・パワーワードに隠された真実
かつて世間を賑わせた「不倫は文化」というパワーワード。真相ついては、動画の26:45〜石田さん自ら語っています。
万葉集・古事記と律令制
現存する日本最古の歌集『万葉集』は〈人妻〉ブームと云われている程、人妻の文字が多く見られます。万葉集の時代はまだ日本固有の文字がなかったので、中国の漢字を当てて書かれています。〈人妻〉は中国由来なのか?というと、そうではありません。「人の妻」という文字こそ出現するものの、日本語訳にある「人妻」という熟語は当時の万葉人が影響を受けたとされる漢詩集からは見当たりませんでした。
高貴な人による人妻の歌で有名なのが額田王(ぬかたのおおきみ)の、
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に対して、皇太子(ひつぎのみこ)がこたえた歌。
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詠み手の”皇太子”は大海人皇子(おおあまのおうじ)というのが通説ですが、この時天智天皇の妻だった額田王は、それ以前に大海人皇子の妻として十市皇女(とおちのひめみこ)を産んでいます。
つまりこの歌は、大海人皇子が今は人妻となった元妻に送っています。
・この歌と日本に律令制が導入された時期が重なる。
・天智天皇、特に大海人皇子は律令国家推進の立役者。
・万葉集にある14の「人妻」歌が作られた年代が、まさに律令制の時代。
律令制(律=刑法、令=民法)が導入されたことで、日本で初めて婚姻に関する規定が生まれました。唐(中国)ではたとえ未婚の男女でも婚前交渉は「姦罪」として処罰されましたが、日本の律では、人妻と情交した者・人妻の身で情交に応じた者だけが「姦罪」の対象となるというゆるい規定になっています。
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「セックス→結婚」というのが、古代の日本人の順番でした。
当時の官僚としては、「結婚→セックス」の唐と同じような法を整備したい気持ちは山々ながら、事は自分たちの首に関わる問題なので、免官等の対象は人妻不倫だけにとどめたのでは?という説があります。
逆をいうと、人妻不倫だけは、古代官僚の感覚からしても「マズイ」という気持ちがあったのではないでしょうか。
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平安文学と不倫
平安文学に頻繁に出てくる〈宿世(すくせ)〉は元来、前世に決められた運命といった意味ですが、平安文学ではほぼ全てが「男女のことは前世から決められた宿世だから何があっても致し方ない」という性愛関係の文脈で出てきます。
・『源氏物語』で源氏が父帝の正妃藤壺を犯すのも宿世。
・藤壺が源氏の子を妊娠するのも宿世。
じたばたしてもどうにもならない。仕方がないというわけで、不倫は許されてしまう仕組みでした。
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恣意的な切り取り
確かに、石田さんは「不倫を否定することは、全ての文化を否定するようなもの」とは言いましたが、それを要約すると「不倫は文化」になりますか?
明らかに記者の〈恣意的な切り取り〉ですね。
私も当時は「不倫は文化」との文言にことごとく操られ、〈自分を正当化する為の言い訳〉だと思っていました。しかし真相を知り、それはとんだ勘違いでした。
石田さん、ごめんなさい。
ちなみに、当時の不倫相手は独身女性なので、人妻不倫ではありません。奈良時代の律令制にあたる「姦罪」は適用されません。平安時代においても、宿世ということで許されます。
しかしながら、現実において不倫は許されません。