文中、小児愛やSMなどの人によっては嫌悪感を示す表現があります。これらの表現や描写が苦手な方はその部分を飛ばして読んで下さい。
飛ばしたところでさほど影響はありません。
間違っても小児愛やSMを推奨したり賛美するものではありません。あくまで二人の若者がもがき苦しんだ中での、ひとつの表現と捉えてください。
面白い事など何もなく、ただただ淡々と若き自分と彼女の事を書き綴ったものです。
脚色、過大表現は一切ありません。むしろ少し表現を抑えてあります。
彼女の身バレを防ぐために、時間軸や言い回しを少し変えていますが、当時の事をありのままに書いたノンフィクション。
私の女性観や恋愛観を形造る一因になった可能性もある、
若き自分と愛した女性の、
誰も知らない罪と罰です。
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彼女との出会いは20才の頃。
確かまだ少しだけ肌寒い4月の夜。
大学の悪友と夜な夜なコンパや箱ナンストナンに明け暮れ、街ではブルセラショップが軒を並べ、マクドでは援交JKが客を選びクスリと酒に溺れる若者が道に溢れかえり、混沌としながらもひどくむせ返るほどにエネルギッシュ。
ギリギリ携帯を持ち始めノリと勢い若さにかこつけて、誰かれ場所も構わず遊びまくっていた、ちょうど年号が変わる頃のバブル末期。
地元有名私大とのコンパがあるからと誘われ、いつもと変わらぬ会話で馬鹿な話しで盛り上がりつつ、2次会で程なく解散。話しを聞くと、彼女と自分の自宅方向が近いと。
それならとクルマで送り届ける事に。
背は低いけど少しむっちりとした感じのショートカットの子。歳はひとつ下。笑うと目が潰れるカワイイその姿は、席が離れていても気になる存在。
事実、一緒にいた友人からも羨ましがられていた。
帰り道、コンパ自体人数合わせで来ただけで実は彼氏と同棲してる事を明かされた。じゃあ無事に届けなきゃ怒られるねー!など、どーでもイイ話しをしつつも、やも言えぬ会話のテンポや雰囲気の心地良さとちょっと違和感を感じながら、彼氏宅近くまで。
「今日はありがとね」
そんな軽い挨拶だけでクルマを降りていく彼女を見て、ほんの少し恨めしく思ったその時、
「連絡先教えて。実は気になってたから送ってもらったと。ゴメン、でもまた会いたいけん」
もちろん断る理由もないけど、彼氏おるやんか、、と悩ましく思いつつ連絡先を交換。ちょっと積極的な彼女に押されてまんざらじゃなかったけれど、この事は友達に言う事なくただ普通に送っただけと伝えた。
その日の夜の事は、独り占めしたかったのかもしれない。
数日後、連絡は彼女から。
「明日空いとる?」
夕方に落ち合ってから、市内の繁華街で飲んでカラオケの後ゲーセン行ったりと、気づくともう朝の3時。
「彼氏はよかと?って帰れんし始発までウチくる?」
市内から程なく歩ける距離もあって、じゃあお邪魔しちゃうねと自宅まで。(とはいえ30分以上かかる)
当然、お酒も入った若い男女が明け方の部屋で大人しく寝るはずもなく、ただひたすら若さから溢れるものを貪り続けて。
結局次の日まで一緒に過ごす2人。
「彼氏にはなんて言ってあると?」「実家に帰るって言ってあるけん大丈夫」
実はコンパの帰り、自宅に帰るつもりだったと。でも自宅と同じ方面の友人から誘われたので、気が引けるけど彼氏の家と同じ方面の自分に送ってもらったし、ずっと気になっていたと教えてくれた。
その日ダメでもなんとかして連絡を取るつもりだったと。
そもそも、なんで彼氏の家に送らないかんの?と感じてた違和感は、こんな理由から来たのかと納得。
それからは少しずつ会う時間も増え、アパートに泊まって学校バイトに行く事もあった。それでも彼氏の存在が消える事がない事を、少し疎ましく思っていたある日、
「ねぇ。彼氏と別れるけん」
「…..そう」
これだけを交わしただけで付き合うとかの約束も告白も無し。ただより深く重なった事で2人でいる時間は更に増えていった。
それからは学校やバイト以外は過ごす時間も増え、少しずつ彼女は自分の事を話してくれた。
