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悪役令嬢に転生したら、溺愛王子の暗殺事件を解くことに!? 著者:紫苑ミステリア ジャンル:本格ミステリー

悪役令嬢に転生したら、溺愛王子の暗殺事件を解くことに!? 著者:紫苑ミステリア ジャンル:本格ミステリー

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にゃんちゅ~

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溺愛の裏に隠された、血塗られた真実

【あらすじ】目覚めたら乙女ゲームの悪役令嬢アリシアに転生していた私。破滅エンドを回避すべく動いていたら、溺愛してくるはずの第一王子レオンが何者かに毒殺されかけた!?容疑者は私!?前世で推理小説マニアだった知識を駆使して真犯人を探すことに。だが調べるほど、この世界に隠された恐るべき陰謀が明らかになり──。王宮を舞台にした本格ミステリ×転生ファンタジー!

【目次】

  1. 第一章:悪役令嬢の覚醒と王子毒殺未遂事件
  2. 第二章:容疑者たちの証言と消えたティーカップの謎
  3. 第三章:図書館の古文書が示す王家の秘密(有料)
  4. 終章:真犯人の告白と運命を変える選択(有料)

毒を盛られた王子の唇が、私の名を呼んだ。

「アリシア……君が、犯人だ」

豪華絢爛な晩餐会の会場が、一瞬で静寂に包まれた。水晶のシャンデリアの光が、床に倒れ込んだレオン王子の蒼白な顔を照らし出している。彼の指先は震えながら、確かに私――アリシア・フォン・エルネスト――を指していた。

まさか、こんな展開になるなんて。

私は内心で前世の記憶を呼び起こしながら、冷静に状況を分析していた。一週間前、目覚めたらそこは乙女ゲーム『永遠の薔薇と約束』の世界。そして私は、主人公を苛め抜いて最終的に国外追放エンドを迎える悪役令嬢アリシアその人だった。

前世で推理小説を年間二百冊読破していたOLとしては、この理不尽な濡れ衣にも動揺せずに対処できる。はずだった。

「レオン様! しっかりなさってください!」

第二王妃エリザベータが叫び声を上げ、侍医たちが慌ただしく駆け寄る。金糸で刺繍された深紅のテーブルクロスに、ワイングラスが倒れて濃い紫の染みを作っていた。

「エルネスト公爵令嬢を拘束しなさい!」

近衛騎士たちが私を取り囲む。だが私は、レオン王子から視線を外さなかった。彼の唇は紫色に変色し始めている。古典的な毒薬の症状――おそらくは王室の庭園にも植えられているベラドンナ由来の毒物だ。

しかし、おかしい。

レオン王子の瞳が、苦痛に歪みながらも私を見つめている。その深い蒼の瞳には、苦しみとは別の感情が渦巻いていた。執着、所有欲、そして――愛情?

「待ちなさい」

私は騎士たちを手で制し、スカートの裾を翻してレオン王子の傍らに膝をついた。周囲がざわめく。悪役令嬢らしからぬ行動かもしれないが、前世の推理小説マニアとしての本能が、この事件の不自然さを見逃せなかった。

「レオン様、あなたが口にされたのは、このワインだけですか?」

「アリシア……」

王子の手が、弱々しく私の手首を掴んだ。その体温の低さに、私は眉をひそめる。

「何を悠長なことを! 侍医、早く解毒剤を!」

第二王妃の甲高い声が響く。だが私は、レオン王子の瞳の奥に宿る不思議な光を見逃さなかった。彼は何かを伝えようとしている。

「違う……これは……」

王子の声は途切れ途切れだったが、私の耳には確かに届いた。

「罠、だ……アリシア、君を……」

その瞬間、侍医が解毒剤を王子に飲ませた。レオン王子の身体がひときわ大きく痙攣し、そして静かになる。呼吸は浅いが、まだ生きている。

「エルネスト公爵令嬢、あなたは第一王子殿下毒殺未遂の容疑で、これより王宮地下牢に身柄を拘束いたします」

近衛騎士団長の冷たい声が宣告を告げる。私の両腕に冷たい鉄の枷がはめられた。

晩餐会の参加者たちは、恐怖と興奮の入り混じった表情で私を見ている。その中に、私付きの侍女メリッサの姿を見つけた。彼女は蒼白な顔で、胸元を押さえている。その手が何かを握りしめているように見えたのは、気のせいだろうか。

