みなさん、ご無沙汰しております!幸田です。
久しぶりのTips記事ということで力を入れてやっていきたいと思います!
本日は物流戦略について書きました。この記事を見ていらっしゃる方々は知見の深い方々だと思っておりますが、是非最後まで読んで頂けると嬉しいです。
荷主企業が、船会社やフォワーダーを選ぶ時、フォワーダーが、船会社会社を選ぶとき、多くの担当者はこう言います。
「価格の安さ」「輸送時間の短さ」が最重要であると。
長年、それが正解でした。
しかし今、この基準は通用しなくなり始めています。
多くの企業がこの2つの軸で物流を比較するのは、ある意味では当たり前のことだと思います。
ただ、近年のサプライチェーン環境を見ていると、その基準だけではサプライチェーンが正しく機能しないケースが増えています。
むしろ、この2つだけを判断軸とするのは危険になりつつある、と感じています。
Covidパンデミックを境に、物流を取り巻く環境は急激に変化しました。
それまではスケジュール通りに動くのが当たり前だった船は「遅延するのが当たり前」になり、大きく変動することのなかった運賃は、まるで竜がうねるかの如く乱高下するようになりました。
業界の外を見ても、中東での戦争や在庫確保への大きな動きなど、不安定な世界情勢の中で、外的因子により運賃が高騰したり、スペースタイト状況が毎年発生するようになりました。
そして今もなお、世界情勢は混沌としており、いつ何が起きてもおかしくない状況が続いています。
でもこれは仕方のないことです。ここから荷主企業・フォワーダー・船会社は、この状況と向き合いながらビジネスを進めていかなければなりません。
この記事では、今後どこに目を向けて、どのような戦略を立てていけば、より安定したサプライチェーンを構築できるのか。
そのヒントを一緒に考えていきたいと思います。
・「価格の安さ」「輸送時間の短さ」でサービスを選ぶ時代の終焉
「価格の安さ」「輸送時間の短さ」だけの軸でサービスを選んでも、今後強いサプライチェーンは構築できなくなっていきます。
もちろん「価格が安い」ことには大きなメリットがありますし、それを求めること自体は自然なことです。
ただ、それが享受できるのはあくまで“平時”だけです。
何も起きていない時であれば、安い運賃で問題なく輸送できるでしょう。
しかし、近年の動向を見ると、「何もなかった年」はほとんどありません。
毎年のように、何かしらのイベントが起き、そのたびに様々な問題に直面してきました。
- スペースが取れない
- ロールオーバーされた
- 予定通り船が来ない
- 経由地で予定とは違う船になった
- 急遽、本船名が変わった
などなど…。
これらの問題は、起きてから対策を考えても手遅れなケースが多く、そこからサプライチェーンが乱れていくケースがほとんどだと思います。
では、「価格の安さ」と「輸送時間の短さ」だけを追い求めるとどうなるのか。
それぞれ説明させて頂きます。
「価格の安さ」に固執した場合
- 非常時にスペースが取れない
- アロケーションが付与されない
- アロケーションのある年間契約でもロールオーバーの対象になる
- アロケーション利用実績が悪いと、次年度以降スペースが細る
- 代替ルートを同額では提供できない
「輸送時間の短さ」に固執した場合
- 1日の遅れでサプライチェーン計画が狂う
- 毎日トラッキングをするなど、確認作業が増える
- 混雑に巻き込まれるケースが多い
- 「最短日数頼み」のサプライチェーン計画になってしまう
恐らく、誰もが一度は直面したことのある問題ではないでしょうか。
そして、これから先は、この問題に直面する頻度はさらに増えると考えられます。
特に「最短輸送日数」を軸とした選び方は、現状マーケットではあまり意味をなしていません。
・スケジュール信頼性(順守率)の現実
下記は、2025年10月の定期船スケジュール順守率です。

- 世界全体のスケジュール順守率は前月比3.5ポイント低下し、61.4%。 これは2025年における2度目の大幅な低下であり、3ヶ月連続で安定していた後に再び崩れた形です。
- 前年同月比では、スケジュール信頼性は11.1ポイント上昇していますが、 LATE(遅延)船の到着遅延は前月比0.04日増加し、平均4.98日遅れとなりました。
2025年9月/10月、アライアンス毎の順守率は以下の通りです。

- Gemini:86.0%
- MSC:80.5%
- プレミア・アライアンス:54.6%
- オーシャン・アライアンス:65.0%
GeminiやMSCでは80%以上の順守率をキープしていますが、プレミアやオーシャンアライアンスでは50〜60%台となっており、世界の多くの船は未だに遅れていることがわかります。
(出典:Sea-Intelligence)
この状況下で「最短日数の船会社」を選んだとしても、結局は遅延が発生し、サプライチェーン計画に影響を与えることになります。
さらに、この状況下で安い運賃で“握ってしまう”ともっと悲惨な目に遭います。(安易に想像出来るかと思います)
船が遅れ、搬入済みコンテナがヤードに溜まっている場合、ヤードからコンテナをさばくために、当初予定ではなかった船に積み替えられることがあります。
「急に本船変更になった!」というケースの一部は、これが理由です。
このとき、真っ先に“入れ替え候補”になるのは、スポットブッキングや安い運賃のブッキングです。
安さだけを求めてしまうと、結果的に大きな代償を払うことに繋がります。
世界的な視点で見ると、日本の優位性は残念ながら低下しており、「価格の安さ」と「輸送時間の短さ」の両方を取ることは、持続可能性の観点からも難しくなってきています。
さらに、世界トップの取り扱いがある中国では、Covidパンデミック以降、大手荷主を中心に「価格に良い意味で敏感」になっており、スポットマーケットにも柔軟についてくるようになりました。
「高くても積む」フェーズに突入した世界
私自身、現在は海運会社で働いておりますが、実体験としてこんな出来事がありました。
日本顧客の中国発貨物で、「1か月後の本船で100TEUのスペースが必要」となり、本社と交渉してスペースを分けてもらいました。
ところが、本社のコントローラーのミスで、その100TEUが中国マーケット用にアロケーションにリリースされてしまいました。
数時間後に気づいた時には、そのスペースはすでに使い切られていたのです。
正直、かなり驚きました。
私は契約運賃での追加アロケーションとして手配を進めていましたが、中国からのブッキングは全てSPOT運賃で入ってきており、コントローラーも「高い運賃」を優先させたため、私はその戦いに負けてしまいました。
この実体験からも、世界は「高くても積む」フェーズに入ったのだなと強く感じました。
こうした理由からも、マーケット変動が大きい昨今の状況下で、「価格の安さ」「輸送時間の短さ」を軸に選定を進めてしまうと、いざという時に全く対応できないサプライチェーンになってしまいます。
料金勝負を可能な限り避けて、今後はどのようにサプライチェーンを構築していけば良いのでしょうか。
