自動ドアが開くと、冷房の効いた図書室の空気が肌をなでた。
僕はまっすぐ、歴史の棚でも新刊コーナーでもなく、返却カウンターへ向かう。
「……あ。お願いします」
一冊の小説を差し出すと、吉田さんは顔を上げずに、細長い指でバーコードをなぞった。
「……。最後、ちょっと難しかったです。主人公、結局あんなにボロボロになってまで何がしたかったんですか」
吉田さんは手を止めて、ようやく僕を見た。眼鏡の奥の瞳が、少しだけいたずらっぽく細められる。
「そうね。……今の高橋くんには、この絶望はまだ『言葉』でしかないのかも」
