
【エッセイ】池袋で会った涼子(仮名)という女のストーリー

ミカジー
深夜まで起きていると昔のことばかり思い出す。
涼子(仮名)という女と会ったのは2006年の夏頃だった。
当時、俺は34歳。
結婚して4年目。
すでに世は平成期になって15年ほど経っていた。
遅くまでオフィスに残り顔面にブルーライト浴びながらWindowsラップトップマシンにしがみついていた。仕事に追われ目を充血させてキーボードを叩いていた。
外回りの営業職だったけど22時くらいになるまでオフィスに残る。やっつけてもやっつけても終わらない見積り作成に追われていた。
当時の日本社会は急速にデジタル化が進行していた。
社会ニュース的にいえば少し前に起きた"ネット界の風雲児"ホリエモンが逮捕(ライブドア・ショック)された頃だった。
そして、ナンパ的出会いの形態も変わった。
たとえば、数年前からテレクラは廃れていて世の中はケータイでテキストメッセージをやりとりしてインスタントな出会いを支援するサイトが主流になっていた。

しかし、自分は既婚者。
ナンパ的なことからはとりあえず足を洗っていた。
ケータイは嫁に覗いて見られることもあり、日進月歩で進化を遂げていた出会い系サイトに参戦できずじまいだった。
結婚する前までは明るい色だった髪も黒く戻し、コナカやAOYAMAのバーゲンで買った安いスーツをヨレヨレになるまで着てた。
社畜してた。
・・・・・・
しかし結婚して数年経って日常に退屈してしまう。
久しぶりにビョーキが発症したのだ。
そして……
「出会いカフェ」にハマってしまった。

出会いカフェはいまもある。
いまのシステムは知らないけど当時のそれをかんたんに説明すると……
①業者がカフェに女の子を集める
②男たちは入場料を払いカフェに入る
③マジックミラーの向こう側に女の子たちがいる
④男は1人指名して店内個室へ行って女の子とトークする
⑤トークした結果、女の子と合意確定したらお店に追加料金を払って外へ出る
・・・・・・
現代の目線では、出会いカフェというと相席居酒屋みたいな素人同士のマッチングの場のように思えるかもしれない。
違う。
実態はごりごりの円光スポットだった。
そして
俺はそこでタダマンを狙うのが好きだった。
出会いカフェから連れ出してカラオケや居酒屋に搬送する。ガチの💰目的ではない女の子をその日のうちホテルへ搬送する。めちゃくちゃエキサイティングな遊びだった。
・・・・・・
涼子と出会ったのは、出会いカフェからのタダマン実績が5人目を超えて自分自身この遊びに確かな手法を確立できたと自信をもった頃だった。
その日、自分は営業先から直帰して池袋のカフェに入店。マンガ読んだりスナック菓子を食べたりケータイをプチプチしたりしてる"死んだ魚の眼"をしていた女の子をマジックミラー越しに見ていた。
そこにひとり、他の子とは異なるオーラをまとった高身長の女の子がいた。
篠原涼子を少しグラマラスにした感じのルックス。

夏の終わりの夕暮れ。
首尾よく涼子を連れ出してサンシャイン通りから細い路地に入るところにあった居酒屋チェーン店に入る。
👱♀️「ミカエルさんでしたっけ?」
👼「それでいいよ」
👱♀️「何の仕事やってるひと?」
👼「旅人」
👱♀️「ウケるww」
涼子の見た目はキレイめのギャルだけど、異様に頭の回転の速い女の子だった。
・居酒屋のオーダー決めるのも早い。
・店員さんへの気遣いも洗練されてる。
とくに感心したのは
・焼き魚を食べる箸づかいが美しかったこと。
地頭の良い女の子との会話は楽しい。
あっというまに時間がすぎた。
・・・・・・
俺はそろそろ店を出ようかと思い、腰を上げようとしたその刹那…
👱♀️「千円ちょうだい!💕」
👼「は?」
そっか……
そもそもこの子と出会ったのは円光スポットだったんだ。
これまで頑なに女の子に現金を渡さずにいかに早くセックスに持ち込むことだけに腐心していた自分だったけど、この「千円ちょうだい」のときの涼子の天真爛漫ともいえる笑顔には抗えなかった。
涼子と居酒屋を退店して駅池袋のほうへだらだら歩く。
家で待つ嫁のことを思うと早めに帰りたかったけど、涼子のような女と出会った高揚感から自分はいつものクセで打診した。
「ホテル行きたい」
涼子はニコッと笑った。
「いいけど、、今日セイリ!」
負けた。

その後も涼子とは5回ほど会った。
3回めに会ったときにセックスした。
よく食べる女だったのでお互いに行きたい美味しいお店巡りした。毎回会うたびに楽しい発見がある女の子だった。
出会いカフェで出会うおっさんの愚痴をよく聞いた。凄まじいおっさん体験を語る涼子のユーモラスな表現が面白かった。
涼子は基本的に自分の過去の話をしない女の子だった。
けれどごくたまにこれまでの経歴を教えてくれた。
・北陸のそれなりに富裕層の家で生まれたこと
・親とソリが合わずいまは仕送り止められてからキツいこと
・勉強は嫌いだけどペーパーテストは強くて現役でW大学に入れたこと
・好きな作家は遠藤周作
・JD時代に某オーディション番組に出て合格。一時期はアイドル的な活動してたこと
・出会い系はやってるけどカラダを売るのは絶対やりたくないこと
自分は20代にインスタントな出会い/セックスを繰り返していたので女の子は嘘をつく生き物だということはわかっていた。だから涼子のこれらの自分語りも半信半疑で聞いていた。
・・・・・・
その後。
涼子はその後も出会いカフェやサイトでたくさんのオトコと会っていた。その成果を俺にいつも独特の言語感覚でメッセージをくれた。
自分も出会いカフェ通いを続けていた。
新規で会ってかんたんにその日のうちにGETできる子が連続した。
そして、涼子ともいつしか会わなくなった。
出会いカフェ巡りをはじめて2年後、あるキッカケでその遊びが嫁にバレた。
嫁はそれから1か月も家に戻らなかった。
・・・・・・
嫁が戻ってきた後、ほとぼり冷めてセカンド携帯を買ったのをキッカケにはじめて出会い系サイトに登録した。
かんたんに若い子に会えることに歓喜した。
ある夜、いつものようにサイトの新規の女の子のプロフィール一覧を見ていたら……
涼子がいた。
サイトには2年前の頃と同じ天真爛漫な笑顔の写真を載せていた。
懐かしい気持ちもあり、涼子にメッセージを送った。
👼「こんにちは!まずはカフェでお話ししたいです。よかったら仲良くしてください!」
👱♀️「ありがとうございます!こちらこそ!」
👼「早速だけど明日のX時に会おうか?」
👱♀️「ぜひ! 割り切り2でよろしいですか?」
その後の涼子の行方は知らない。
(終わり)