収録: 本編約19,000字 / チェックリスト2枚 / そのまま送れる文例8本 / 記入シート3点
第1部:無料公開部分
会社員のまま、週末だけ不動産の仕事を始めた人の1年(仮名・仮例)
Sさん(仮名・38歳・メーカー勤務の会社員)は、平日は今までどおり会社に通いながら、土日のどちらかと平日の夜に、不動産の仲介の仕事を始めました。
きっかけは、自分の引っ越しでした。部屋探しを手伝ってくれた担当者の仕事ぶりを見て、「この仕事、会社に雇われなくてもできる形があるらしい」と知ったことです。調べてみると、宅建業の免許を持つ会社と業務委託契約を結び、その会社の一員として仲介の実務を担う「不動産エージェント」という働き方があると分かりました。
Sさんは、ある会社と業務委託契約を結び、オンラインの研修を受け、名刺を作り、SNSのアカウントを開設しました。ここまでは順調でした。
最初の3ヶ月、成約はゼロでした。
知人への連絡で「部屋を探している人がいたら紹介してほしい」と伝えた相手は20人。実際に相談が来たのは2件。うち1件は条件が合わずに立ち消え、もう1件は内見まで進んだものの、別の会社で先に申し込んでいました。SNSは毎週投稿していましたが、問い合わせはゼロ。この間の収入もゼロです。交通費と名刺代は自分の持ち出しでした。
4ヶ月目に、最初の成約が来ました。知人の後輩の引っ越しです。家賃8万円のワンルーム。会社を通して受け取った報酬は、分配後で5万円台でした(金額はすべて仮例です)。時給に換算すれば、割に合う数字ではありません。それでもSさんは「お客様の名前で契約が1本通った」という事実に、想像していた以上の手応えを感じたと言います。
1年が終わった時点で、Sさんの成約は年間で数件。エージェントとしての収入は、会社員としての月給1ヶ月分に届くかどうか、という水準でした。ただし、1年前とはっきり違うことが2つありました。仕事の型が手元に残ったこと(誰に何を伝え、どの順番で動けば案件が進むのか)。そして、2年目の見通しが立ったことです。初回のお客様からの紹介が、すでに1件動き始めていました。
——これは、うまくいった側の例です。同じ時期に始めて、3ヶ月で辞めた人もいます。この記事は、Sさんのような1年を「もっと迷いなく」過ごすための実務ガイドであると同時に、辞めた人がなぜ辞めたのかも正直に書くガイドです。
不動産エージェントとは何か
不動産エージェントとは、宅地建物取引業の免許を持つ会社(宅建業者)と業務委託契約を結び、その会社に所属する形で、不動産仲介の実務を担う働き方です。
大事な点を先に整理します。
- 雇用ではなく、業務委託です。会社と結ぶのは労働契約ではなく業務委託契約で、固定給はなく、成果に応じた報酬を受け取る形が一般的です。
- 仲介行為そのものは、宅建業免許を持つ会社の事業として行われます。個人が免許なしで単独で仲介業を営むことはできません。エージェントは、免許を持つ会社に所属する立場で実務に携わります。所属の形や業務範囲の細かい取り扱いは会社・地域によって異なるため、登録先の会社と所轄の窓口で確認するのが前提です。
- 宅建士資格がなくても関われる業務はあります。重要事項説明など宅建士にしかできない業務は、会社側の宅建士が担う体制を取る会社が一般的です(詳しくは第2章で整理します)。
つまり「会社を辞めて独立開業する」話ではなく、「会社員を続けたまま、あるいは転職として、免許を持つ会社の看板の下で仲介の仕事を始める」話です。
会社員の営業職と、何が違うのか
同じ「不動産の営業」でも、正社員とエージェントでは仕組みが根本から違います。
| 項目 | 正社員の営業職 | 業務委託のエージェント |
報酬の考え方だけ、仮例で見ておきます。
例えば、家賃10万円の賃貸を成約し、仲介手数料として家賃1ヶ月分+消費税(11万円)が会社に入ったとします。この売上を、会社とエージェントが契約で決めた割合で分けます。仮に分配率が6割なら、あなたの受け取りは6.6万円です。分配率は会社によって幅があり、月会費などの固定費がかかる会社もあります。表面の分配率が高い=手取りが多い、とは限りません(第2章で比較の仕方を書きます)。
