春野桜は、大学4年生。就職活動の真っ只中だった。
成績は優秀だが、面接でうまく自分をアピールできず、内定獲得に苦戦していた。
ある日、キャリアセンターで偶然出会った先輩、森川翔太に相談することになった。
翔太は昨年卒業したばかりだが、すでに人気企業で活躍し、後輩たちの間で伝説的な存在となっていた。
「春野さん、面接で何を話しているの？」と翔太が尋ねた。
桜は自分の経験やスキルを淡々と説明していると答えた。
翔太は微笑み、「それじゃあ、面接官の心に響かないよ。言葉に色をつける必要があるんだ」と言った。
「色をつける？」桜は首をかしげた。
「そう、聞き手の想像力を刺激する言葉を使うんだ。具体的なイメージを描けるような表現をね」
翔太は桜のエピソードを聞き、それをどう表現すべきか、例を示してくれた。
例えば、桜がボランティアでお年寄りと触れ合った経験を話す時。
変更前：「老人ホームでボランティアをしました。お年寄りとお話しするのが楽しかったです」
変更後：「老人ホームでボランティアをした時、あるおばあちゃんと昔の思い出話に花を咲かせました。おばあちゃんの目が輝き、笑顔がこぼれる瞬間、私の心も温かくなりました。その時、人と人とのつながりの大切さを肌で感じたんです」
桜は目を輝かせた。「なるほど！聞いているだけで、その場面が目に浮かぶようです」
翔太は続けた。「そうなんだ。具体的で感情豊かな表現を使うことで、聞き手の脳内にイメージが広がる。それが共感を生み、心を動かすんだ」
その日から、桜は自分の経験を振り返り、それぞれのエピソードをより鮮明に、感情を込めて表現する練習を始めた。
1週間後、大手広告代理店の面接でのこと。
面接官：「チームワークについてどう考えていますか？」
桜：「チームワークの大切さを痛感したのは、大学の文化祭でイベントを企画した時です。締め切り直前、メンバーの意見が対立して険悪な雰囲気になりました。その時、私は『みんなで美味しいアイスクリームを食べに行こう』と提案したんです。
店に着くと、それぞれが好きな味を選び始めました。チョコ、ストロベリー、抹茶...。そして『お互いの味を少しずつ交換しよう』と言ったんです。すると、みんなの表情が和らぎ、自然と話が弾み始めました。
アイスクリームを通じて、お互いの良さを認め合う大切さに気づいたんです。その後のミーティングでは、それぞれの意見を尊重しながら、新しいアイデアが次々と生まれました。結果、イベントは大成功。チームワークの力を身をもって体験しました」
面接官は目を輝かせ、熱心にメモを取っていた。
面接後、桜は自信に満ちた表情で部屋を出た。
その日の夕方、桜は内定の連絡を受けた。面接官からは「あなたの具体的で生き生きとした話し方に、私たちも感銘を受けました」というコメントが添えられていた。
喜びのあまり、桜は真っ先に翔太に報告した。
翔太は笑顔で言った。「おめでとう！君の言葉が、面接官の心に響いたんだね」
桜は深々と頭を下げた。「翔太さんのおかげです。言葉の力を教えてくれて、本当にありがとうございました」
翔太は首を振った。「いや、それは君自身の努力だよ。言葉の魔法は、相手の心に寄り添おうとする気持ちから生まれるんだ。君はその気持ちを持っていたからこそ、成功したんだと思う」
その後、桜は広告代理店で活躍。
彼女の作るコピーは、多くの人の心を掴み、数々の賞を受賞した。
そして5年後、今度は桜が後輩たちにアドバイスをする立場になっていた。
「言葉には不思議な力があります。単なる情報伝達ではなく、相手の心に寄り添い、イメージを喚起させる言葉を使うことで、人の心を動かすことができるんです」
桜の周りには、いつも後輩たちが集まっていた。
彼女の言葉は、まるで魔法のように人々の心を温め、勇気づけていったのである。
この物語は、言葉の持つ力、そして人と人とのつながりの大切さを教えてくれる。
私たち一人一人が、相手の心に寄り添う言葉を使うことで、世界はもっと温かく、豊かなものになるのかもしれない。
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