プロローグ:700万円の破壊検査から得た「一行の仕様」
2011年、私は700万円を失った。
相場が崩壊したのではない。私の頭の中にあった「自分だけはうまくやれる」という制御装置が、過負荷に耐えきれず焼き切れたのだ。
当時の私は、チャートに張り付き、テクニカル分析を重ね、レバレッジをかけてキャピタルゲインを狙っていた。少しの利益に歓喜し、次の急落でパニックになり、最悪の底値で損切りを連打する。気づいたときには、700万円の資金が跡形もなく消滅していた。
材料工学の世界では、部品の限界を知るためにあえて破壊する「破壊検査」という工程がある。私の700万円は、まさにその破壊検査の費用だった。その壊れた残骸の中から拾い上げた仕様は、たった一行である。
「自分を制御装置として信頼してはならない。」
人間は、損失の痛みに耐えられない。相場の急変動に平静でいられない。感情が介入した瞬間、どのような優れた手法もバグを起こして自爆する。
ならば、最初から「人間の感情が入り込めないライン」を組めばいい。
約10年に及ぶR&D(研究開発)を経て、2022年に本稼働を開始した私の現在の運用実績は以下の通りである。
- 総資産: 2,300万円超
- 年間配当: 約42万円(自動着金)
本書で開示するのは、相場を予測するノウハウではない。感情を運用ループから完全に切り離し、工学的に「絶対に売らない」状態を物理的に維持し続ける【二基構成の自動運用システム】の設計図である。
私は、この結果が誰にでも再現できるとも、今後も同じ推移をたどるとも述べない。市場環境が変われば出力は変わる。投資判断とその結果は、最終的にすべて読者自身に帰属する。
第1章:投資のデフォルト設定 —— なぜ「キャピタル狙い」の回路は必ず自爆するのか
損失回避性という生物学的バグ
人間が投資で自爆するのは、意志が弱いからではない。脳のハードウェア仕様が、金融市場の力学と致命的にミスマッチしているからだ。
行動経済学で観測されている通り、人間の脳は「利益から得る喜び」よりも「同額の損失から受ける苦痛」を約2倍から2.5倍強く感じる(損失回避性)。
- 利益領域: わずかな含み益が出ると、「利益を失いたくない」という恐怖が作動し、微小な利益で早々に利確してしまう。
- 損失領域: 含み損が発生すると、「損失を確定させたくない」という拒絶反応が作動し、損切りを先延ばしにして致命傷に至る(塩漬け回路の起動)。
値上がり益(キャピタルゲイン)を主目的に据えた瞬間、この生物学的バグが常時発火する回路が完成する。値動きを監視し、判断を下す工程を人間に委ねる限り、システムはいずれ必ず過負荷で破綻する。
疲労限度という材料工学の視点
金属に繰り返し応力を加えると、疲労限度を超える応力域では、単発では決して壊れない大きさの力であっても微小なクラックが入り、最終的に破断する(金属疲労)。
人間の精神力もまったく同じである。
「暴落しても握り続ける」「感情に左右されない」という精神論は、工学的には「過酷な応力がかかり続けるラインに、何の安全マージンも取らず作業員を放置する」のと同じだ。耐えられるはずがない。
必要なのは、応力そのものを「疲労限度(どれだけ繰り返しても破断しない領域)」の内側に抑え込む構造設計である。
値動きで儲けるのではない。値動きを無視しても自動的に現金(キャッシュ)と複利が蓄積される回路を構築すること。それが本書の設計思想である。
