1. 『記憶の階段』
古びた縁側に座り
長谷寺へと続く石段を見上げる
幾千の足音が刻んだ窪み
私の人生もまた
誰かの記憶に窪みを残すのだろうか
紫陽花は雨を纏い
見上げる私に
何も語らない
ただ咲き誇るだけの
その生き方が眩しい
スマートフォンを持つ観光客が
記憶の代わりに写真を撮る
私はただ目に焼き付ける
この瞬間
消えゆく今を
2. 『路地裏の邂逅』
誰も知らない路地を選ぶ
観光客の波から逃れるように
苔むした石垣の隙間から
顔を出す小さな紫陽花
名もなき美しさ
「ここにいたのね」と
声をかけてしまう
返事はないけれど
風が運ぶ
微かな頷き
昨日も今日も
明日も
ここで咲き続ける強さ
都会から逃れてきた私に
無言で教える
根を張ることの意味
3. 『由比ヶ浜の朝霧』
朝靄の中
砂浜に刻まれた足跡は
夜の間に消えている
新しい一日が
また始まる