【開業1〜3年目向け】行政書士の“職印”どこまで押す?判断基準と実務のリアル

【開業1〜3年目向け】行政書士の“職印”どこまで押す?判断基準と実務のリアル

なないろバックオフィス

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開業してしばらくすると、「この書類、職印を押してもらえますか?」と依頼される場面が出てきます。

特に、私人間の契約書・合意書などでは、依頼者自身が

「職印=お墨付き」「保証になる」

と誤解しているケースも少なくありません。その一方で、行政書士側も

  • どこまで押していいのか
  • 押す/押さないの判断軸
  • 押したら責任はどうなるのか

と悩むことが多いテーマです。

そこで本記事では、職印を扱うときの“実務的な判断基準”をできるだけわかりやすく整理しました。

  • 職印ってどこまで押すべき?
  • 押した/押さなかった場合のリスク
  • 迷ったときの考え方

開業1〜3年目の行政書士が安全に・無理なく対応するための最初の視点として参考にしていただければ幸いです。

行政書士の“職印”とは?

まず、行政書士が職印を使用する根拠は、行政書士法施行規則に定められています。

行政書士は、作成した書類に記名して職印を押さなければならない。行政書士法施行規則 第9条2項

ここでいう「作成した書類」とは、主に次の2つです。

  • 官公署に提出する書類
  • 権利義務/事実証明に関する書類

つまり、行政書士が業として作成する書面について、作成者としての表示をするための印これが“職印”です。

よくある誤解

職印は、「行政書士がその書類を作成した」ことを示す印にすぎません。

しかし現場では、依頼者が次のように誤解していることが多くあります。

  • 職印が押してあれば法的効力が強まる
  • 行政書士が内容を保証してくれる
  • 行政書士が証人・第三者的立場になる
  • 行政書士が契約内容に責任を負ってくれる

いずれも誤りです。

職印を押したとしても、行政書士が当事者の合意そのものに責任を負うことはありません。行政書士の役割はあくまで「書類作成の専門家」であり、合意の事実や内容の正当性を担保する立場ではありません。

しかし依頼者の多くは、

「職印=お墨付き」「行政書士が保証してくれる」

と期待しがちです。この認識のズレが、トラブルの火種になることがあるため注意が必要です。

依頼者が「なぜ職印を押してほしいのか」を先に確認しておくと、誤解を防ぎやすくなります。

例:

・“効力が強くなる”と思っている
・“行政書士が保証してくれる”と思っている

このような誤解がわかれば、押す/押さないの判断や、代替案の提案がしやすくなるからです。

どこまで押す?判断基準

実務上の基本スタンスとしては、私人間契約には職印を押さないという運用をおすすめします。

理由はシンプルです。

  • 依頼者が誤解しやすい
  • 第三者が「保証」と誤認する可能性
  • 不必要な責任を負うリスク
  • 「行政書士も当事者なのでは?」と見られかねない

つまり、リスクに対して得られるメリットが小さいということです。

職印を押す可能性があるケース

(=行政書士の業務として明確に関与している場合)

  • 官公署へ提出する書類
  • 事実証明書類
  • 行政書士の作成・関与が明確な書類

行政手続の文脈で、行政書士として関与が明確な場合は、職印を押すことが一般的です。

職印を押さないほうがよいケース

(=誤解やトラブルにつながりやすい)

  • 私人間の契約書
  • 当事者のみで完結する合意書
  • 行政書士の関与が不明確
  • 依頼者が職印に“保証”を期待している(例:効力が強まる、証人になる等)

内容に対して責任を負う立場ではないため、職印を押す合理性に乏しいケースです。

迷ったら押さないこれが現場では最も安全な原則です。

判断が難しい場合は

  • 職印の意味を説明する
  • なぜ押せないかを伝える
  • 記名のみ、内容チェックのみ等、代替案を提示

といった対応が実務的です。

【事例】私人間契約での相談

実際に、次のようなご相談がありました。(※詳細はプライバシー保護のため割愛)

  • 男女間トラブルに関する合意書
  • 行政書士へ書類作成を依頼
  • 「職印を押してほしい」という要望

依頼者の話を丁寧に聞いていくと、そこには次のような“期待”がありました。

「行政書士の職印があれば法的に強くなる」「専門家が保証してくれるはず」

しかし、すでに述べたとおり、行政書士の職印は内容を保証する印ではありません。行政書士はあくまで書類作成をサポートする立場であり、契約の当事者や証人になるわけではありません。

