行政書士試験に合格すると、「せっかく取った資格、どう活かしていこうか?」と考え始める方が少なくありません。
もちろん、すぐに開業する人ばかりではありません。本業を続けながら様子を見る方、将来の選択肢として資格を“持っておく”方、独立を検討しはじめる方――状況は人それぞれです。
その中で、“開業”を現実的に意識した瞬間に最初にぶつかる壁が、「結局いくらお金がかかるの?」「何をどこまで準備すればいいの?」という不安です。
- 登録費用はいくら?
- 初期費用の“最低限ライン”は?
- 高スペックなPCやカラープリンターは必要?
- カラープリンターは必要?
- 1年目のランニングコストはどれくらい?
ネットを見ても先輩に聞いても、費用の話だけは“人によって違う”と言われ、結局よく分からないままという声も多いところです。
でも大丈夫です。行政書士の実務は、豪華な設備や高額な投資よりも、“実務が回る環境”を作れるかどうかが何より大切。お金を無駄にせず、必要なところにだけ適切に投資すれば、1年目でも十分にスタートできます。
この記事では、合格直後〜開業1年目の方が知りたい “開業費用のリアル” を、実体験と現場感から分かりやすく整理します。
読み終える頃には、「何に・どれだけ・いつお金が必要になるのか」「どこに投資すべきで、何を削ってよいのか」がスッキリ見えるようになるはずです。
それでは、次の章から具体的に見ていきましょう。
1. 行政書士の開業に必要な“初期費用”の全体像
行政書士として開業する際に必要となる費用は、「必ずかかるもの」と「選択次第で変動するもの」 の2つに大きく分かれます。まずは、この全体構造を押さえておくだけで、開業準備の見通しが一気にクリアになります。
● 初期費用は大きく分けて3つ
行政書士の初期費用は、下記の3つに分類できます。
- 登録・入会に必要な費用(必須)
- 開業環境(事務所・PC・備品)づくりの費用
- 業務を回すためのサブスク費用
このうち ①は全員必須、②③は開業スタイルで大きく変わる という特徴があります。
● まずは「どれくらいの規模で始めるか」で総額が変わる
行政書士の開業費用は、人によって10〜20万円で済む人もいれば、50万円以上かける人もいます。その差を生む決定的な要因は次の3つです。
- 自宅開業か、事務所を借りるか
- PC・プリンター等備品を“最低限”にするか、“しっかり揃える”か
- ホームページを外注するか自作にするか
特に1年目は、「見た目」よりも「実務が確実に回るか」が最重要であり、余計な出費を抑えた方が良いと思います。
初期費用の総額イメージ(ケースを分けずに全体像として)
初期費用の総額は、
- ミニマム構成(自宅開業・備品最小限)なら 15〜25万円前後
- 実務が快適に回る標準的な環境を整えると 30〜50万円前後
- ホームページを外注して設備を充実させると 60〜100万円以上
というように、どこまで環境を整えるかで大きく上下します。
ただし、1年目の行政書士は 「ミニマム〜標準構成」でも実務上まったく問題ありません。業務が軌道に乗ってから必要に応じて追加投資するのが、最もリスクの少ない進め方です。
● 次の章では、「必ずかかる登録費用」を具体的に解説
ここまでで全体像がつかめたと思います。次の章では、誰もが避けて通れない 登録・入会費用の内訳と注意点 を分かりやすく整理していきます。
2. 登録・入会までに必ず発生する費用(ここは全員必須)
行政書士として業務を行うためには、「登録」→「日本行政書士会連合会への入会」→「都道府県会への所属」というステップを踏む必要があります。
この登録・入会手続きにかかる費用は、開業を選ぶ場合、全員に必ず発生する固定費用 です。
金額は地域によって多少の違いがありますが、下記は私が実際にかかった費用です(東京都行政書士会)
① 行政書士登録料(収入印紙)
30,000円
行政書士として名簿に登録する際に必要となる、法定の手数料です。避けられない必須費用になります。
② 行政書士会の登録料(都道府県会)
225,000円
行政書士は、必ずいずれかの都道府県行政書士会に入会します。入会金は会ごとに金額が異なり、地域差が大きい項目です。
参考までに、私が東京都行政書士会に入会した際は、
- 入会金:200,000円
- 登録手数料:25,000円の合計 225,000円 が必要でした。
③ 都道府県会の会費(月換算)
7,000円(うち政治連盟 1,000円)
会の運営(都道府県会+支部)に必要な費用として、毎月会費を支払います。東京都行政書士会の場合は 7,000円/月 が基本です。
また、東京都では区ごとの支部会費が別途必要で、多くの支部は 月額500円~700円程度ではないでしょうか。
