中学3年まで陸上部で全国大会まで出場経験がまなみにはあった。将来も嘱望されていくつか推薦の話もあった。しかし、高校は陸上部が弱い高校に進学。というのも、東京の高校で学校がキレイだから、というだけ理由だ。学力も高く進学に有利ではあったため両親もすんなりとOKしてくれた。
高校に入学後、すぐに友達もできた。まなみは気が強い方でプライドも高い。黒髪ロングにキリッとした目鼻立ち。165㎝48kgの体型で身長も高いせいか廊下を歩くだけでも目立つ学年でもトップの美人だった。部活はとりあえず陸上部に入部。練習日は週に4回で内容もかなり緩い。特別やる気のなかったまなみだったが、
「え、あの〇〇中でレギュラーだったの?」
「全国も決勝まで出てるし」
「やばい、タイムうちらより早いよ!」
「もしかしたらうちら今年県大会超えられるかも!」
と勝手に持て囃され、部内のモチベーションも上がってしまっていた。
部員数も短距離部門で12人と少ない。
新1年生が7人ほど入ったがそれでも少ないほうだった。
まなみは同じ神奈川からきていたりさと仲良くなった。一年生のレベルもかなり低く、りさも速くはなかった。
久しぶりにしっかり走ったまなみだが、全くブランクを感じさせないような走りを見せ周りを驚かせた。
引退してからも一応トレーニングは続けてたけどこんだけレベル低いなら余裕ね。
と、まなみは自信満々だった。適当にアップして適当に走っても先輩たちが追いつかない。
「もっとちゃんと練習したらどうですか?」
「いや〜まなみちゃんみたいにポテンシャルがないからな〜」
「先輩たち県大会入賞したいとか息巻いてる割に遅いんで。」
「なんとか頑張るよみんなで!」
「私頼りになるのだけやめてくださいね」
レベルの差がはっきりしている割に調子の良いことを言ってくる先輩にまなみは腹を立てていた。部室で適当なことを言ってくる先輩にはこんなふうに突っかかってしまっていた。
「まなみちゃん、ちょっと控えたほうが…」
そうなだめてくるのはりさだった。
「いや、りさもだよ?意識低いから先輩たちにも負けるんだよ?」
次第にどこか孤立していくような感じになっていった。とはいえ部活で顔を合わせるのは週に4日。入る以上は結果を出したい気持ちもあったまなみはそれくらいのことは耐えられた。
転機
しかし、6月も後半のある日、足首の靭帯を損傷するケガをしてしまった。しばらくリハビリ組での練習を余儀なくされた。だが、特別モチベーションがあった入ったわけではない部活だったためなんとも思わなかった。適当に時間を潰して帰る毎日。
さらに、夏休み中盤。リハビリ中、靭帯はもう少しというときに階段から転落してさらに骨を折ることになった。
それからは顧問や先輩に言って独自でリハビリセンターや治療院に通うことにした。りさは少し悲しがっていたが、3年生は最後の大会にまなみが出られないことを知ってどこかほっとしていたようだった。
後期が始まって放課後が暇になったせいもあって美代とよく遊ぶようになった。
なかなかテンションが高くて面白い子。
だが、太目な体型だったため、かわいくはなかった。いわゆる「デブキャラ」でみんなを笑わせるタイプ。サバサバしていて同じクラスで当初から気があった。愛される女子で交友関係も広く、かねてからよく遊びにも誘われていた。
美代と遊ぶと大体食事をとる。特に食べ放題や甘いのが大好きだ。ある日は学校終わりにラーメン。
少し遊んでからさらにデザートを食べたり、コンビニで買い食いをしたり、食べ放題のあと美代の家でお菓子を食べながら映画をみることもよくあった。
「あんたほんとほっそいよね!」
「まあ陸部だからね」
なんて言いながら二人でケラケラ笑って美代の腹を叩くのはもはや定番。
いままで食にそこまで関心がなかったまなみも、お菓子やジュース、コンビニのご飯にまで興味を持つようになっていた。
感触
今までリハビリに使っていた時間や、トレーニングしていた時間はかなり減っていった。学校では菓子パンとジュース、合間に美代と一緒になってお菓子。たまにリハビリセンターに行っても帰りはファミレスで勉強しながら好きなものを食べて帰った。
かなり胃袋は大きくなっていた。
まなみはどんなに食べても太らない体質だと思っていたが、実はそうでもなく、気づけばスカートのウエスト調節機能はギリギリのところまで使うようになっていた。スカートも普段はかなり短めだったが、どこか見せるのが恥ずかしくなり折る回数を1つ減らした。
そしてすっかり足も治ったのが11月頃だった。
陸上はオフシーズンで練習内容も基礎練習がメインになっていた。そのため顧問からはリハビリステーションやトレーナーさんと相談しながら個人でトレーニングするようにと言われた。
まなみがいなくては来年の大会のリレーで勝ち上がれないことは見えていて、それを顧問も分かっているからまなみへの対応は優しかった。
露見
12月はじめ、体育の前にジャージに着替えていた。
まなみは半袖短パンのままロッカーでジャージを探していた。長袖長ズボンのジャージを家に忘れてきてしまっているようだった。
すると、前に終わったクラスのりさが忘れ物をとりにやってきた。
「ん?あれ?まなみ、ちゃん、??」
「あ、りさーー」
「あ、よかった。まなみちゃんか、一瞬誰か分かんなかった」
「えーなに、どうゆうこと笑っ 」
「え、いや、なんか背中がたくましくなってみえたから、気のせいかな。笑 トレーニングどう??」
「んー順調だよ!りさもちゃんと練習してる??」
といってしっかりと正面に立ったまなみをりさはまじまじとみてしまった。少し柔らかくなって、大きくなった印象をそのとき確かに受けたらからだ。
「ばっちり!春には今年の倍速くなって、まなみちゃん抜かす!」
「その意気だね!、あ、ジャージかして!」
といって何気なく過ぎていった。