何か、大いなる力に誘われるかのように新宿に向かった。新宿に行けば新たな自分になれる気がしたのだ。
半蔵門線九段下駅で都営新宿線に乗り換え、日本最強の繁華街に向かう。いつか自分が日本最強の繁華街に引っ越すとき、どこに住むべきなのか、下見をしておきたかった。第一の候補が「ラ・トゥール」である。なんだか金持ちそうな響きがある。
電車に揺られながらいつも考える。
「この移動時間が、もどかしい」
近所を散歩するように、ふらりとコンビニに行くように、ストリートナンパに出かけられたらどんなにたくさんのチャンスに恵まれるだろうか。
人生の充実に、繁華街の住居は不可欠だ。女と自宅の距離は限りなく近くしなければならない。職住近接ならぬ、女住近接である。
さて、電車に揺られること30分。いつものように、新宿駅ではなく新宿3丁目駅で降りた。理由などない。人が多すぎる駅を本能的に避けているのかもしれない。新宿3丁目も同じ新宿なので問題はない。
上野でストリートナンパしながら散歩...略して「ナンポ」してきた
新宿3丁目で電車から降りるや否や、龍が如く、階段を駆け上がった。
うおお、新宿ダァと地上に出た瞬間、映画館があったので、いつものようにトイレに駆け込んだ。僕はトイレが近いのだ。基本的に常時お腹を下している。

WALD9 という、中にはオタクみたいなのがたくさんいるビルを彷徨い、トイレを活用し、脱出する。ここは新宿だ。新宿にいる、というだけでこみ上げてくるものがあった。僕は人がたくさんいる街が好きなのだ。
5月5日は風が強かった。
セットしてきた髪が乱れた。だが、風は万人に平等に吹いている。条件は女も同じだ。
同じ「乱れ」なら髪が少ない僕が勝つ。足りないのは髪ではなく、女そのものをベッドで乱れさせる覚悟だけだ。まずはラ・トゥールの見学。その後で、女を倒す。と意気込んで Google Maps に「ラ・トゥール新宿」と打ち込む。結果を見て、激しく後悔した。
ラ・トゥールは西新宿。都庁の方向にあって、新宿3丁目とは真逆だったのだ。ラ・トゥールのおしゃれなイメージから、なぜか新宿3丁目にあると思い込んでいた。全然違った。仕方なく、新宿の街を歩く。けっこう遠かったので、ラ・トゥールに着く頃には力尽きているかもしれないが、距離感を知るために、歩くのは重要だ。

新宿の街を歩く。途中、怪しい光を発するビルを見つけ、もしやあれが都庁なのでは...?と思ったが、おそらくドコモのビルであると判断し、近づくのをやめた。
まっすぐ都庁に向かうと、なんだか人が多くなったきた。そうだ、ここが新宿なのだ。

行き交う人々を見て楽しくなっていた。新宿は良い。歩いていると、面白い広告を見つけた。

わかるだろうか。青汁王子である。お前、こんなところで何やってんだ?
青汁王子が不敵に笑う。
まっすぐにラ・トゥール側に歩くと、だんだんと人がいなくなってきた。ここは本当に新宿か?

ゴールデンウィークとはいえ、この寂しさは少なからず僕を落胆させた。もっと人が溢れていると思っていたのだ。女の子を家に連れ込むには、繁華街で飲んで、そのまま流れるように家に着いていたい。こんな暗くて静かで怪しい道を長々と歩けば、女の子の酔いも気持ちも冷めてしまう。

途中、都庁を見つけた。クッパ城のような都庁の上で、小池都知事は笑っているのだろうか。彼女が何一つ公約を守っていないことを、僕たちは忘れてはならない。

寂しげな街をさらに歩くと、ラ・トゥールの香りがした。ついにたどり着いた。

外からマンションを見る、というと痛くて怪しい人物と思われるかもしれない。私は一向に構わん。なぜなら、目標を達成するコツは、目標の姿を具体化することだからだ。
大学受験のときにも言われていたではないか。
「東大に入りたければ、まず東大を見に行きなさい。そして、そこに通う自分の姿を強く思い描きなさい」
私はラ・トゥールに住みたかったので、ラ・トゥールを見に行った。なんか、すごい虚しくなった。

綺麗なマンションはセキュリティがしっかりしていて、私のような人物がいたからといって、中の安全性は全く揺らがない。というか、大勢のウーバーイーツの人が常時出入りしていた。マンションの前には広場があって、何人か普通に座っていた。
遠かった。ラ・トゥールの見学が終わり、正直な感想を言おう。住めるわけでもないのに、感想を言おう。
ここは、家族で住むマンションである。チンポを勃起させて住むようなマンションではない。というのも、繁華街からちょっと遠い。街が優しすぎる。
アポの店からは遠いし、静かで、人が少ない。幸せそうな家族連れにふさわしいマンションで、チンポ男が住むのはもうちょっと繁華街から近くてガチャガチャしたところが良い。
逆に新宿にこんな静かな地域があるのを知ることができたのは、ちょっとした学びであった。新宿のすべてがガチャガチャしているわけではないのだ。

クタクタになりながらも、街の明かりに引き寄せられるように新宿駅に向かう。向かう道はやはり静かで、人は少なかった。
途中、しょんぼりとした足取りの女を見つけた。歩くのが遅い女は落としやすい、とどこかのナンパ師が書いていたのを読んだことがある。さっそく声をかけた。
💁🏻♂️「あの、もし元気ないなら、飲み行きません?」
女の子はハッとしてこちらを向いた。
💁🏻♂️「めちゃくちゃしょんぼりしてるなって思って」
女は答えた。マスクをしていたが、目はくっきりとした二重で、絶対に美人だと思った。
💁🏻♀️「今日オーディションで疲れ切ってしまって」
💁🏻♂️「オーディション!?なんとか...48ですか?俺、絶対投票する!」
💁🏻♀️「いえいえ、劇のオーディションです」
💁🏻♂️「朝から晩まで?」
💁🏻♀️「そういうわけでもないんですけど、出し切って疲れちゃって」
ここまで話したところで、僕はなぜか、女を応援するスタンスで行ってしまった。自信を持って、自分の話をして、自分とこれから一緒にいるベネフィットを提示できればよかったのに、なぜか「応援する!」みたいに明るく言い放ち、とにかく明るい安村のごとく別れを告げた。モテない男の特徴は、自分が提供する価値を信じきれない点にある。
しかし、こんな些細なやり取りからも得られた教訓は、大きな駅のそばに住めば、こういうチャンスは無数に発生する、ということだ。やはり新宿か渋谷に住まなければなるまい。
新宿駅まで歩き、トイレに行きたくなったのでパチンコ屋に駆け込んだ。
「モテ男にとって、東京は無料の風俗だ」という名言があるが、僕にとってパチンコ屋は無料のトイレだ。
新宿でナンパしてもよかったが、90分近く歩き続けて正直疲れ切っていた。新宿駅で帰りの電車に乗る。
女の収穫はなかったが、大きな学びはあった。
やはり繁華街近くに住むべきである点。
そして、ラ・トゥール新宿は素晴らしいマンションだが、勃起した男が住むような場所でもない点。
実際に、見に行ってよかった。僕のとっては東大が爆破されたような衝撃...というほどではないが、新たな目標を見つけなければなるまい。
ちなみにラ・トゥール新宿の家賃は50万円である。これくらいの家賃を払えば、都心のタワーマンションで優雅に暮らすことができる。