1. 商談前のリサーチ、毎回ゼロから始めていませんか
相手の会社を調べたはずなのに、「最近いかがですか」以外の質問が浮かばない。資料はいくつも開いているのに、会話の始め方が決まらない。そんな商談前の場面を想像してください。
この記事では、架空の冷凍食品メーカー「あおぞら食品」を訪ねる営業担当者として、準備を一緒に進めます。
見つかったのは会社紹介と、新商品の発表。その末尾に「ふるさと納税の返礼品としての展開も予定しています」と書かれていました。
ここから、何を聞けばよいでしょうか。「どのように運用していますか」では、もう始まっていると決め付けてしまいます。
メモに残したいのは、「展開はどこまで準備が進んでいますか」という確認質問です。発表を読み直すと、聞くべき言葉も変わります。
- 商談のたびに準備のやり方がバラバラで、前回何を見たか思い出せない
- 日々の対応に追われて、リサーチにまとまった時間を確保できない
- いざ商談が始まると、相手の話よりも自社の説明が長くなってしまう
この「読んだ情報を、決め付けない質問に変える」作業が、準備メモの出発点です。
調べた事実、そこから考えた仮説、まだ分からないことを分けると、次に相手へ確かめる質問を選べます。
まずは、あおぞら食品の短い文章2つから、一社分の簡易メモを作ります。
そこから、情報が少ない場合、業種が変わる場合、商談で予想と違う話が出た場合へと、メモを使い直していきましょう。
準備のやり方や記録場所が人によって違うと、担当が変わったときに、何を調べて何が未確認なのかを引き継ぎにくくなります。
読み終えるころに手元へ残したいのは、会社紹介の長い要約ではなく、根拠と未確認事項が分かる準備メモです。
使うのは、相手企業の公開情報、AIチャット、完成したメモの保存先です。
相手企業の公開情報を集めて、AIチャットに貼り付け、対話しながら一つのメモにまとめる。
AIの下書きを元の情報と照合し、未確認の点を質問へ変えることで、「何を聞くか」「どんな提案が候補になるか」を整理していきます。
完成させるのは、次の4項目を含む「準備メモ」です。
- 相手企業の状況
- 想定される関心
- 商談で使う質問リスト
- 自社から提案できる切り口
対象読者は、営業や商談を担当していて、準備にかけられる時間が限られている方です。
プログラミングやAPI、コマンド操作の知識は一切必要ありません。
普段スマートフォンやパソコンでWebサイトを見たり、文章を入力したりできる方なら、どなたでも読み進められます。
AIチャットの無料アカウントと、Webサイトを見られる端末・インターネット回線を用意してください。
具体的には、ChatGPTまたはClaudeのどちらか一つで構いません。
どちらも無料プランで通常のチャットが利用できます。
Claudeの無料プランでは、ブラウザ・デスクトップ・モバイルでのチャット、Web検索、Artifactsによる文書作成を利用できます。この練習では、ブラウザのチャット入力欄に文章を貼る方法を使います。Claude公式料金・機能案内(2026年10月2日確認)。
ChatGPTにも無料プランがあり、文章で質問や整理を依頼できます。利用する機能や上限は契約・画面の表示を確認してください。OpenAI公式プラン案内/ChatGPTの基本的な使い方(2026年10月2日確認)。
この記事では、Claudeのブラウザ版を例に手順を示します。
ChatGPTをお使いの方も、同じ考え方で読み替えていただけます。
本文の貼り付け演習には有料のAIプランを必須にしません。無料プランの利用上限内で進め、通信費とこの記事の購入代金は別です。
特別なソフトのインストールも、社内システムとの連携も不要です。
ここで扱うのは、あくまで公開されている情報の整理です。
社外秘の資料や顧客の個人情報、取引先から預かった非公開の情報は入力しないでください。
また、CRMへの自動登録や商談の録音・文字起こし、社外秘情報の分析は本記事の対象外です。
準備メモは、商談の1〜2日前に完成させておくのが理想です。
前日までに、情報源との照合と未確認事項の整理を済ませておきましょう。時間が少ない場合の短縮手順は第8章で扱います。
まずはメモを4つの欄に分けます。そのあと、あおぞら食品の発表を読み、質問に変えるところまで試してみましょう。

商談のたびに準備のやり方が違っていて、正直しんどいです……。何から手をつければいいのか毎回迷います。

完璧な準備を毎回ゼロから考えなくて大丈夫です。これから紹介する4項目に絞って、AIチャットに手伝ってもらいましょう。