比較的裕福な家庭だったが、離婚して今は母親と2人暮らし。お姉さんは生真面目な京大生。本人もIQ130以上の秀才。
小学校は九州の国立小学校に通っていた。実は自分と同じ学費の安い大学に行きたかったが、何故か親から反対され学費の高い今の私大に。そんな母親は長年パートナーからDVを受け続けたせいなのか、自分が接しても分かるくらいにメンヘラ気味だし娘ともそれほど仲は良くない。
そして彼女は父親から、
性的虐待をずっと受けていた。
かなり衝撃だった。当時20歳そこそこのガキんちょで、しかも女兄弟がいない自分がどう受け止めてイイのか分からない告白に、不謹慎ながら物凄く興味が湧くのと同時に、絶え間ない吐き気を覚えた記憶がある。
嫌悪感というより、あまりに現実離れした事実を理解出来ない自分の無知さと狭さに。
確かに、性に関しては奔放なところがあったけど、まさかそんな過去があったとは知るよしもなく。とはいえ、当の本人はその告白をサラッと伝えた後も、意に介すことなく淡々とその時の事を話し始めた。
生理が来る前からお風呂で虐待されていた。ピアノの練習中椅子に付いた経血を、あとで舐めてる姿を見た。実は父親の弟からも同じような扱いを受けてた。母親は知っていたが見ぬふりをしてた。
中学に上がる頃には虐待もなくなり、程なくして両親は離婚したと。その後母親は、金を貰って父親とセックスをしていると。
全てを覚えてはいないけど、記憶を引きずり出してる今も心がそのざわつきを覚えている。
理解が追いつかない事実もさる事ながら、あっけらかんと話す彼女にちょっと非現実感を覚え、一度その話しを聞いただけでそれ以降は、お互い触れる事もなくただ普通に過ごしていった。
当時、彼女の母親はと彼女の2人暮らし。離婚時に自宅と多額の慰謝料を受け取っていたのでさほど生活には困っていない雰囲気。
実際彼女の自宅にも遊びにも行ってたが、母親は優しく社交的な方。ただ、娘の彼氏に媚びる感じには違和感を感じてた。
ここまで読むと、普通の人なら彼女の存在自体に違和感や嫌悪感を感じるかもしれないけど、自分自身も全くイイ家庭環境ではなかったせいなのか不思議と慣れ始めていたし、目の前の彼女の事で頭が一杯だったのかもしれない。
それから2年少し、自分が卒業するまで彼女とは、ずっと過ごしてきた。
喧嘩もすれば2人で旅行も行くし朝まで飲んだり、2人で色んなとこに出掛ける普通の20歳そこそこのカップル。友達付き合いもせず、ずっと2人で過ごす日々。ちょっと2人とも性欲強めなくらい。
ただ、驚くほど賢明で弁が立つし、どこか達観しながらも刹那的な考えで振り回される事もあった。でも、笑顔を絶やす事はなくずっと傍に居た。
恐らく人をここまで人間らしく見たのは初めてだったし、幼少期に彼女とはまた違う家庭のいざこざの渦中でもがいてた自分は、彼女のその刹那的で底見えぬ生き様や考えの沼にどっぷりとハマり、苦しくも離れられない事を悟っていた。
この時彼女は、ひとつだけ秘密を隠していた。
ただ、それを自分が知るのは10年もあとの事。
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自分が卒業を控え就職活動をする頃、少しずつ福岡から離れたいと思うようになってきた。彼女はまだ2年学生をやるんだし、福岡から離れれば彼女も諦めるだろうと。
実はこの時、少しずつ彼女から離れたいと思うようになっていた。
キツイ束縛と、たまに感情が暴走する様に嫌気が刺してたのかもしれない。不思議と沼底にいた自分は苦しくもなくゆっくりと沼を出る準備を進めていた。
彼女からはなんの反対もないまま、横浜への就職を決めた。
福岡を発つ当日、彼女と彼女の母親が見送りに来てくれ空港のロビーでお別れをし、横浜へ。驚くほど穏やかな彼女は泣き言や嫌味ひとつ言わず、手を振りながらずっと笑ってた。
あの表情は今でも覚えてる。
それからはらお互いの長期休みを利用して横浜と福岡で会っていたが、彼女が地元に就職が決まった事を聞き少しホッとする自分。
別れればイイのにと思いつつ、横浜で遊びながら帰省した時に適当に会えばイイかな?と軽く考えてたけど彼女は違った。