護送される私の視界の端に、書庫の扉が映った。昨日の夕刻、私は偶然そこでレオン王子を見かけていた。彼は古い書物を何冊も広げ、真剣な表情で何かを調べていた。近づいた私に気づいた王子は、慌てて資料を閉じたが、その表紙には「先代王妃の死因に関する記録」という文字が見えた。

そして今朝、第二王妃エリザベータと廊下ですれ違った時の会話も蘇る。

「本来あるべき血筋が、正当な位置に戻る日も近いでしょうね」

彼女は意味ありげな笑みを浮かべて、そう呟いていた。

地下牢へ続く石段を降りながら、私の頭の中で推理が組み立てられていく。レオン王子の言葉――「罠」。つまり、この毒殺未遂事件そのものが、何者かの計画的な犯行。そして私を犯人に仕立て上げることが、真の目的。

ならば、真犯人の狙いは何か。

湿った石壁に松明の炎が揺れる。鉄格子の向こうに押し込められた私は、スカートの泥を払いながら、冷静に考え続けた。

前世で培った推理力と、この世界の悪役令嬢としての立場。両方を武器にすれば、必ず真相に辿り着ける。

そう決意した時、地下牢の扉が再び開いた。

「アリシア様に、面会の方が」

看守の声に顔を上げると、そこには意外な人物が立っていた。

レオン王子だった。

あれほどの毒を盛られながら、もう回復したというのか。彼の蒼い瞳は、先ほどの晩餐会の時よりもはるかに鋭く、そして熱を帯びて私を見つめていた。

「やっと、二人きりになれたね」

王子の唇が、妖艶な笑みを形作る。

「さあ、アリシア。君と僕で、この茶番の真相を暴こうじゃないか――君は僕のものだから」第二節

地下牢の冷たい空気が肌を刺す。松明の炎が揺れるたび、レオン王子の影が石壁に大きく伸びては縮んだ。

「二人きり、ですか」

私は鉄格子越しに王子を見上げた。彼の顔色は思ったより良い。あれほどの毒を盛られた人間とは思えないほど、血色も戻っている。

「ええ、看守には少し席を外してもらいました」レオンは優雅な仕草で格子に手をかける。「アリシア、君は本当に賢い。あの場で僕の言葉の意味を理解してくれた」

「『罠』ですね」

「そう。君を陥れるための、精巧な罠だ」

王子の蒼い瞳が、暗闇の中でも鋭く光る。その視線は私だけを捉えて離さない。まるで獲物を見つめる猛禽類のように。

「では、なぜあなたは私をここに来させたのです? 真犯人を探すなら、もっと自由に動ける場所の方が――」

「君を守るためだよ、アリシア」

レオンの声が、不意に低くなった。

「今この城で、君は最も危険な立場にいる。真犯人にとって、君が真相に近づくことは何としても阻止したいはずだ。ならば、僕の目の届く場所に置いておく方が安全だと判断した」

理屈としては分かる。だが、彼の瞳に宿る熱は、単なる保護欲とは違う何かを孕んでいる。前世で読んだ乙女ゲームの設定では、レオン王子は確かにヒロインに執着する「溺愛系」だったが、ゲームの悪役令嬢であるアリシアには冷たいはずだった。