2. 準備メモに必要な4項目と、AIチャットでの作り方の全体像
会社紹介を読むだけでは、商談で何を聞くかはまだ決まりません。調べたことをどこへ置くか、メモの4つの欄を先に決めましょう。
ここでは、HubSpotの「Pre-call planning(商談前の準備)」を参考にします。調査・商談の目標・質問の準備という考え方を、本記事の4項目へ整理しています(2026年10月2日確認)。
このガイドでは、相手企業の業界動向・競合・財務状況・技術基盤を調べること、相手の役職や経歴・発信内容を調べること、共通の知人を探すこと、商談のゴールを明確にすること、事例や仕様・価格などの支援資料を準備すること、課題や意思決定基準を引き出す質問を用意すること、想定される反論への回答を準備することが挙げられています。
そして、これらを商談の1〜2日前に完成させるワークシートとしてまとめる、という流れが示されています。
全部をいきなりこなすのは大変なので、本記事では実務で使える4項目に絞ります。
1. 相手企業の状況 業界での立場、最近の動き、公開されているニュースやプレスリリースから分かること。まずはここを押さえると、相手の置かれた状況が見えてきます。
2. 想定される関心 公開情報をもとに考えた、商談で確かめたいテーマです。根拠となる記述を添えて「仮説」と明記し、相手の実際の関心とは区別します。根拠がなければ「情報なし」と残します。
3. 質問リスト 相手の課題や希望、意思決定の条件を引き出すための質問。商談の場で実際に口に出せる言葉にしておきます。
4. 自社から提案できる切り口 確認済みの自社サービスと、相手に確かめたい関心を結び付ける仮説です。商談で条件を確認するまでは提案候補として扱い、自社にない機能や未確認の効果を付け足しません。
この4項目が埋まっていると、商談中に「何を聞くか」「何を話すか」で迷いにくくなります。
次に、作り方の全体像です。
やることは3ステップだけです。
ステップ1: 情報を集める 相手企業の公式サイト、プレスリリース、業界ニュースなど、誰でも見られる公開情報を集めます。全部を読む必要はなく、要点が分かる部分をコピーできれば十分です。
ステップ2: AIチャットに貼る 集めたテキストをコピーして、AIチャットの入力欄に貼り付けます。ファイルの添付ができる場合は、PDFやテキストファイルをそのまま渡すこともできます。会社名や部署名などの固有名詞は、公開情報の範囲でそのまま使って構いません。
ステップ3: メモの形に整えてもらう 「この情報をもとに、4項目の準備メモにまとめて」と依頼します。AIが下書きを作るので、内容を確認し、足りない部分は追加で質問します。
3ステップを使って目指す状態を、準備メモを残していない場合と比べてみましょう。
【Before】
- 何を見たか、どこに書いたかが残らない
- 商談直前に慌ててサイトを眺める
- 聞きたいことを思いつきで話し、抜け漏れが出る
- 自社の説明が中心になる
【After】
- 準備メモが1枚残り、次回の商談でも見返せる
- 前日までに4項目が埋まっている
- 質問リストを見ながら商談を進められる
- 相手の関心に沿った提案の切り口を用意できる
この違いを生むのは、特別なスキルではありません。
情報源と確認日を残し、AIへの指示をそろえ、最後に人が事実・仮説・未確認事項を見分けることが要点です。
AIチャットは、あなたの代わりに営業をしてくれる存在ではありません。
あなたが集めた材料を、読みやすいメモの形に整える手助けをしてくれます。
だからこそ、どんな情報を渡すかが大切になります。
では、あおぞら食品の会社紹介と発表文を読んでみましょう。「展開予定」という一文を、状況の欄と質問の欄へどう書き分けるかが最初の練習です。

3. 無料でできる、1社分の簡易準備メモを作ってみる
ここからは、架空の入力文と完成例を使った練習です。
題材として、架空の企業を一つ用意しました。
ここに登場する会社名や文章はすべて例として作ったもので、実在の企業ではありません。
題材: 株式会社あおぞら食品(架空)
架空の公式サイトの会社紹介(練習用の文章): 「株式会社あおぞら食品は、1998年に創業した冷凍食品の製造・販売会社です。
近年は業務用から家庭用へと販路を広げ、2023年にはオンラインストアを開設しました。
『忙しい毎日でも、おいしい食事を』をブランドメッセージに掲げ、時短ニーズに応える新商品の開発に注力しています。」
架空のプレスリリース(練習用の文章): 「2026年9月、当社は新ブランド『時短ごはん』シリーズを発売しました。