「◯◯が横浜で5年頑張ったら、私会社辞めて横浜に行くけん」
思わぬ告白に驚きを隠せなかったけど、なんとなく察してたところもあって、ただ黙って彼女の話しを聞いた。
横浜に来たら結婚しよう。仕事はちゃんとやるから大丈夫。◯◯は1人にしたらダメなタイプだから心配。実を言うと今でも凄く心配してる。
そんな事を言われたのは初めてだし、とても真剣な表情で、ゆっくりとでもとても強い意志を感じる口調で言われたとき、
「それ、ちょっとしんどいな…..」
思わず出た言葉。いや、思わずというより今しかないと出た言葉。ひと言ふた言何か言われたけど、彼女はそれ以上その事については話さなかった。
変わらず横浜と福岡の遠距離恋愛を続けるも、掛かってくる電話にもあまり出ず、横浜での仕事と遊びにのめり込む毎日。仕事が忙しいを理由にこちらからの電話も無くなり、掛かってくる電話の向こうで楽しく話す彼女の顔も、少しずつ忘れ始めてきた。
嫌いになった訳じゃなく忘れようとしてた。
彼女の存在自体を思い出す事も減り疎ましくなりながら、気になる子と知り合ったちょうど同じタイミングで計ったかのように、
「別れようか」
そう電話で切り出され、あっさりと彼女と別れた。
もっと罵声を浴びせてくるのか、しつこく何度も電話してくるのかと思ったがそれっきり。拍子抜けなくらいあっさりと。
彼女と出会ってもうすぐ5年になろうとした冬に、終わりを迎えた。
自分が悪いくせに少しだけ凹んでみせたり友達と飲みながら愚痴ったりもしたけど、数日経つとそんな事もあったねくらいに、横浜での仕事と遊びに没頭する毎日。
たまに思い出すけど感傷に浸る事もなく、そのうち携帯の機種変更を機に、彼女との連絡手段は完全に途絶えた。
これでもう繋がる事はないが、正直その時そんな事も考えてなかったと思う。
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それから約8年。
結婚、離婚そして再婚をし子供も出来、毎日忙殺されながらも仕事にのめり込む30代。その頃には彼女の事を思い出すヒマも余力もなかった。
そんなある日仕事中、個人携帯に見知らぬ番号が。登録してない番号でも気にせず出てみると、
「◯◯さんの電話でしょうか」
一瞬、あーセールスなのに出ちゃったよ、、と思ったが、一応「はい、そうですよ」と答えると、
「良かった。〇〇です。覚えてる?」
意味が分からない。
8年も前に別れた彼女から掛かってくるはずもないし、そもそもこの番号を知ってるはずが無い。軽くパニックになりながらも人違いなのかもと確認した。
「え?〇〇さんって、、〇〇〇〇ちゃん?」
「当たり前やん!フルネームで呼ぶのやめてよ恥ずかしいし、もう苗字変わったよ?」
聞くと、自分の実家の電話番号を覚えていたので実家に連絡し、親父から番号を聞いたと。
彼女の事を知る親父は、ふたつ返事で教えてくれたと。バカ親父はあとで、お前もやるねー!嫁にバレるなよ?と余計な事をしたくせに軽口をたたきつつ、親父も彼女の事はしっかり覚えてると教えてくれた。
何故か親父は、他の彼女達には無愛想だけど彼女だけには愛想よく、たまに小遣いをあげたり可愛がってくれ、よく3人で食事もした。不思議と違和感もないし一瞬家族かとさえ思った記憶。
仕事中だったので後で折り返すねと告げた次の日、色々と話しを聞いた。
彼女は別れたあと地元で就職し、同じ職場の上司と結婚していた。だけどすごく賢明な彼女、入社わずか数年で上司と部下の立場を逆転させた頃から、少しずつ夫婦の立場も逆転そして夫婦生活も破綻へと向かい、そのまま離婚そして退職。
今は再婚し今年都内の、とある市に引っ越してきたと教えてくれた。
「近くにいるんだ。」
と分かった途端、急に記憶と感情が溢れてきた。自分でも戸惑うほどに大量でしかも褪せない記憶が自分のほぼ全てを埋め尽くすくらいに。
いや、これはマズイ。
楽しいより辛い記憶が残りやすいというけれど、感情を大きく揺さぶり続けた彼女との記憶は、身体の奥底でその時と変わらない形で、ひとつひとつ丁寧に意識の届かないとこに保管してただけ。
