
外国為替市場における経済指標の影響度について

ニャンコロリン
1. 概要
外国為替市場は、各国の通貨が取引される場であり、その価格変動には様々な要因が影響を与えます。中でも、各国の経済状況を示す経済指標は、投資家の判断材料となり、為替レートを大きく動かす要因の一つです。発表される経済指標の結果が市場の予想と大きく異なる場合、サプライズとなり、より大きな価格変動を引き起こす可能性があります。
2. 指標と為替の影響
一般的に、ある国の経済状況が良好であれば、その国の通貨は買われやすくなる傾向があります。これは、経済成長が企業の収益増加や雇用改善につながり、投資の魅力が高まると考えられるためです。逆に、経済状況が悪化している場合は、その国の通貨は売られやすくなります。ただし、経済指標の発表後の為替レートの動きは、単に指標の良し悪しだけでなく、市場の期待値や他の要因(金融政策、地政学リスクなど)との組み合わせによって複雑に変動します。
3. 指標の種類
以下に、主要な経済指標とその為替市場への影響度をまとめました。
✅影響度合いに関する凡例
⭐️ :価格への影響はごくわずか
⭐️⭐️ :価格への影響があるため注意すること
⭐️⭐️⭐️ :価格への影響が大きいため極めて注意が必要
1️⃣ 雇用統計
- 雇用統計は、主に各国の労働市場の状況を示す指標です。特に米国の雇用統計は、毎月第一金曜日に発表されることが多く、世界中の市場参加者が注目しています。失業率、非農業部門雇用者数、平均時給などが主な項目です。
🔘価格への影響
雇用者数の増加や失業率の低下は、景気回復の兆候とみなされ、その国の通貨が買われる要因となります。特に、非農業部門雇用者数の大幅な増加は、強い経済成長を示唆するため、大きな価格変動を引き起こす可能性があります。平均時給の上昇は、インフレ懸念を高める可能性があり、金融引き締め観測から通貨高につながることもあります。
🔘影響度合い:⭐️⭐️⭐️
2️⃣ 国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)
- GDPは、一定期間内に国内で生産された財・サービスの付加価値の合計額であり、国の経済規模や成長率を示す最も重要な指標の一つです。通常、四半期ごとに発表されます。
🔘 価格への影響
GDP成長率が高い場合、その国の経済が順調に拡大していると判断され、通貨が買われる傾向があります。逆に、成長率が低い場合やマイナス成長の場合は、景気後退の懸念から通貨が売られることがあります。
🔘 影響度合い:⭐️⭐️⭐️
3️⃣ 消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)
- CPIは、消費者が購入する商品やサービスの価格変動を示す指標であり、インフレ率を測る上で重要な指標です。通常、毎月発表されます。
🔘 価格への影響
CPIの上昇は、インフレが進んでいることを示唆し、中央銀行の金融引き締め(利上げ)観測を高める可能性があります。一般的に、利上げは通貨高要因となります。ただし、急激なインフレは経済の不安定要因ともなり得るため、注意が必要です。
🔘 影響度合い:⭐️⭐️⭐️
4️⃣ 卸売物価指数(PPI:Producer Price Index)
- PPIは、企業間で取引される商品やサービスの価格変動を示す指標です。CPIの先行指標となることがあり、インフレの兆候を早期に把握するために注目されます。通常、毎月発表されます。
🔘 価格への影響
PPIの上昇は、将来的なCPIの上昇を示唆する可能性があり、インフレ懸念から通貨高につながることがあります。
🔘 影響度合い:⭐️⭐️
5️⃣ 製造業PMI / 非製造業PMI(Purchasing Managers' Index)
- PMIは、企業の購買担当者に景況感についてアンケート調査を行い、その結果を指数化したものです。製造業と非製造業の活動状況を把握でき、景気の先行指標として注目されます。一般的に、50が景気拡大・縮小の分かれ目となります。通常、毎月発表されます。
