行政書士の業務が「官公署に提出する書類」や「権利義務や事実証明に関する書類」の作成であれば、定型的な文書も多いし、「AIで作れるのでは?」「行政書士って将来性がないのでは?」と思う方もいるかもしれません。
行政書士法上、AIが組み込まれたシステムが「官公署に提出する書類」の作成を代行できるのか否かの議論はさておき、
補助金申請・許認可・契約書作成の実務において、2025年11月時点の答えはNOです。その理由は大きく3つあります。
- 書類を作る前の段階で、要件に該当するかどうかの判断が難しい
そもそも「要件に当てはまるのか」「申請できるのか」。さらに、申請が難しい場合には、どのような工夫をすれば可能性があるのか、それとも難しいのか。地域性・季節性も絡み、要件判断が、極めて高度で個別性が高いです。 - 一見定型の許認可でも、実務は非定型の集合体であること
一見すると定型的に見える許認可であっても、実務は非定型の積み重ねです。任意提出資料の扱い、警察署・自治体ごとの運用差、補助金では毎回異なる公募要領など、明文化されていないノウハウや経験がなければ判断が難しい場面が多く存在します。 - 契約書については、LLMが弁護士・行政書士の信頼性を獲得できていない
どれだけAIが進化しても、AIが生成した文章をそのまま信じて契約を締結できるかというと、現実的には難しいのが実情です。最終判断には、専門家による介在・監修が欠かせません。
書類を作る前の段階で、要件に該当するかどうかの判断が難しい
お客さまからのご依頼は、突然の電話、とりとめのないメール、数行のLINEなど、さまざまな形で始まります。そこで、お客様のニーズ・時間軸・要件該当性を把握しながら、必要な情報を引き出し、整理し、同時並行で受任できるかどうかを判断していきます。
現時点で要件を満たしていないお客様に対しては、「お断りするべきか」「要件を満たす余地があるなら助言をするべきか」「申請に向けてお客様の体制やキャパシティーは十分か」など、さまざまな判断が複雑に絡み合い、(2025年11月現在の)AIでは難しい(任せられない)と感じます。
一見定型の許認可でも、実務は非定型の集合体であること
届出や許認可の種類によって幅の違いはありますが、行政庁には(行政法の教科書にあるような)裁量が存在します。その幅の中で、全く同じ許認可であっても、地域によって、運用が異なります。例えば警察署が典型です。
東京、横浜、埼玉、茨木、山梨、長野、富山、三重、京都など。なないろバックオフィスでは多くの地域で警察署管轄の届出・申請を支援してきましたが、毎回、細かな要件・申請書の書き方・添付書類に少しずつ違いがあります。
そのため、お客さまへのヒアリングを終えた後は、今度は申請書を書く前に、行政庁に丁寧にヒアリングする必要があり、その内容を踏まえて届出書・申請書を書きます。
これ、AIでできます?日本には47都道府県があり、法令も運用も頻繁に変わります。直近でも2025年風営法の改正がありましたよね。。いやいや、これAI無理じゃん。。むしろもっと頑張って。。
契約書については、LLMが弁護士・行政書士の信頼性を獲得できていない
LLMに必要な最新の法令をすべて読み込ませ、お客様が契約書を通じて実現したいこともすべて与えて契約書を作成させる。これで実際、ある程度“それっぽいもの”はできます。(お客様への丁寧なヒアリングは人がやるとして)
しかし、弁護士や行政書士であれば共通して賛同いただけると思いますが、そのままお客さまに出せる品質になりません。結局全部見ないといけないのです。90%くらいの精度にはなっても、100%の精度に現状ならないのです。仮に99%まで精度が上がったとしても、やることは同じです。国家資格者が受任している以上、その職責上、全文を読み直し、内容を精査し直さなければならないのです。いいですよ、もし職責を果たせるなら、AIの出力を何も見ずにお客様にパススルー。。無理ですよね。
国家資格者とは言え、人間なのでどうせ100%の精度になりません。合理的に考えれば、将来的にはAIで良いではないですか、という反論が聞こえてきそうです。私も完全に否定しきれませんが(笑)、多分、弁護士・行政書士への依頼はなくなりません。
実際、2025年、LLMが大変な進化を遂げましたが、お客さまから弁護士・行政書士に対する契約書の作成・修正・添削依頼は全く止まりません。なないろバックオフィスも数多く受任しています。なぜ?
LLMが、弁護士・行政書士ほどの信頼性を獲得していないです。
将来的に、LLMの契約書作成の精度がたとえ 99.9%になって国家資格者の精度を超えても、状況は本質的に変わらないと思います。結局のところ、お客さまは、最後に国家資格者が責任を持って監修してくれることを求めています。
どれだけAIが高精度になっても、「人である国家資格者が確認した契約書を受け取りたい」というニーズはなくなりそうにありません。
受験生の方は安心して試験に臨み、開業者の方は安心して業務に邁進していきましょう。