その証拠に更に15年経った今でも鮮明に覚えてる、今こうして書き綴れるくらいだから。
きっと美化してしまったものもあるけど、懐かしさとちょっと下心もありながら、深くも考えず2人が過ごした違う時間の今を確認したくて。
再会はそれから程なくしてでした。
彼女の住む街へ車を走らせ、お昼を食べながら近況の報告。
そこにいる女性は30を超えても可愛らしさは変わらずも、母親そして妻としての衣を纏ったせいか、やたら艶っぽく見えるし恥ずかしさもあって、終始まともに目を見れない。
たった8年されど8年。過ごした土地も環境も違うし元々貞操観念の低い彼女、他の男に抱かれ続けた彼女は何が変わったんだろう。
8年経った今、同じ8年を過ごした自分を受け入れてくれるのかと、下心と謎の嫉妬心と好奇心だけで、その日のうちに何度も彼女と肌を合わせた。
事後、ゆっくりと話しを聞いた。再婚したが超がつくほどのマザコン旦那に辟易してるから、そのうち別れるつもり。
旦那と別れたら福岡に戻って元気に過ごすから安心して、と。何も言ってないのに。
すると、ベッドで後ろから抱きしめたこちらを見ずに、とても言い難そうにとても静かな声でゆっくりと当時の事を話しはじめた。
『実は〇〇の事を狙ってる子が他にもいたんだよ。だから先手必勝と思って送ってもらったの』
『彼氏と別れたのは本当。でも実は彼氏じゃない人がいたの』
『バイトって言ってたけど違うの。援交。そう、おじさんと契約して飼われていたの』
『彼に呼ばれたら授業中だろうと夜中だろうと飛んでいかなきゃダメだった』
『頭おかしいと思われるけど、誰よりも求められ堕とされるのがとてつもなく幸せだった』
『でも途中で、これじゃダメだし〇〇の事が大好きだったからキチンと別れたよ』
聞いてる間、ずっと息が止まっていたかもしれない。聞き終わった瞬間にやたら眩暈がし、ピタリと寄せた身体からひどい動悸と息遣いが伝わり彼女も心配になったのか、こちらを向いたがなにも言ってくれなかった。
きっと彼女もここで謝罪しても、なにも変わらない戻らない事を悟っていたんだろう。ただ高ぶりが収まるまで無言のまま自分を抱きしめてくれた。
それを機に、彼女は子供を預け自分は会社終わりに車を飛ばし、彼女の住む街へ何度も通った。時には旅行とかこつけて横浜に泊まりに来る事もあった。
8年前とは違う二人。全てを知った二人。心の奥底に淀む感情をありのままぶつけ、彼女を堕とし傷つけた。
歪んだ愛情が噛みあう事で更にエスカレートする自分と彼女を誰も止められないし、この二人を誰も知る由もなかった。
今の自分には想像も真似も出来ない、なにかが二人には取り憑いていた。
縄で縛りオモチャで何時間もイカせ、身体には洗濯バサミを無数につけたまま、首輪とリードをつけたまま延々と奉仕させる。少しでも歯が当たろうものならリードを引いて部屋中を引きずり回し、髪を掴んだまま何度もビンタをしながら責めたてた。ハプバーにも連れていき、単男誰かれ構わず声を掛けさせ5人6人は当たり前、店にいる全員に辱められる事を繰り返した。もちろんその後はホテルに引きずりこみ、誰が良かったか何回イッたのか、両手を吊るし上げたまま何度も強烈なスパンとビンタを繰り返し身体は真っ赤に腫れあがるが、それでも手を緩めない。痛みと恐怖に幾度も腰を震わせながら床を濡らし何度も果てていた彼女。完全にトランス状態に陥り目は虚ろ、涎を垂らしたそんな時に掛けて欲しい言葉を、彼女から予め聞いていた。
『売女(ばいた)が』
普段は使うことない言葉だが、この言葉をきっかけに彼女は正気を取り戻す。
被虐の底で蠢いていた彼女に激しい怒りが沸き上がり、自分に唾を吐きかけ罵り続けてふと我に返る瞬間。
彼女の肉親同士が金銭のやり取りで身体を許す行為を、激しく恨んで汚いものと認識いたのかは分からないが、きっと彼女が一番憎んでいたのは父親じゃなく母親だったのかもしれない。
マゾヒストの根底には『罰を受ける』があるとずっと昔に聞いた事がある。
自分は父親に犯され辱められた汚れた女と、彼女はよく口にした。
父親に汚された自分を誰が許してくれるのか。どこまで堕ちれば許されるのだろうか。
