夕木春央『方舟』 つらくてもやめられない一気読み
ta-e
面白い推理小説は一気読みしたくなる。いや、寝る前に少し読み進めようと思って、そのまま読み終わるまで寝ないで読み通してしまう。
大人になって昔ほど体力もなく、同じ姿勢でずっといると眠くなってしまうものだ。
テレビゲームとかはだいたいやる前から面白いことが分かっていることが多いし、面白いと思ったものしか買わないが、小説はそうもいかない。
あらすじは面白そうでも、結末がつまらなかったら興ざめだ。
自分は映画や小説は終わりこそがすべてて、途中がどんなに面白くてもラストの風呂敷の畳み方が雑だと好きにはなれない。
なので、最近の広告や宣伝でよくある「どんでん返し必至」「ラスト10分、あなたはひっくり返される」とかいう謳い文句は個人的にはありがたい。
なぜならそれを目当てに小説や映画を求めているからだ。逆にそういう宣伝が何もないと自分には合わないかもしれないと疑るぐらいだ。
物語のあらすじとしては、ひょんなことから山奥の地下建築を訪れた主人公一行は、偶然出会った三人家族とともに地震のせいで地下建築に閉じ込められてしまう。
さらに水が流れ込んできて、いずれ水没してしまう。扉を塞いでいる岩をどかすためには、誰かひとりが生贄にならなければならない。
そんな矢先に殺人事件が発生する。極限状態のなかで犯人捜しをすることになる。その犯人を生贄にするために。
いままで聞いたことのない設定にまずわくわくした。
犯人捜しの理由付けがものすごくニクい。
謎解き好きな探偵でもなく、仕事のための刑事でもなく、生きるために推理をしなければならない緊張感。
極限状態のなかで殺人事件が起こるミステリはよくあるが、その中の犯人捜しへの動機も保たれていて読むスピードは落ちなかった。
物語が進む中で今回の事件以外に余計なサブストーリーが挟まれる余地が少ないのも好感の持てるポイント。
動機のためとはいえ登場人物や謎の建物の掘り下げが多すぎると途中で飽きてしまいがちだが、それも最小限にとどめられ、あくまでメインは今起きている事件の推理に据えられている。
そして最後の犯人の独白。フーダニットな展開からホワイダニットに移る瞬間が鳥肌もの。
この地下建築の結末にも、ぞくぞくさせられた。
面白いけど、気分が落ち込んでいるときには読めない。是非読むときは休日の朝から読むのをお勧めする。怖いもの好きならば暗い夜に読了してもいいかもしれないが。