なのに、なぜ。

「あなたは昨日、図書館で何を調べていたのですか」

私は話題を変えた。

「先代王妃の死因に関する資料。あれは何だったのです?」

レオンの表情が一瞬強ばる。やはり、何か重要な情報があるのだ。

「……君は本当に何でも見逃さないんだね」彼は苦笑した。「そう、僕は調べていた。母上の死の真相を」

「先代王妃は、病死だったと聞いていますが」

「表向きはね」レオンは格子の隙間から手を伸ばし、私の頬に触れた。「でも、僕はずっと疑っていた。母上の死には、不自然な点が多すぎる」

冷たい指先が私の肌を撫でる。私は動けなかった。この距離、この状況で拒絶すれば、彼の機嫌を損ねる可能性がある。今は情報を引き出すことが最優先だ。

「先代王妃の死と、今回の毒殺未遂事件に、関連があるとお考えですか」

「ああ。だからこそ、僕は君が必要なんだ、アリシア」

レオンの声が、甘く囁くように変化する。

「君の観察眼、推理力、そして――何より、君自身を」

彼の指が私の顎を捉え、顔を上げさせる。格子越しでも伝わってくる、異様なまでの執着。これは、ゲームのシナリオにはなかった展開だ。

「レオン王子、私は――」

言葉を継ごうとした時、地下牢の上方から足音が響いてきた。慌てた様子の、複数の人間の足音だ。

レオンは名残惜しそうに手を離し、すっと立ち上がった。

「どうやら、お客様のようだね」

やがて階段を降りてきたのは、第二王妃エリザベータと、その侍女たちだった。豪奢なドレスに身を包んだ王妃は、私を見下ろして冷たく微笑む。

「まあ、レオン王子。こんな場所で悪役令嬢と密会とは、お体に障りますわ」

「エリザベータ王妃。ご心配には及びません」

「ですが、毒を盛られたばかりでしょう? もっとお休みになるべきですわ。それとも――」王妃の視線が私に向けられる。「この娘に、何か聞き出したいことでも?」

空気が張り詰める。エリザベータ王妃の言葉には、明らかな探りが含まれている。

「いいえ、単なる好奇心です」レオンは涼しい顔で答える。「自分を毒殺しようとした犯人とされる人物が、どんな弁明をするのか興味があっただけです」

「それは危険ですわ。この娘、口が巧みですもの」

エリザベータ王妃は私を睨みつける。その瞳には、明確な敵意が宿っていた。

「本来あるべき血筋を乱す者は、相応の報いを受けるべきです。レオン王子、あなたもそうお思いにならない?」

また、あの言葉。「本来あるべき血筋」。

私は王妃の表情を注意深く観察した。彼女の右手が、無意識に左手の薬指をさすっている。そこには先代王妃から引き継いだという、王家の紋章が刻まれた指輪が輝いていた。

待って。王家の紋章――。

私の脳裏に、先ほど地下牢に連行される直前の光景が蘇る。侍女メリッサが胸元を押さえていた、あの仕草。彼女が握りしめていたものは、もしかして――。

「アリシア様」

突然、背後から声がした。振り返ると、鉄格子の影からメリッサが姿を現した。いつの間に地下牢に入っていたのか。彼女の目は泣き腫らしている。

「メリッサ、どうしてここに」

「お許しください、アリシア様」メリッサは震える声で言った。「私、あなた様を……お守りできなくて」

彼女の手が胸元に伸びる。そして取り出したのは、小さな銀のロケットだった。松明の光を受けて、その表面に刻まれた紋章が浮かび上がる。

王家の紋章。

エリザベータ王妃の顔色が変わった。

「それは……どこで手に入れたの、メリッサ」

王妃の声が、初めて動揺を含む。

「これは、私の……母から」メリッサは俯いたまま答える。「母が亡くなる前に、私に託したものです。『いつか真実が明らかになる日まで、大切に持っていなさい』と」

地下牢の空気が、一気に緊張で満たされた。

レオン王子の目が鋭く光る。エリザベータ王妃は蒼白な顔で後ずさる。そして私は、全ての点が線で繋がり始めるのを感じていた。

メリッサの母親は、確か先代王妃に仕えていた侍女だったはず。そして、先代王妃が亡くなった直後に、彼女も謎の病で亡くなっている。

王家の紋章入りのロケットを、なぜ一介の侍女が持っていたのか。

先代王妃の死因を、なぜレオン王子は調べていたのか。

そして、「本来あるべき血筋」とエリザベータ王妃が繰り返す、その意味は。

「メリッサ」私は静かに尋ねた。「そのロケットを、開けてもいい?」

メリッサは頷き、震える手でロケットを開いた。

中には、二枚の小さな肖像画が収められていた。一枚は若き日の先代王妃。そしてもう一枚は――。

レオン王子が、息を呑んだ。

その肖像画に描かれていたのは、メリッサによく似た、優しげな女性の顔だった。第三節

「メリッサ……あなたの母親は」

私の声が震えた。推理小説マニアだった前世の記憶が、一気に回転し始める。点と点が線で繋がり、やがて一つの図形を描き出す。その図形は、私が想像していたよりもはるかに複雑で、そして残酷なものだった。

「私の母は、マリアンヌ・ローゼンタール。先代王妃様に最も信頼された侍女でした」

メリッサの言葉に、エリザベータ王妃の顔が蒼白を通り越して青ざめた。彼女の唇が小刻みに震えている。

「黙りなさい!」王妃が金切り声を上げた。「その話を、今ここでするつもり!?」

「母上」

レオン王子の声が、地下牢に静かに響いた。その声には、今まで聞いたことのない冷たさが宿っている。まるで氷の刃のような、鋭利な響きだった。

「もう、終わりにしましょう。二十年前の真実を、これ以上隠し通すことはできません」

王子は立ち上がり、メリッサの方へ歩み寄った。そして、彼女の手からロケットを受け取ると、その肖像画を見つめる。

「マリアンヌ・ローゼンタール。僕が調べた限りでは、彼女は先代王妃が崩御された三日後に、急な熱病で亡くなったことになっている。でも、本当は違う。そうでしょう、母上」