彼女は自傷でも引き篭もる訳でもなく、セックスを罰として幾度となく身体を汚し続け、堕ちれば堕ちる程汚れていく自分と浄化されたい自分が絡まったまま、堕ちる無間地獄にいる事を、ずっと昔......自分に出会う前から知っていたのかもしれない。
でも間違いないのは、父親の愛情にはひどく飢えながらも交わる事のない父親という呪縛に、とらわれ続けていた。
辱めじゃなく普通に抱きしめられ笑顔で話しをしてくれ、悩みを聞いてくれる父親がずっと欲しかった。
愛されたいから恨めないけれど、汚れた自分を許す術を知らない彼女は長い間自分をズタズタに傷つけながらも、いつか普通の愛情に包まれて平穏に過ごす日々をずっと夢見ていたと思う。
多分死ぬまでずっと。
だけどこの時は、彼女にとっての父親の形を実はまだ知らなかった。
自分は出会った頃から彼女の父親と重なって見えていたのかもしれない。その理由を最後まで聞く事はなかったが、許しを乞う相手からの深い愛情にひどく溺れた理由をこの時初めて理解出来、受け入れはしていたけど。
そして、二人が再会して2年近く経とうとした日。(それまでに色々と事件まがいの事や、とても言えない事などあったけど、長くなるのでここでは割愛します)
彼女が離婚を決意した。
少し前から、別れて私と一緒になって欲しいと懇願されていた。
私といると楽しいし飽きないしエッチだし絶対浮気もしないし〇〇も絶対幸せになるから!と何度も言われていたが、自分の性格を知る彼女は諦めるのも早かった。その頃には会う事も少なくなっていたし、少しずつ避け始めていた。
お互いが愛し合うとかではなく、加虐被虐の関係を拗らせ醜態を晒しながら、ただただ性欲と罪と罰に溺れるだけの関係。
もはやそこには、お互いの姿も愛情も存在しなかった。
程なくして彼女は離婚し福岡に戻り、中学時代の同級生と再会しじきに籍を入れるかもという事は、たまに掛かってくる電話で聞いていた。不思議とすごく嬉しく思いながら。
そして、彼女との連絡はそれっきり途絶えた。
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何年経ったか。
ひどく絡んだ醜悪な糸もほどけ、また日常にも慣れ始めた頃、また彼女から電話。
子供増えたのかな?また離婚したんか?まさかまたこっちに来たのか?なんて、呑気に構えて電話に出ると、
『お父さん、昨日ホスピスで亡くなったんだ。ありがとう。これまでずっと苦しめてゴメンね』
末期がんでホスピスにいると、離婚を決意する前から話は聞いていた。元々裕福な家系なのであの手この手を尽くしていたけど、治療の甲斐なく後は余生をホスピスで過ごすだけと。
そう彼女はずっと昔小さな頃から、父親からの無性の愛が欲しかっただけ。母親でも自分でもなく別れた旦那でもなく、誰でもなく。
その父親が亡くなった。
恐らく、父親の愛情と同等以上のものをいつか得られるはずと、ずっと夢見ていた彼女。願わくばもう一度父親から愛されたいし、苗字を父親のものから変えなかった理由が実はそこにあったのかもしれない。
どちらか叶うその時に、初めて自分の罪は許されると思っていたのかもしれない。でも片方はもうこの世にはいない。
父親と娘の、罪と罰
電話越しに大声で泣く彼女と、ずっと黙ったまま電話を握りしめる自分。
ひとりの女性を愛したけど愛しきれなかった悔しさと、敵わぬ父親の存在に打ち消される自分の存在に嫌気がさした頃、
『じゃ、ありがとう。元気で。』
彼女はそれだけを告げて電話を切った。
あれから恐らく15年。携帯に残る彼女の名前と番号をたまに眺める事もあるけれど、ただただ過ぎる日常の一片。
人を愛する罪深さを知る唯一の存在。
違う形で誰かを愛する事はあれど、彼女を愛した自分はもういないし、それを知るのは生涯彼女だけ。
彼女が今どこで何をしているか知る由もないけれど、昔と変わらず屈託のない笑顔と元気な姿で、誰かの愛情に溺れる人生を幸せに歩んでくれてる事を、罪と罰から解き放たれた今、
恐らく世界の誰よりも、
ずっとずっとあなたの幸せを願っています。
出会ってくれて、本当にありがとう。
誰よりも大好きでした。