🔘 価格への影響
PMIが50を上回っている場合、景気拡大を示唆し、通貨が買われることがあります。特に、市場予想を大幅に上回る場合は、強い上昇要因となることがあります。
🔘 影響度合い:⭐️⭐️
6️⃣ 小売売上高
- 小売売上高は、小売業の売上高の変動を示す指標であり、個人消費の動向を把握するために重要です。通常、毎月発表されます。
🔘 価格への影響
[小売売上高の増加は、個人消費が活発であることを示唆し、景気回復の兆候とみなされ、通貨が買われることがあります。
🔘 影響度合い:⭐️⭐️
7️⃣ 貿易収支
- 貿易収支は、一定期間における輸出額から輸入額を差し引いたものです。黒字は輸出超過、赤字は輸入超過を示します。通常、毎月発表されます。
🔘 価格への影響
貿易黒字は、その国の通貨に対する需要が高いことを示すため、通貨高要因となることがあります。一方、貿易赤字は、通貨供給量の増加につながる可能性があり、通貨安要因となることがあります。ただし、短期的な為替レートへの影響は他の要因に比べて小さい場合があります。
🔘 影響度合い:⭐️
8️⃣ 消費者信頼感指数
- 消費者信頼感指数は、消費者の景気に対する信頼度を示す指標です。消費者の今後の支出意欲を測る上で参考になります。調査機関によって発表頻度が異なります(月次、四半期など)。
🔘 価格への影響
消費者信頼感指数が高い場合、今後の消費拡大が期待され、景気回復の兆候とみなされ、通貨が買われることがあります。
🔘 影響度合い:⭐️
9️⃣ 政策金利
- 政策金利は、中央銀行が金融政策の手段として設定する金利です。金融機関間の短期資金の貸し借りや、中央銀行からの資金調達の際の金利に影響を与えます。発表頻度は中央銀行の金融政策決定会合によります。
🔘 価格への影響
政策金利の引き上げは、一般的にその国の通貨の金利の魅力を高め、通貨高要因となります。逆に、引き下げは通貨安要因となることが多いです。ただし、市場は将来の金利動向を織り込んでいる場合があるため、発表内容だけでなく、将来の金融政策に関する中央銀行の声明も重要になります。
🔘 影響度合い:⭐️⭐️⭐️
4. 指標の深堀
1️⃣ 雇用統計を深掘る
米国の雇用統計は、労働市場の健全性を示す最も重要な指標の一つとされており、特に以下の点が注目されます。
- 非農業部門雇用者数 (Nonfarm Payrolls): 農業部門以外の産業で働く人の数の変化を示し、景気の勢いを測る上で最も注目される項目です。
- 失業率 (Unemployment Rate): 労働力人口に対する失業者の割合を示し、労働市場の需給バランスを把握する上で重要です。
- 労働参加率 (Labor Force Participation Rate): 労働力人口の割合を示し、潜在的な労働力の動向を把握する上で参考になります。
- 平均時給 (Average Hourly Earnings): 労働者一人当たりの平均賃金の変化を示し、インフレ圧力の度合いを測る上で重要です。
市場は、これらの指標の結果と事前に発表された市場予想との乖離に大きく反応します。予想を大幅に上回る良好な結果はドル買いを、下回る悪い結果はドル売りを招きやすい傾向があります。
2️⃣ 国内総生産(GDP)を深掘る
GDPは、名目GDPと実質GDPの2種類があります。為替市場でより注目されるのは、物価変動の影響を除いた実質GDPの成長率です。
- 成長率: 前期比年率や前期比などで示され、経済の成長速度を把握できます。
- 構成要素: 個人消費、設備投資、政府支出、純輸出(輸出-輸入)の内訳を見ることで、成長の牽引役や弱点となっている部分を分析できます。
GDPの発表は通常、速報値、改定値、確報値と段階的に行われ、それぞれの発表で市場が反応することがあります。
3️⃣ 消費者物価指数(CPI)を深掘る
CPIには、総合CPIとコアCPIがあります。コアCPIは、価格変動の激しい食料品とエネルギーを除いたもので、より基調的なインフレの動きを示すとされています。
- 総合CPI: 全ての品目を含むCPIで、生活実感に近いインフレ率を示します。