そのため、

  • 職印の意味
  • 行政書士の立ち位置
  • 保証とは異なること

を丁寧に説明し、押印をお断りしました。

なお、この依頼は最終的に別の行政書士が対応されていましたが、それが良い/悪いという話ではありません。

各事務所で判断が分かれる領域であり、大切なのは「自分の基準を持つこと」です。

実務の現場では、依頼者の期待と職印の役割がズレているというケースが少なくないため、最初の段階で認識をそろえることが重要だと感じました。

押印するリスク

職印を押すこと自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし実務上は、次のようなリスクを抱えます。

①行政書士が“保証した”と誤認される

依頼者の中には「職印があれば効力が強まる」「専門家が保証した証拠になる」と誤解している人がいます。

結果として、行政書士が内容を保証したと受け取られてしまう可能性があります。

②契約内容に関与したと誤解される

私人間の契約書で職印を押すと、

「行政書士が内容に問題ないと言ってくれた」「行政書士が承認している」と受け取られかねません。

あくまで作成支援あっても、実質的に当事者扱いされるリスクがあります。

③責任領域が不明確になる

行政書士は「書類作成の専門家」であり、内容の保証者ではありません。

しかし職印が押されると、

  • どこまで関与したのか
  • 誰が責任を負うのか

が曖昧になり、紛争時に説明責任を求められる恐れがあります。

④トラブルの火種になる

私人間のトラブルは、感情的な紛争に発展しやすい領域です。

契約当事者同士が対立した際、「行政書士が作成して職印まで押している」という理由だけで巻き込まれる可能性が高まります。

⑤複雑な紛争に巻き込まれる

私人間の争いは長期化・複雑化する傾向があります。

その中で、行政書士が“説明要請”を受けたり、思わぬ責任を問われる展開も想定されます。

つまり金銭的に報われないまま、時間・精神のコストを負担する可能性があります。

以上のように、職印を押すだけで、行政書士が “契約の当事者(=保証人)” のように扱われる危険があります。

私人間契約において、職印を押すメリットはほとんどなく誤解・巻き込みリスクが確実に大きくなります。

実務でのおすすめ対応

職印まわりは「誤解を生まない・巻き込まれない」という観点で運用することが大切です。

以下に、現場で活かせる対応ポイントをまとめます。

1)そもそも「押さない」前提

原則として、私人間契約への職印は断るというスタンスで問題ありません。

職印を押す合理的メリットが小さく、リスクが大きいためです。

2)押印を求められたら

押印依頼が来た場合は、その理由を丁寧にヒアリングするのが第一歩です。

  • なぜ押してほしいのか
  • どういった効果を期待しているのか

そのうえで、誤解があれば説明しつつ代替案を提示するとスムーズです。

▼ 対応フロー(例)

  1. 依頼理由を確認
  2. 職印の意味を説明
  3. 誤解がある場合は解消
  4. 代替案を提示

▼ 代替案例

  • 書類作成者欄の記名のみ
  • レビュー対応
  • 作成支援のみ
  • 行政書士の立場を明確化

「押せません」で終わらせず、“別の形で力になる” 姿勢を示すのがポイントです。

3)事前説明をテンプレ化する

トラブルを避けるには、事前に説明し、書面で残すことが効果的です。

説明すべきテーマは、次の3つです。

  • 職印の意味
  • 保証ではないこと
  • 関与範囲

初回ヒアリング時や見積段階で説明テンプレを送っておくと楽です。

文面テンプレート化しておけば、迷わず・ブレずに対応できます。

まとめ

  • 職印は 「作成者を示す印」 にすぎない
  • しかし、依頼者は誤解しがち
  • 私人間契約には押さないのが安全
  • 押す/押さないは一貫した判断基準が必要

特に開業1〜3年目は、

「頼まれたら押さなきゃいけないのでは…?」

と思ってしまいがちです。ですが実務では、押さない判断ができるほうが安全で、プロフェッショナルです。

大切なのは、依頼者の期待を丁寧に整理し、誤解を解いたうえで、行政書士として適切な関与の範囲を保つこと。

無用なトラブルを避け、健全な事務所運営につなげていきましょう。


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この記事のライター

なないろバックオフィス

行政書士の開業・実務に役立つノウハウを発信しています。 実際の受任経験にもとづく“そのまま使える型(ヒアリングシート/書式)”を提供。 開業1〜3年の方が、受任・実務に強くなるための情報をまとめています。

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