知らぬ間に海外へ流れる「デジタル赤字」の実態
私たちの暮らしは、日々のなかで無意識のうちに"デジタルサービス"に囲まれています。YouTubeで動画を見て、Spotifyで音楽を聴き、ChatGPTのようなAIを使う——これらの多くが海外企業によって提供されており、日本からはその対価として「お金」が海外に流れています。
これがいわゆる「デジタル赤字」です。2025年2月、デジタル関連サービスによる赤字は6,475億円に達しました。これは国としての経済収支において無視できない規模であり、経常収支全体のバランスにも影響を及ぼします。
目次
- 知らぬ間に海外へ流れる「デジタル赤字」の実態
- 思わぬ「救世主」、訪日外国人の経済効果
- なぜ今、訪日客消費が急増しているのか
- 課題と持続可能な収支構造への道
思わぬ「救世主」、訪日外国人の経済効果
ところが、そんなデジタル赤字の影響を和らげる「救世主」が現れました。そう、それが「訪日外国人(インバウンド)」です。
2025年2月、日本を訪れた外国人観光客による消費が急増し、旅行収支は5,599億円の黒字となりました。これは2月としては過去最大の黒字額です。さらに、25年1月には旅行収支が7,083億円にまで達し、デジタル赤字の規模を上回る場面も見られました。
つまり、日本に来た観光客が落とすお金が、海外に流れるデジタルマネーを一時的にでも「取り返す」ほどになっているのです。
なぜ今、訪日客消費が急増しているのか
この旅行収支の黒字拡大には、いくつかの背景があります。
まずは「円安」の効果です。為替レートが1ドル=150円台まで進んだことで、外国人観光客にとっては日本の物価が割安に感じられ、「爆買い」に近い消費行動を促しました。
加えて、2025年1〜3月の訪日客数は、四半期で初めて1,000万人を超え、1,053万人となりました。特に、中国人観光客の回復が顕著で、前年同期比で約8割増加。韓国からの観光客も250万人超と最多でした。
課題と持続可能な収支構造への道
しかし、楽観視できる状況ばかりではありません。観光庁のデータによれば、訪日客1人あたりの平均消費額は22.2万円で、前の四半期の23.6万円を下回っています。つまり、「数」は戻ってきても、「単価」はやや減少しているのです。
2025年2月の為替レート平均は151円96銭でしたが、足元では147円前後まで円高が進行。これが続けば、旅行黒字の維持にも暗雲が漂いかねません。
訪日客による消費がデジタル赤字を相殺するほどに拡大している現状は、日本経済にとって大きなチャンスです。しかも、インバウンド消費は地方経済にも波及し、観光産業全体を潤す「地域創生」の要素も持ちます。
一方で、これは"対症療法"であり、本質的には日本国内のデジタル競争力を高める必要があります。国産のクラウドサービスやAIプラットフォームが育てば、対外的な支払いを減らし、持続可能な収支構造が実現します。
デジタル赤字が続く中で、インバウンドの黒字が経済の"バランス"を保つ構図が見えてきました。とはいえ、為替や国際情勢に左右されやすいこの構造は、決して安定した土台とはいえません。
観光とデジタル、2つの軸から収支バランスをどう取っていくか——これはまさに、これからの日本経済の未来を左右する重要なテーマなのです。