- コアCPI: 食料品とエネルギーを除いたCPIで、一時的な要因を除いたインフレのトレンドを把握できます。
中央銀行は、インフレ目標を設定し、CPIの動向を金融政策の重要な判断材料としています。
4️⃣ 卸売物価指数(PPI)を深掘る
PPIも、最終財PPIと中間財PPIなどに分類されます。最終財PPIは、消費者に販売される前の段階の価格を示すため、CPIへの波及効果が注目されます。
- 最終財PPI: 消費者向けに販売される財の価格変動を示します。
- 中間財PPI: 生産財や原材料などの価格変動を示し、将来の最終財価格に影響を与える可能性があります。
PPIの上昇は、企業のコスト増加を通じて、将来的な消費者物価の上昇につながる可能性があります。
5️⃣ 製造業PMI / 非製造業PMIを深掘る
PMIは、速報性と市場のセンチメントを反映する点で重要視されます。特に、主要国のPMIはグローバルな景気動向を把握する上で役立ちます。
- 新規受注: 将来の生産活動を示す先行指標となります。
- 生産: 現在の生産活動の状況を示します。
- 雇用: 企業の雇用意欲を示します。
- 入荷遅延: サプライチェーンの状況を示します。
- 在庫: 企業の在庫水準を示します。
- 価格: 投入コストや販売価格の動向を示し、インフレ圧力の兆候となります。
50を大きく上回る数値は強い景気拡大を示唆し、通貨高要因となることが多いです。
6️⃣ 小売売上高を深掘る
小売売上高は、名目値だけでなく、物価変動の影響を除いた実質値も重要です。また、自動車販売を除いた数値も、より基調的な消費動向を示すとして注目されることがあります。
- 耐久財: 自動車や家電製品など、長期間使用される財の売上高を示します。
- 非耐久財: 食料品や衣料品など、比較的短期間で消費される財の売上高を示します。
個人消費はGDPの大きな割合を占めるため、小売売上高の動向は景気判断に大きな影響を与えます。
7️⃣ 貿易収支を深掘る
貿易収支は、財の輸出入だけでなく、サービスの輸出入も含まれます。また、原油価格などの商品価格の変動も貿易収支に大きな影響を与えることがあります。
- 財の貿易収支: 機械製品、自動車、電子部品などの輸出入の差額を示します。
- サービスの貿易収支: 運輸、旅行、金融などのサービスの輸出入の差額を示します。
貿易黒字が持続的に拡大している国は、経済の競争力が高いとみなされ、通貨が買われやすい傾向があります。
8️⃣ 消費者信頼感指数を深掘る
消費者信頼感指数は、調査機関によって算出方法や対象となる項目が異なります。代表的なものとしては、ミシガン大学消費者信頼感指数やコンファレンスボード消費者信頼感指数などがあります。
- 現状評価: 現在の経済状況に対する消費者の評価を示します。
- 期待指数: 将来の経済状況や雇用、収入などに対する消費者の期待を示します。
消費者のマインドは、実際の消費行動に影響を与える可能性があり、景気の先行指標として注目されます。
9️⃣ 政策金利を深掘る
政策金利は、短期金融市場の金利を通じて、経済全体の金利水準に影響を与えます。中央銀行は、インフレ抑制や景気刺激のために政策金利を調整します。
- 公定歩合: 中央銀行が市中銀行に融資する際の金利です。
- フェデラルファンド金利 (FFレート): 米国の金融機関同士が短期資金を貸し借りする際の金利で、米国の金融政策の誘導目標となっています。
- 無担保コール翌日物金利: 日本の金融機関同士が短期資金を貸し借りする際の金利で、日本銀行の金融政策の誘導目標となっています。
市場は、現在の政策金利の水準だけでなく、将来の金利動向に関する中央銀行のフォワードガイダンス(将来の政策運営に関する情報発信)にも注目しています。
5. 付録
1️⃣経済指標のサイト(おすすめ)
見やすさだけで選んだ2社です。


2️⃣用語集
用語 | かな読み方、英語 | 説明 |
雇用統計 | こようとうけい、Employment Statistics | 各国の労働市場の状況を示す統計。失業率や雇用者数などが含まれる。 |