「レオン、あなた何を言って――」

「母上は彼女を殺した。先代王妃の死の真相を知っていた彼女を、口封じのために」

地下牢が、凍りついたような静寂に包まれた。

松明の炎だけが、不規則に揺れている。影が壁に踊り、まるで亡霊たちが蘇ってきたかのようだった。

エリザベータ王妃は、もはや抗弁する力も失ったように、壁にもたれかかった。その顔には、恐怖と諦めが入り混じっている。

「違う……私は……」王妃の声が途切れる。「私は、ただ……本来あるべき血筋を、守ろうとしただけ……」

本来あるべき血筋。

またその言葉だ。彼女は事あるごとにこの言葉を口にしていた。園遊会で、晩餐会で、そして貴族たちとの会話の中で。私はそれを、単なる王族としての矜持だと思っていた。でも違う。その言葉には、もっと深い、もっと暗い意味が込められていたのだ。

「母上」レオン王子は静かに言った。「あなたが守ろうとした『本来あるべき血筋』とは、一体何ですか。先代王妃は正当な王族でした。その血筋を否定する理由など、どこにもないはずです」

私は、王子と王妃の間で交わされる緊張した視線を見つめながら、思考を巡らせた。

先代王妃の死因。それをレオン王子は、事件の前日、図書館で熱心に調べていた。侍女のエマが目撃したその姿は、まるで何かに取り憑かれたようだったという。

なぜ今になって、二十年前の王妃の死を調べる必要があったのか。

そして、その直後に起きた毒殺未遂事件。

「アリシア様」メリッサが私の名を呼んだ。「母が遺した日記があります。それを読んで、私は全てを知りました。先代王妃様は……病死ではなかった」

「メリッサ!」エリザベータ王妃が叫ぶ。「それ以上喋ったら、あなたも母親と同じ運命を――」

「脅迫ですか、母上」

レオン王子の声が、氷のように冷たく響いた。その瞳は、普段の優雅さとは裏腹に、猛禽類のような鋭さを帯びている。

「僕を殺そうとしたのも、あなただったのではありませんか」

私の心臓が、激しく跳ねた。

そうだ。毒殺未遂事件。あの夜、レオン王子が飲んだワインに混入していた毒。私が犯人として疑われたあの事件も、この二十年前の真実と繋がっているのだ。

「違う! 私はレオンを……息子を殺そうだなんて……」

「では、誰が」私は口を開いた。「誰が王子を殺そうとしたのですか。そして、なぜ私が濡れ衣を着せられたのですか」

エリザベータ王妃は、崩れ落ちるように膝をついた。プライドの高い王妃が、地下牢の冷たい石床に膝をつくその姿は、哀れささえ感じさせた。

「私は……私は、ただ……」

王妃の口から、震える言葉が漏れる。

「第二王子を……オズワルドを、次期国王にしたかっただけなの。レオンではなく、私の実の息子を」

地下牢に、再び重い沈黙が落ちた。

実の息子。

その言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。そして理解した瞬間、全ての謎が氷解した。

「レオン王子は……あなたの実の子ではない?」

私の問いに、王妃は顔を覆って嗚咽を漏らした。

「先代国王陛下は、私と結婚する前から、マリアンヌと密かに愛し合っていた。でも、王族としての責務のために、彼女と別れて私と政略結婚をした。その時、マリアンヌは既に……」

「妊娠していた」レオン王子が、静かに言葉を継いだ。「そして生まれたのが、僕だった」

メリッサが、震える声で言った。

「母の日記には、全て書かれていました。先代国王陛下は、生まれた王子を正妻の子として育てることを決めた。マリアンヌは侍女として城に残り、密かに息子を見守ることを選んだ。でも、先代王妃様は真実を知っていた。そして、その秘密を守るために――」

「先代王妃を毒殺した」私は言った。「そして、真実を知っていたマリアンヌも」

エリザベータ王妃は、もはや否定する気力も失ったように、ただ俯いていた。

レオン王子は、複雑な表情でロケットを見つめている。その瞳には、悲しみと怒りと、そして何か別の感情が渦巻いていた。

「僕が図書館で先代王妃の死因を調べていたのは、匿名の手紙を受け取ったからです」王子は静かに語った。「『真実を知りたければ、先代王妃の死を調べよ』と。その手紙を送ってきたのは、おそらく――」