④ 登録時に必要となるその他の実費
(合計 10,000円〜15,000円ほど)
登録手続きには細かな実費もかかります。積み上げると意外と金額になるため、事前に把握しておくと安心です。
● 行政書士バッチ・領収書の購入費用登録時に購入するものです。領収書は必須ではありませんが、自分で準備する場合は法定様式に従う必要があります。私の場合は、バッチと領収書で 合計 3,350円でした。
● 写真代証明写真の撮影に600円程度。
● 職印代(行政書士職印)実務に不可欠な職印の作成費用で、私は3,600円でした。
これらに加え、登録時の交通費など細かな費用も発生します。総額としては、10,000円〜15,000円ほどを見込んでおくと良いでしょう。
次の章では「開業環境づくりの費用」を詳しく解説登録費用は全員共通ですが、ここから先の初期費用は完全に「人によって違う」部分になります。
- PC
- プリンタ
- 名刺
- 固定番号
- ホームページ
- 行書書士賠償責任保険
- セコム電子署名
- 事務所を借りるかどうか
など、あなたの開業スタイル次第で費用が大きく変動します。
次の章では、“何を買えばよくて、何は買わなくていいのか”を判断できるよう、実務ベースで分かりやすく解説していきます。
3. 開業環境づくりの費用|“1年目に本当に必要なもの”を揃える
行政書士の開業準備で最も個人差が出るのが、この「開業環境づくり」です。とはいえ、開業1年目に必要なものは驚くほどシンプルで、“過剰に揃えないこと”が失敗を防ぐポイントです。
以下では、実務に必要な項目を 必須/推奨/不要 の3段階で整理し、費用の目安とともにまとめます。
①PC(パソコン)|必須|15万〜20万円
行政書士の仕事はほぼ100%PC作業です。性能が不足していると、Word・PDF・Excelなどの動作が重く、実務効率が極端に落ちます。
推奨スペック
- メモリ 16GB
- SSD 256GB以上
- CPU Corei5以上
中古や低価格モデルでも構いませんが、「安さ優先で遅いPC」は最初に後悔しやすい設備です。どこでも仕事ができるように、デスクトップよりも、ノートPCが断然お勧めです。
② プリンタ|必須|2万〜3.5万円
行政書士=紙の業務という印象がありますが、実は1年目から紙が大量に必要になる場面は多くありません。
- PDF提出
- 電子申請
- 電子契約など、紙を使わない業務も増えています。とくに補助金の申請支援では、印刷をすることはありません。
また、紙を使う場合でも、届出書類・申請書類の大部分は白黒です。A4のコンパクトなモノクロプリンタで十分対応できます。とくに開業1年目は初期費用が嵩むので、カラー印刷が必要なときだけ、コンビニ等で済ませることも可能かと思います(ただし、いずれ必要になる)。大型の複合機は不要です。
③ 名刺・印鑑類(行政書士職印)|必須|1,000円程度
名刺は最低限のコミュニケーションツールとして必須ですが、高級名刺や特殊加工は不要です。デザインを外注せず自作する場合、1,000円程度で100枚印刷可能です。なないろバックオフィスでは、デザインは自作です。
④ 電話番号(スマホ or IP電話)
固定電話(03番号など)を最初から導入する必要はありません。携帯電話で十分です。
- 相談者はLINE・メール・チャットワークを使うことが多い
- 1年目は電話が大量に鳴り、スマホ1台で足りなくなる状況はほぼない
スマホ1本が最適解です。
⑤ ホームページ(HP)|任意|初期費用はほぼ無料
開業初期のホームページは、「きれいで高額なサイト」より「必要な情報と記事が揃っていて更新されるサイト」が強いです。
扱うべき最低限の情報
- 自己紹介
- 業務内容
- 料金
- 問い合わせフォーム
- 集客記事(投稿頻度はそれぞれ)
WordPressの無料テーマで自作すれば、初期費用はほぼゼロでホームページを持つことができます。発生する費用は、サーバー代(ConoHa・エックスサーバーなど)とドメイン代といったランニングコストのみです。
外注に10万〜50万円をかける必要はまったくありません。実際、なないろバックオフィスでも3つのホームページを運営していますが、すべて自作で問題なく運用できています。
⑥ 行政書士賠償責任保険|任意|年5,650円~
近年は行政書士が扱う書類も複雑化していますが、開業1年目の段階では、行政書士賠償責任保険は“必須”というほどではありません。
- 年間数千円〜で加入できる
- あると安心材料にはなる
- 補助金系・契約書系を多く扱う場合には検討してもよい
