AI時代に知っておきたいこと:第6回 ChatGPTに頼りすぎると、考える力は低下するのか

AI時代に知っておきたいこと:第6回 ChatGPTに頼りすぎると、考える力は低下するのか

八十智(はとち)

八十智(はとち)

前回は、AIのハルシネーションについて考えました。

AIは、とても自然で、整った文章を返してくれます。けれど、その中には、ときどき「もっともらしい間違い」が混ざることがあります。

だからこそ、AIの答えをそのまま信じるのではなく、最後は自分の目で確認することが大切だ、という話をしました。

今回は、もう一つのリスクについて考えてみたいと思います。

それは、AIが間違えるかどうか以前の問題です。AIが便利すぎるからこそ、私たちがいつの間にか、自分で考える前に、まずAIに聞いてしまうという習慣を持ってしまうことです。

ChatGPTで答えがすぐに返ってくる時代

何か分からないことがある。何か文章を書かなければいけない。何かアイデアを出さなければいけない。そんなとき、AIに聞けば、すぐに答えが返ってきます。

「新しい企画のアイデアを出して」
「この文章を分かりやすく直して」
「友人に謝るメッセージを考えて」
「この悩みに対して、どう考えればいい?」

AIは、瞬時に整理された答えを出してくれます。しかも、その答えはたいてい、無難で、読みやすく、それなりに納得できるものです。だから、とても助かります。

忙しいとき。疲れているとき。考える余裕がないとき。何から手をつければいいか分からないとき。

AIの答えは、まるで目の前に差し出された救いの手のように見えます。

もちろん、AIを使うこと自体が悪いわけではありません。むしろ、上手に使えば、AIは私たちの思考を広げてくれる、とても頼もしい道具になります。

ただ、少しだけ気をつけたいことがあります。

それは、AIに答えをもらうことに慣れすぎると、自分で考える前の「もやもやする時間」を、だんだん避けるようになってしまうかもしれない、ということです。

AIの答えをもらうことと、自分で考えることは違う

私たちはつい、

「早く答えを出せること」
「すぐに結論を言えること」
「効率よく処理できること」

を、考える力だと思ってしまいがちです。

でも本当は、答えを出すことと、考えることは同じではありません。

考えるとは、もっと不器用で、時間のかかる営みです。

すぐには答えが出ない。言葉にならない。何が引っかかっているのか、自分でも分からない。ああでもない、こうでもないと、頭の中で何度も行き来する。

そういう時間の中で、少しずつ自分の考えが形になっていきます。

たとえば、誰かとの関係で悩んでいるとします。

AIに聞けば、きっと丁寧なアドバイスが返ってくるでしょう。

「相手の気持ちを尊重しましょう」
「まずは冷静に話し合いましょう」
「自分の気持ちを正直に伝えましょう」

どれも、間違ってはいないかもしれません。

でも、その前に本当は、自分で感じる必要があるものがあります。

  • 自分は何に傷ついたのか。
  • 相手に何を期待していたのか。
  • なぜ、その言葉がそんなに引っかかったのか。
  • 本当は、謝ってほしいのか。
  • それとも、分かってほしかっただけなのか。

こうした問いは、すぐに答えが出るものではありません。

でも、その「すぐに答えが出ない時間」こそが、自分の心を理解するために必要な時間なのだと思います。

AIが出してくれる答えは、便利です。けれど、自分の中にある問いを通過しないまま受け取った答えは、どこか借り物のようになってしまうことがあります。

AI時代に弱らせたくない「思考の筋肉」

少し、身体の話に置き換えてみます。

どこへ行くにも車に乗る。階段を使わず、いつもエスカレーターに乗る。重い荷物は、すべて誰かに持ってもらう。

そんな生活を続けていれば、当然、足腰の筋肉は少しずつ弱くなっていきます。それは、足が悪いからではありません。使わないから、弱っていくのです。

思考も、これに近いところがあります。考えることには、少し負荷がかかります。

面倒くさい。
しんどい。
すぐには答えが出ない。
間違っているかもしれない。
自分の未熟さと向き合うことになる。

だから、できれば避けたくなる。

でも、その負荷の中で、思考の筋肉は育っていきます。

  • 自分で問いを立てる。
  • 自分なりに仮説を出す。
  • 一度考えたことを疑ってみる。
  • 別の角度から見直す。
  • 最後に、自分の言葉としてまとめる。