電子レンジ調理のみで完結する商品ラインナップで、子育て世帯を中心に支持を広げています。
今後は小売店での展開に加え、ふるさと納税の返礼品としての展開も予定しています。」
この2つの文章だけでも、相手企業の動きがかなり見えてきます。
公式サイトとプレスリリースは、誰でも無料で見に行ける情報源です。
ここで、AIチャットに次のように依頼します。
AIチャットへの指示文(例) 「以下は練習用に作った食品会社の会社紹介とプレスリリースです。(1)相手企業の状況、(2)想定される関心、(3)商談で使う質問リスト、(4)自社から提案できる切り口の4項目で準備メモを作ってください。状況は入力文にある事実だけにし、予定を実施済みと書き換えないでください。関心と提案は根拠を添えた『仮説』として分けてください。根拠のない事実、数字、自社サービスの機能は補わず、『情報なし』と明記してください。質問も、未確認の課題や運用開始を前提にしないでください。自社サービスは未入力です。」
(この後に、先ほどの2つの抜粋を貼り付けます)
AIチャットの出力イメージ(例)
- 相手企業の状況
- 1998年創業の冷凍食品メーカー
- 業務用から家庭用へ販路拡大
- 2023年にオンラインストアを開設
- 2026年9月に新ブランド「時短ごはん」を発売
- ふるさと納税の返礼品としての展開を予定
- 想定される関心(商談で確かめる仮説)
- 子育て世帯への届け方。根拠:新ブランドの発表で対象として挙げている。
- オンラインストアと小売店の役割分担。根拠:複数の販路が記載されている。
- 返礼品展開の準備。根拠:ふるさと納税の返礼品としての展開は『予定』であり、開始済みとは確認できない。
- 商談で使う質問リスト
- 新ブランド「時短ごはん」の反響はいかがですか
- オンラインストア開設から、販売の手応えに変化はありましたか
- ふるさと納税の返礼品としての展開は、現在どの段階まで準備が進んでいますか。運用体制はどのように検討されていますか
- 自社から提案できる切り口
- 情報なし:自社サービスの内容が入力されていないため、具体的な提案はまだ作らない。
- 別途、受注・在庫管理を支援できるサービスだと確認できた場合は、複数販路の管理状況を質問し、課題がある場合に提案候補を検討する。これは自社サービスの条件を加えた場合の考え方の例。
このように、最初から完璧なメモを作るのではなく、下書きを出してもらってから、必要な部分を追加で質問して整えていきます。
役職が分かっている場合は、たとえば「商談相手は購買担当です。その役割に合う確認質問を3つ追加してください」と補足できます。練習で役職を仮定した場合は、メモにも「仮定」と残します。
できたメモの確認方法 次の4点をチェックしてください。
- 状況:入力文の事実・日付と一致し、予定を実施済みに変えていない
- 関心:根拠を添えた仮説と、確認できない「情報なし」を区別している
- 質問リスト:未確認の課題や運用開始を決め付けず、口に出せる言葉になっている
- 提案の切り口:入力した自社サービスの範囲内で、相手に確認する条件が分かる
「情報なし」が多い場合は、入力した資料だけでは判断できない項目が多い状態です。公開されていない情報を無理に埋める必要はありません。
時間を決めて公式のニュースや採用情報を追加確認し、見つからなければ、その項目を商談で聞く質問として残してください。
出力が入力と食い違ったら、「状況は入力文の事実だけに戻し、関心・提案の仮説を分けてください。予定を実施済みに変えず、不明点は情報なしにしてください」と依頼し直し、修正版も元の文章と照合します。
あおぞら食品の「返礼品の展開予定」は、状況の欄では予定のまま残し、質問の欄では準備状況を確かめる言葉になりました。この書き分けができれば、簡易メモの最初の一歩は完成です。
有料部分で使えるもの 第4章の情報源チェック、第5章のコピーして使う指示文と質問10個までそろえた完成例、第6章の3業種の質問比較、第7章の振り返り4行、第8章の立て直し方、第9章の早見表4点を本文内に用意しています。営業の準備手順をそろえたい方が、自分の商材・相手の業種に合わせてメモを調整するための内容です。
購入後は、第4章で公開情報のURL・日付・要点を集め、第5章の指示文へ貼るところから始めてください。完成の目安は、事実と仮説を分けた4項目と、商談の最初に聞く3つの質問がそろうことです。無料部分だけでも1社分の簡易メモは作れます。有料部分は情報源の判断、業種への調整、振り返りと立て直しまで扱います。追加の有料AI契約やコード操作は必須にせず、非公開の商談記録はAIへ入力しません。