といった特徴はありますが、加入しなくても開業は問題なくできますし、実際に加入していない行政書士も多いのが実情です。
まずは業務内容が固まってから、必要に応じて加入を検討するスタンスで十分です。なないろバックオフィスでは、開業時は2名とも非加入でしたが、現在は、メンバーの1名がヒルフエに所属している関係で、行政書士賠償責任保険に加入しています(ヒルフエでは加入が必須)。
⑦ 電子署名(セコム)|任意|8,750円~/年
定款の電子署名や一部のオンライン申請では、電子証明書(電子署名)を使う場面があります。ただし、開業1年目で必ず用意しなければならないものではなく、「必要になった時点で導入する」でも十分対応できます。
実際、電子署名が必要な依頼は業務内容によって大きく異なり、
- 会社設立をメインに据える場合 → 利用頻度が高い
- 許認可中心・補助金中心の場合 → 必要になる場面は少ないという傾向があります。
なないろバックオフィスでも、開業時は2名とも未加入でしたが、会社設立業務を受ける機会が増えてきた段階で、1名がセコムの電子証明書を導入しました。このように、業務内容が固まってから検討するスタンスで問題ありません。
⑧ 事務所(自宅 or 外部オフィス)
行政書士には「事務所を必ず借りなければならない」という義務はありません。実際、開業者の多くが自宅を事務所として登録し、自宅開業でスタートしています。
ただし、行政書士は事務所の所在地を対外的に開示する義務があり、
- ホームページ
- 名刺
- 申請書類などに事務所住所を記載する場面が多くあります。
そのため、自宅住所を公開したくない場合は、自宅開業にこだわらず慎重に判断する必要があります。いずれの方法を選ぶにしても、まず押さえておきたいのは、「固定費を把握し、それをどの業務で上回るのか」を最初に設計しておくことです。
なないろバックオフィスでは、メンバーの1名がオフィスを借りていますが、開業2ヶ月目には事務所費用を含めた固定費を十分に上回る売上を計上し、その後も増収を継続しています。
⑨ サブスク系ツール|初年度は基本的に“不要”
開業すると、つい様々なサブスク(クラウド会計・デザインツール・PDF編集など)を契約したくなりますが、行政書士の1年目は、サブスクは不要です。
まずは“最低限の環境”で十分に実務が回ります。必要になった時点で導入すれば遅くありません。
代表的なツールの位置づけは次のとおりです。
⑩ freee/マネーフォワード(クラウド会計)
→ 初年度は不要。売上が増えてからで十分。
開業初年度は取引件数が少なく、Excelで十分対応できます。毎月のサブスクを払う必要はありません。
売上と経費が増え、Excelではどうにもならない段階で、クラウド会計へ移行を検討すればOKです。
⑪ Zoom(オンライン面談)
→ Google Meetで全く問題なし。
行政書士のオンライン相談では、Zoomでなくても無料のGoogle Meetで足りるケースが大半です。Zoomは不要です。
⑫ Canva・Adobe Acrobat(デザイン/PDF編集ツール)
→ 無料ツールで代用可能。初年度は不要。
名刺・資料・簡単なバナーなどは Canvaの無料版 で十分です。Adobe Acrobat についても、PDFの結合・圧縮・署名程度であれば無料ツールで代用可能です。
Canva Pro や Adobe Acrobat Pro といった有料プランは、不要です。
⑬ 電子契約プラットフォーム
→ 開業時は不要。必要になった時に契約すれば間に合う。
電子契約は行政書士業務でも使える場面がありますが、開業直後から契約しておく必要はありません。
- 委任契約
- 契約書面のやり取り
- 事前確認の書類送付
などで利用できるものの、紙の契約でも対応可能です。
また、多くの電子契約サービスは月額制でコストがかかるため、使用頻度が低いうちに契約すると固定費のムダになりやすいのもポイントです。
案件が増えてきたとしても、電子契約が実際に必要になるのは “顧客から電子契約での締結を求められたタイミング” です。
そのため、開業時に急いで導入する必要はまったくなく、依頼が入った時点で加入すれば(操作も容易なので)、十分間に合います。なないろバックオフィスはこの同じ方針で、必要になる直前まで導入を控え、初の電子契約でマネーフォワードクラウドに加入しました。
4.まとめ
行政書士としての一歩目は、不安も多いですが、その分だけ“伸びしろしかない”スタートでもあります。
どうか無理なく、そして着実に、あなた自身のペースで前に進んでください。あなたの行政書士としてのキャリアが、確かな実務力とともに大きく育っていくことを、心から応援しています。