ここで、良い面だけでなく反対側も並べます。
- 成約がなければ、収入がゼロの月が普通にあり得ます。特に最初の数ヶ月は、ゼロが続くことを前提に考えるべきです。
- 社会保険・雇用保険の扱いが会社員と大きく違います。辞めても失業給付はなく、有給休暇もありません。
- 交通費・名刺・通信費・写真機材などの経費は、自分の持ち出しです。
- 確定申告を自分で行う必要があります。
この記事は、こうした不利な面を含めて判断してもらうために書いています。良い面だけを見て始めた人から順に辞めていくのを、この業界では何度も見てきたからです。
この記事が解決すること
不動産エージェントに興味を持った人が詰まる場所は、だいたい3つに決まっています。
詰まり1:仕事の中身が分からないまま、雰囲気で判断してしまう「自由な働き方」「高い報酬率」という言葉だけで判断すると、始めてから「思っていた仕事と違う」となります。第1章で、実際の業務の流れ・1週間の動き方・報酬の計算・税金まで、中身を具体的に書きます。
詰まり2:どの会社に登録するかを、分配率だけで決めてしまう登録先の会社は、その後の1年を大きく左右します。分配率の数字だけで選ぶと、研修がない・案件の供給がない・質問できる宅建士がいない、という状態で放り出されることがあります。第2章で、比較の軸と、面談で聞くべき質問リストを渡します。
詰まり3:登録した後、最初の90日で止まる登録はゴールではなくスタートです。最初の90日に何をするかの設計がないと、「準備だけして動けないまま」フェードアウトします。第3章で、Month1〜3の動き方を手順にしました。
加えて、第4章にそのまま送れる文例8本、第5章にチェックリストと記入シートを収録しています。読んで終わりではなく、手を動かして使う前提で作っています。
想定読者と、向かない人
次のいずれかに当てはまる方に向けて書いています。
- 会社員を続けながら、副業として不動産の仕事を試してみたい方
- 営業職からの転職の選択肢として、エージェントを検討している方
- 宅建士の資格を持っている(または勉強中で)、資格を実務につなげたい方
- 資格はないが、不動産の仕事に興味があり、何から始めればいいか知りたい方
一方で、正直に書きます。次の方には勧めません。
1. すぐに安定した収入が必要な方エージェントの報酬は成果報酬で、立ち上がりの数ヶ月は収入ゼロが普通にあり得ます。今すぐ生活費を稼ぐ必要がある方は、固定給のある仕事を選ぶべきです。これは皮肉ではなく、実務的な助言です。
2. 指示されないと動けない方業務委託には、上司も、ノルマも、日々の指示もありません。それは「自由」であると同時に、「自分で動かない限り何も起きない」ということです。会社の仕組みに乗って成果を出すのが得意な方は、正社員の営業職の方が力を発揮できる可能性があります。
3. 楽に稼げる話を探している方この記事のどこにも「楽に稼げる」とは書いていません。書けないからです。仮例の数字はすべて仮例であり、結果には個人差があります。
著者について
川崎 拓也 — K agency 代表。宅地建物取引士・2級FP技能士。元金融機関勤務。現役の不動産エージェントとしても活動しています。住まいとお金の実務情報を発信するかたわら、エージェントという働き方に関心を持った方からの相談を受ける中で、「始める前に知っておくべきことが、まとまった形でどこにもない」と感じてこの記事を書きました。
お問い合わせ:info@k-agency.biz / K agency 公式LINE
使い方の前提
- 本記事の金額・割合・期間はすべて「例えば」の仮例です。実際の条件は、会社・地域・案件・時期によって異なります。結果には個人差があります。
- 登場する人物・社名はすべて仮名・仮例です。
- 宅建業法など法令に関する記載は一般的な枠組みです。具体的な業務範囲・所属の取り扱いは、登録先の会社および所轄の窓口でご確認ください。
- 本記事は一般的な情報提供であり、特定の会社との契約を勧誘するものではありません。
ここまでが無料公開部分です。
