人生に迷いや不安を感じたとき、誰かにそっと背中を押してほしくなる。古来より、人々は占いに頼りながら、その一歩を踏み出す勇気を得てきました。ところが現代、私たちが相談する相手は必ずしも"人"である必要はなくなりました。AI技術の進化が、「占い」という営みにも大きな変化をもたらしつつあります。
AI占い師とは何か?
2024年12月、オルツという企業がリリースした「AI占い師」は、実在する著名な占師の知識や話し方をAIに学習させた、いわば"デジタルな占いの先生"です。占師が書いたブログや指南書、講演動画などをAIに取り込み、わずか1時間ほどで口調や外見、さらには声まで再現することが可能になりました。現在までに、50人以上のAI占い師が作成されています。
スマートフォンやパソコンから簡単にアクセスでき、チャット形式や音声対話で相談ができる仕組みです。たとえば「仕事がうまくいかない」「恋愛に悩んでいる」といった問いかけに対し、タロットや星占いなどをもとにAIが丁寧に返答してくれます。
なぜ今、AI占い師が求められるのか?
AI占い師が注目される背景には、社会構造や人々の価値観の変化があります。心理学者である明治大学の諸富祥彦教授は、占いには「確率的な未来を示す役割」と「悩みに寄り添うカウンセリング的な役割」があると指摘します。
現代社会では、価値観がますます多様化し、誰もがそれぞれの生き方を模索する時代となりました。かつてのように「大企業に勤めて一生安泰」「家庭を守ることが正しい」といった価値観がすべてではありません。起業や離婚、転職など、新たな人生の選択肢を選ぶ人が増え、正解のない世界を生きる必要が出てきたのです。
そんな時代において、AI占い師は"中立的な助言者"として機能します。人間の占師のように価値観を押し付けることがなく、あくまで事実とデータ、確率をベースにした答えを返してくれるため、相談者が自分の価値観で判断する余地があるのです。
AIならではのメリットとは?
AI占い師の最大の強みは、「いつでもどこでも相談できる手軽さ」と「感情のバイアスがない中立性」です。
- 24時間365日対応:人間の占師が寝ている深夜でも、AI占い師なら待たずに相談できます。これは不眠に悩む人や突発的に不安が襲ってきたときに大きな安心感を与えてくれます。
- 感情の押し付けがない:人間の占師は良くも悪くも主観的な価値観を持っていますが、AIはあくまで学習したパターンに基づいてフラットに回答します。特定の考えを押し付けられることがなく、自分で答えを導く手助けをしてくれます。
- プライバシーが守られる:対面や電話では話しづらいような繊細な悩みも、チャット形式でなら気軽に打ち明けやすくなります。
それでも人は"人間"を求める理由
一方で、AI占い師にも限界があります。それは「人間らしさ」の欠如です。AIがいくら口調や表現を学習しても、そこには本物の共感や情熱はありません。誰かに話を聞いてほしい、ただそばにいてほしい、という感情は、依然として"生身の人間"でなければ満たされないものなのです。
オルツの飯沼氏も「AI占い師で満足できないと感じた人は、ぜひ本物の占師の元を訪れてほしい」と語っています。つまり、AI占い師はあくまで"入り口"や"きっかけ"であり、より深く内面と向き合いたいときには人間との対話が必要になるという考えです。
AIと人間の占いは共存できるか?
未来において、AIが人間の占師を完全に代替するというよりも、それぞれの役割が明確に分かれていくことになるでしょう。たとえば、AI占い師は以下のようなケースで活用されることが想定されます。
- 急ぎの相談や軽い悩みを聞いてほしいとき
- 忙しくて占師に会う時間が取れないとき
- 価値観の押し付けを避けたいとき
一方で、人生の岐路や大きな決断に直面したとき、やはり人間の温かさや経験に裏打ちされた言葉を求める人も多いでしょう。データや論理で導かれる答えだけでは癒せない"心の機微"が、そこにはあるからです。
データ時代の"信じる"という行為
現代は、何を信じ、誰に相談するかさえも多様化した時代です。神社のご神木を拝んだり、信頼する占師の言葉にすがったりすることに代わって、今はデータやAIを"信じる"時代に移り変わりつつあります。
しかしその根底にあるのは、「不安な気持ちを誰かに受け止めてほしい」という普遍的な人間の願いです。AIがその一助となるのならば、それもまた時代の進歩なのかもしれません。
まとめ:占いの本質は変わらない
AI占い師の登場は、たしかに大きな技術革新です。しかし、どれだけ形が変わっても、「心を軽くする」「未来に一歩を踏み出す勇気をくれる」という占いの本質は変わりません。
人間の感情を理解しようとするAIと、温かみを持って語りかける人間。その両者が共存する未来において、私たちはより自由に、そして安心して、自分の人生を選んでいけるのではないでしょうか。