二十歳の僕は、とにかく何に対しても「やる気」というやつが起きなかった。
バイトは三ヶ月でクビになり、大学の講義には足が向かない。自分を「空っぽの容器」のように感じて、ただ毎日をやり過ごしていた。
そんな僕の唯一の日課は、公園のベンチで源さんと過ごす一時間だった。
源さんは七十歳を過ぎた、少し偏屈な老人だ。いつもボロボロのゴールデンレトリーバーのハルを連れて、ベンチで道ゆく人々を眺めている。
「……あの犬、今なんて言ったと思う?」
源さんは時々、すれ違う散歩中の犬を指差して、僕にクイズを出す。
「え、鳴いてもいないですけど。……まあ、『散歩楽しいな』とかじゃないですか?」
「ハズレだ。あれは『またこの角かよ、イースト菌の匂いが鼻につくんだよ』って顔をしてる」