国内総生産 | こくないそうせいさん、GDP:Gross Domestic Product | 一定期間内に国内で生産された財・サービスの付加価値の合計額。国の経済規模や成長率を示す。 |
消費者物価指数 | しょうひしゃぶっかしすう、CPI:Consumer Price Index | 消費者が購入する商品やサービスの価格変動を示す指標。インフレ率を測る上で重要。 |
卸売物価指数 | おろしうりぶっかしすう、PPI:Producer Price Index | 企業間で取引される商品やサービスの価格変動を示す指標。CPIの先行指標となることがある。 |
製造業PMI | せいぞうぎょうピーエムアイ、Manufacturing PMI | 製造業の購買担当者に景況感についてアンケート調査を行い、その結果を指数化したもの。景気の先行指標の一つ。 |
非製造業PMI | ひせいぞうぎょうピーエムアイ、Non-Manufacturing PMI | 非製造業(サービス業など)の購買担当者に景況感についてアンケート調査を行い、その結果を指数化したもの。景気の先行指標の一つ。 |
小売売上高 | こうりうりあげだか、Retail Sales | 小売業の売上高の変動を示す指標。個人消費の動向を把握するために重要。 |
貿易収支 | ぼうえきしゅうし、Trade Balance | 一定期間における輸出額から輸入額を差し引いたもの。黒字は輸出超過、赤字は輸入超過を示す。 |
消費者信頼感指数 | しょうひしゃしんらいかんしすう、Consumer Confidence Index | 消費者の景気に対する信頼度を示す指標。今後の消費動向を予測する上で参考になる。 |
政策金利 | せいさくきんり、Policy Rate | 中央銀行が金融政策の手段として設定する金利。金融機関間の短期資金の貸し借りなどに影響を与える。 |
インフレ率 | インフレりつ、Inflation Rate | 物価が持続的に上昇する割合。CPIなどの物価指数を用いて算出される。 |
金融引き締め | きんゆうひきしめ、Monetary Tightening | 中央銀行がインフレ抑制などのために、市場の資金量を減らす政策。金利引き上げなどが代表的。 |
利上げ | りあげ、Interest Rate Hike | 中央銀行が政策金利を引き上げること。通貨高要因となることが多い。 |
景気後退 | けいきこうたい、Economic Recession | 経済活動が一定期間以上、持続的に縮小すること。一般的に、実質GDPが2四半期連続でマイナス成長した場合などとされる。 |
景気回復 | けいきかいふく、Economic Recovery | 景気後退の後、経済活動が再び拡大に向かうこと。 |
金融政策 | きんゆうせいさく、Monetary Policy | 中央銀行が物価の安定や雇用の最大化などを目的として行う政策。政策金利の調整や公開市場操作などがある。 |
中央銀行 | ちゅうおうぎんこう、Central Bank | 各国の中央に位置する銀行。通貨の発行や金融政策の決定・実行などを行う。 |
為替レート | かわせレート、Exchange Rate | 異なる通貨間の交換比率。 |
サプライズ | surprise | 市場の予想外の結果のこと。経済指標の結果などが市場の予想と大きく異なる場合に起こりやすく、大きな価格変動を引き起こす可能性がある。 |
投資魅力 | とうしみりょく、Investment Attractiveness | 投資対象としての魅力度。経済成長や金利水準などが影響する。 |
金融引き締め観測 | きんゆうひきしめかんそく、Monetary Tightening Expectations | 市場参加者が中央銀行の金融引き締め政策(利上げなど)を予想すること。 |
先行指標 | せんこうしひょう、Leading Indicator | 景気の将来の動きを示すとされる指標。製造業PMIや消費者信頼感指数など。 |