編の内容(有料部分)
- 提出用プロットのひな型——400字版と800字版、書式ごと渡します
- 指定テーマ→土台3つへの変換手順——実例で工程を全部見せます
- 樹形図法の使いこなし——分岐を増やすインプットの取り方/選んだ分岐がキャラに合っているかの整合性チェック
- 「面白くない」と返されたときの直し方——土台のどれから疑うか
- 支給プロットの検品チェックリスト——地雷案件の見分け方まで
- AIとの分業ライン——土台作りでどこまで任せるか
最後にひとつ。プロットが通る人と通らない人の差は、文章力ではありません。提出前にある一行を足しているかどうかです。その一行とは——