こうした過程を通るからこそ、私たちは少しずつ、自分だけの視点を持てるようになります。

AIにすぐ答えをもらうことは、筋トレで言えば、ダンベルをトレーナーに持ち上げてもらうようなものかもしれません。

目の前では、ダンベルが上がっています。でも、自分の筋肉はほとんど使っていない。それでも「上がった」と感じてしまう。

AIに答えを出してもらうことも、少し似ています。

文章は完成する。アイデアは出る。結論も整う。でも、その過程で自分の思考がどれだけ動いたのか。

ここを見失うと、便利さの裏側で、自分が成長する機会を少しずつ手放してしまうことになります。

AIに頼りすぎると、自分で考える機会を失う

AIを使うと、時間を短縮できます。

これは大きなメリットです。

調べものの入口を作ってくれる。文章の構成を整えてくれる。自分では思いつかなかった視点を出してくれる。複雑な情報を分かりやすく整理してくれる。

本当に助かります。

でも、ここで少しだけ立ち止まってみたいです。

私たちは、時間を短縮するつもりで、本当は「自分が成長する一番おいしいところ」までAIに渡していないでしょうか。

悩む時間。迷う時間。うまく言葉にならない時間。自分の考えの未熟さに気づく時間。それでも、自分なりの答えを探そうとする時間。

こうした時間は、効率だけで見れば、無駄に見えるかもしれません。でも、人間が深く考える力を育てるうえでは、とても大切な時間です。

最初からきれいな答えをもらってしまうと、確かに楽です。けれど、楽であることと、自分の中に考えが育つことは、必ずしも同じではありません。

むしろ、少し不便で、少し遠回りで、少し面倒な時間の中にこそ、自分の言葉が生まれることがあります。

ChatGPTに聞く前に、自分で考える習慣を作る

では、AIを使わない方がいいのでしょうか。

私は、そうは思いません。

AIは、使っていい。むしろ、上手に使えばいい。ただし、使う順番を少しだけ意識した方がいいと思います。

いきなりAIに答えを求める前に、ほんの少しだけ、自分に聞いてみる。

「自分は、何を知りたいのだろう」
「自分は、どこで困っているのだろう」
「自分は、どんな答えを期待しているのだろう」
「すでに自分の中に、ぼんやり浮かんでいる考えはないだろうか」

完璧に考えなくて大丈夫です。

ノートに一行だけ書く。スマホのメモに、思いついた言葉を並べる。頭の中で、30秒だけ立ち止まる。

それだけでも、AIとの関係は変わります。

何も考えずにAIへ答えを取りに行くのではなく、自分の問いを持ったうえでAIに相談する。

この順番が大切です。

AIは、自分の代わりに考える存在ではありません。自分の考えを広げるための存在です。だから、最初の小さな問いだけは、自分の側に残しておきたいのです。

考える力は、静かな時間の中で育つ

今の時代は、とにかく早いです。

すぐ検索できる。すぐ返信できる。すぐ比較できる。すぐ答えをもらえる。

そのスピードに慣れてしまうと、答えが出ない時間が不安になります。

何も進んでいないように感じる。自分だけ遅れているように感じる。もっと効率よくできるはずだと思ってしまう。

でも、考える力は、いつもスピードの中で育つわけではありません。むしろ、少し遅い時間の中で育つことがあります。

散歩しているとき。お茶を飲んでいるとき。画面を閉じて、ぼんやりしているとき。誰かの言葉を思い出して、静かに反芻しているとき。

そんな時間に、ふと自分の本音が見えてくることがあります。

AIは、瞬時に答えを返してくれます。でも、人間の心は、瞬時には整理されないことがあります。だからこそ、AIのスピードにすべてを合わせなくてもいいのだと思います。

私たちには、私たちの考える速度があります。

AIは思考力を奪うのか、それとも広げるのか

ここまで読むと、AIが思考を奪う怖い存在のように感じるかもしれません。

でも、私はそうは思っていません。

AIそのものが、私たちの考える力を奪うわけではありません。思考を弱らせるのは、AIではなく、AIにすべてを任せきってしまう使い方です。

逆に言えば、使い方を少し変えれば、AIは思考を奪うものではなく、思考を深める道具になります。

たとえば、自分で考えたあとにAIへ聞いてみる。

「私はこう考えました。他に見落としている視点はありますか?」
「この考えに反論するとしたら、どんな意見がありますか?」
「もっと深く考えるために、どんな問いを立てればいいですか?」

こう聞けば、AIは答えを奪う存在ではなく、考えるきっかけを増やしてくれる存在になります。

AIに正解をもらうのではなく、AIに問いを広げてもらう。

この使い方ができると、AIとの関係はかなり変わります。

答えをもらう前に、問いを持つ

AI時代に大切なのは、AIを使うか使わないかではありません。AIに答えをもらう前に、自分の問いを持てるかどうかです。

問いを持たないままAIに聞くと、AIの答えに流されやすくなります。でも、自分なりの問いを持ってAIに向き合えば、AIの答えを材料として使うことができます。

「これは自分の考えに近い」
「ここは少し違和感がある」
「この視点はなかった」
「でも、最後は自分の言葉でまとめたい」

そうやってAIと対話することで、考える主導権は自分の側に残ります。

AIに答えをもらうことは、悪いことではありません。ただ、答えをもらう前に、自分の中に問いを置くこと。それだけで、AIは私たちの思考を奪う存在ではなく、思考を支える存在になります。

便利さに流されすぎず、でも便利さを拒絶もしない。その中間に、AI時代のちょうどいい距離感があるのだと思います。

次回は、ここまでの話をふまえて、AIを「自分の代わりに考える存在」ではなく、「優秀な秘書」として使うための具体的なステップについて考えていきます。

AIに聞く前に、自分で考える。AIに意見を求める。最後は、自分で判断する。

この順番を、もう少し実践的に見ていきましょう。


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この記事のライター

八十智(はとち)

八十 智(はとち)です。 約4年間、仕事でAIを使い続けながらその進化を間近で見てきました。 AI時代に「人間らしさ」や「自分の軸」を大切にするにはどうしたらいいか、 そんな想いをエッセイにしています。

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