開業直後の行政書士が最初に直面するのは、法律や制度の複雑さよりも、むしろ 「細かな実務運用の不明点」 です。
- 行政庁に電話しても良いのか
- 担当者名は聞くべきか
- PDF提出は本当に問題ないのか
- 委任状の記載方法はこれで正しいのか
- チャット相談が際限なく続いてしまう など
こうした点は案外“ググっても分からず”、周囲に聞きづらさもあるため、新人行政書士の多くがひっそりと悩んでいます。
本記事では、開業者が現場で必ず直面する「地味だけれど実務上とても重要なポイント」を丁寧に整理してお伝えします。
1.地味に困ること①行政庁へ電話した際、何回コールで切るべき?
明確なルールはありませんが、実務上もっとも無難なのは、
- 5コール程度で出なければ切る
- 5〜10分ほど時間を空けて再度かけ直す
同一部署に連続でコールを鳴らし続けると、行政庁側の業務を妨げることもあります。
時間を空けて丁寧に再度連絡する。これが行政書士としての適切な配慮といえます。
2.地味に困ること②担当者の氏名は聞くべき?
新人の方がよく迷うポイントですが、結論はシンプルです。
- 重要な手続き・複雑な案件 → できれば控えておく(聞く)
- 簡易な質問 → 無理に聞く必要はない
担当者名を把握しておくと、後日の照会がスムーズになります。
ただし、軽微な問い合わせで毎回名前を聞くと、不要な“圧”として伝わる可能性もあります。状況に応じて使い分けるバランス感覚が大切です。
3.地味に困ること③「PDFで提出して構いません」と言われた場合の対応
行政庁によっては、提出書類をPDF形式で受け付けることがあります。
新人時代は「本当に大丈夫?」と不安になりがちですが、
- 担当者が許可した場合は問題なし
- 不安な場合は 「念のため、PDFで問題ないでしょうか」 と再確認
- 出力時の書式崩れにだけ注意する(PDF変換後の確認が必須)
ここで過剰に心配しすぎると、時間がどんどん奪われてしまいます。
4.地味に困ること④委任状の「委任者」は誰を記載すべき?
非常に基礎的ですが、多くの方が迷う点です。
原則は以下のとおり:
- 個人依頼:本人(申請主体)
- 法人依頼:代表者名(法人としての申請主体)
担当者(総務や管理部門)が実務を進める場合でも、委任する主体は 法人そのものであり、代表者名での記載が基本です。
この点を誤ると、行政庁からの差し戻しが高い確率で起こります。
5.地味に困ること⑤チャット相談が延々と続く問題
特に開業初期のあるあるです。
- 気づけば夜中まで返信してしまう
- 無料相談のつもりが、詳細な助言まで提供してしまう
- 境界が曖昧になり、精神的に疲弊する
対策は極めてシンプルです。
「この先は正式なご依頼として対応いたしますね」と丁寧に線引きをすること。
誠実に伝えれば、多くの依頼者は自然と理解してくれます。
6.地味に困ること⑥行政庁に名乗るべきかどうか
新人の頃は、
- 「行政書士と名乗るのは少し気が引ける」
- 「偉そうに思われないかな」
と遠慮してしまう方が多いです。
しかし、行政庁は“資格者からの問い合わせ” として適切に取り扱います。
「行政書士の○○です」と名乗るだけで、話がスムーズに進むケースが多々あります。
名乗らないことのほうが、かえって不自然になる場面もあります。
7.地味に困ること⑦「とりあえず見てもらえます?」という依頼
これは新人がもっとも落ちやすい罠です。
「とりあえず」と言いながら、実際は深い助言や制度調査を求められるケースが多いです。
対策としては、
「概要は確認しますが、詳細は正式なご依頼で承りますね」
と最初に丁寧に伝えること。
線引きを明確にすることは、自分を守るだけでなく依頼者にも誠実な姿勢です。
8.まとめ
実務で真正面から悩むのは、法律や制度よりもむしろ “運用の細部” です。
しかし、こうした小さな疑問に対して一つひとつ “自分の基準” を持てるようになると、
- 無駄な迷いが減り
- 作業効率が上がり
- 行政庁とのやり取りもスムーズになり
- 依頼者への説明も安定します
開業1〜3年目の行政書士にとって、こうした「地味な実務知識」は大きな武器になります。
焦らず、少しずつ、“あなたの実務の型” を育てていってください。