「私です」

予想外の声が、地下牢の入口から響いた。

振り返ると、そこには第二王子オズワルドが立っていた。彼の顔には、苦悩の色が浮かんでいる。

「兄上。僕は、もうこれ以上、母上の罪を隠し通すことはできません。真実が明らかになる時が来たのです」

オズワルド王子は、ゆっくりと地下牢の中へ入ってきた。

「母上が兄上を毒殺しようとしたあの夜、僕は全てを見ていました。アリシア様が犯人として疑われるように仕組まれたあの事件の、本当の犯人を」

私の全身に、電流が走った。

本当の犯人。それは、エリザベータ王妃ではない。では一体――。

「犯人は」オズワルド王子は、苦しげに言葉を絞り出した。「第三王女、フィリシア。僕たちの妹です」

その名前を聞いた瞬間、全ての断片が一つの完璧な絵を描いた。

フィリシア王女。控えめで大人しく、いつも影の薄い第三王女。彼女は母親の野望を知り、兄であるレオン王子を排除しようとした。そして、罪を私に着せることで、二つの障害を一度に取り除こうとしたのだ。

「フィリシアは、どこに?」レオン王子が鋭く尋ねた。

オズワルド王子は、悲痛な表情で答えた。

「王宮を抜け出し、どこかへ逃げたようです。でも、兄上。彼女を追う前に、知っておいていただきたいことがあります」

彼は深く息を吸い込むと、決意を込めた目でレオン王子を見つめた。

「フィリシアは、実は母上の実の娘ではありません。彼女もまた、父上と別の女性との間に生まれた子なのです」

地下牢が、再び静寂に包まれた。

二十年前の秘密が、次々と明かされていく。まるで、長い間封印されていた箱が開けられ、中から暗い真実が溢れ出してくるかのようだった。

私は、全ての情報を整理しようとした。

オズワルド王子の告白は、事件の全体像を根底から覆すものだった。

フィリシア王女が実の娘でないなら、エリザベータ王妃が「本来あるべき血筋」と繰り返し口にしていたのは、自分の実子であるオズワルド王子を王位継承者にするためではないのか。だが、それならなぜフィリシアが毒殺を実行したのか。

「待ってください」私は思考を整理しながら口を開いた。「フィリシア王女が第二王妃の実子でないのなら、彼女はなぜレオン殿下を毒殺しようとしたのですか? 王位を継ぐのはオズワルド殿下のはず。フィリシア王女には動機がありません」

オズワルド王子は、苦しげに首を横に振った。

「それが……フィリシアは、自分の出自を知ってしまったのです。彼女の実の母親が誰なのかを」

レオン王子の表情が、わずかに変化した。まるで、何か恐ろしい予感に気づいたかのように。

「まさか……」

「そうです、兄上」オズワルド王子は震える声で続けた。「フィリシアの実の母は、先代王妃――兄上の母上なのです」

地下牢の空気が、一瞬にして凍りついた。

私の頭の中で、パズルのピースが猛烈な速さで組み合わさっていく。先代王妃の死。レオン王子が図書館で調べていた「先代王妃の死因」の資料。そして、エリザベータ王妃の「本来あるべき血筋」という言葉。

「では、フィリシア王女は……レオン殿下の、実の妹……?」

オズワルド王子が頷いた。

「二十年前、先代王妃は双子を出産されました。兄上と、フィリシア。ですが、当時の王宮では双子の出産は不吉の兆しとされていた。そのため、フィリシアは秘密裏に別の場所で育てられることになったのです」

レオン王子は、石のように固まっていた。彼の青い瞳には、衝撃と混乱が渦巻いている。

「母上は、フィリシアを手放した悲しみに耐えきれず、病に倒れた。そして……亡くなられた」オズワルド王子の声が、悲痛に響く。「その後、父上は罪悪感から、フィリシアを密かに王宮に連れ戻し、母上――エリザベータ王妃に託したのです。実の娘として育てるようにと」

全てが繋がった。

エリザベータ王妃の「本来あるべき血筋」という言葉は、フィリシアが先代王妃の血を引く真の王位継承者だという意味だったのだ。そして、フィリシアは自分の出自を知り、王位への野望を抱いた。第一王子であるレオンを排除し、自分が――あるいは自分を支持する勢力が――王位を手にするために。

「でも、それならなぜフィリシア王女は私に罪を着せようとしたのですか?」私は尋ねた。「単にレオン殿下を毒殺するだけでは不十分だったのですか?」

オズワルド王子は、苦々しく微笑んだ。

「アリシア様、あなたは聡明な方だ。もうお気づきでしょう。フィリシアは、兄上を殺すだけでなく、兄上が最も大切にしている人を奪おうとした。それがあなたです」

レオン王子の手が、私の肩を強く掴んだ。

「フィリシアは知っていたのだ。私がアリシアに執着していることを。だから、アリシアを犯人に仕立て上げ、処刑することで私に二重の苦しみを与えようとした。なんと、浅はかな……」

彼の声には、怒りと悲しみが混ざっていた。

私の心臓が、激しく高鳴る。フィリシア王女の計画は、恐ろしいほど緻密だった。レオン王子を毒殺し、私を犯人として処刑する。そうすれば、王位継承権は自動的にオズワルド王子に移る。そして、フィリシアは影からオズワルドを操り、事実上の権力を握ることができる。

だが、一つだけ解けない謎があった。

「侍女のエリナです」私は思い出したように言った。「彼女が持っていた王家の紋章入りのロケット。あれは一体……」

オズワルド王子の顔色が、さらに青ざめた。

「それは……先代王妃が、フィリシアに残した唯一の形見です。ロケットの中には、双子として生まれた証拠が隠されている。エリナは、フィリシアの側近として、常にそのロケットを守っていたのです」

全ての真実が明らかになった今、私たちがすべきことは一つだった。

フィリシア王女を見つけ出し、この事件に決着をつけること。

「オズワルド」レオン王子が弟を呼んだ。「フィリシアが向かった先に、心当たりはあるか?」

オズワルド王子は、しばらく考え込んでから答えた。

「一つだけ、可能性があります。王都から北へ三日の距離にある、廃墟となった修道院。そこは、かつて先代王妃がフィリシアを預けていた場所です。もし彼女が心の拠り所を求めるなら、そこに行くでしょう」

レオン王子は頷き、エリザベータ王妃を見下ろした。

「母上、あなたは王宮に留まり、父上の裁きを待つことになる。オズワルドとアリシア、そして私で、フィリシアを連れ戻す」

エリザベータ王妃は、もはや何も言わなかった。ただ虚ろな目で、地下牢の壁を見つめているだけだった。

私たちは地下牢を後にし、急いで出発の準備を始めた。

だが、王宮の中庭に着いたとき、私は奇妙な違和感を覚えた。警備兵たちの数が、いつもより少ない。まるで、意図的に配置を減らされているかのように。

「レオン殿下」私は囁いた。「何かがおかしい」

レオン王子も同じことに気づいたようで、警戒の色を強めた。

その時、中庭の噴水の影から、一つの人影が現れた。

月明かりに照らされたその姿を見て、私は息を呑んだ。

フィリシア王女だった。

彼女は逃げていなかった。むしろ、私たちを待っていたのだ。

「お久しぶりですね、兄様。そして、アリシア様」フィリシアの声は、冷たく静かだった。「私が逃げたと思いましたか? いいえ、私はここで全てを終わらせるつもりです」

彼女の手には、小さな瓶が握られていた。月光を反射して、不吉に輝いている。

「その瓶は……」

「そうです。兄様に使ったのと同じ毒です。でも今度は、量を間違えません」

フィリシアの唇が、冷たい微笑みを浮かべた。

「本来、王位は私のものだった。母上――先代王妃の血を引く、真の継承者として。なのに、男として生まれたというだけで、兄様が全てを手にした。こんな不公平があっていいのですか?」

レオン王子は、一歩前に踏み出した。

「フィリシア、まだ遅くはない。その毒を捨て、私と話をしよう。お前は私の妹だ。血を分けた――」

「黙りなさい!」フィリシアの叫びが、夜の静寂を裂いた。「あなたに、私の苦しみが分かるものですか! 王女として育てられながら、実の母の愛を知らず、偽りの母に育てられ、真実を知った時の絶望が!」

彼女の目から、涙が零れ落ちた。

だが、その手に握られた毒瓶は、微塵も揺らがなかった。

「私は、この手で全てを取り戻します。兄様を、そしてアリシア様を――」

その瞬間、私の背後から矢が放たれた。


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悪役令嬢に転生したら、溺愛王子の暗殺事件を解くことに!? 著者:紫苑ミステリア ジャンル:本格ミステリー

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