じいちゃんがタバコを吸う理由を知った日から、僕もそういう人間になりたいと思ったけど、そうできないでいる。それはあの日、涙を流せなかったことが関係しているように思うんだ。僕は人のために涙を流さない。決定的に何かが欠落しているんだよ。
僕は誰よりも僕のことを愛している。だから僕にとって、今ここ、が全てなんだよ。過ぎ去ったものに執着できない。
恋愛とかさ、そういうこと以前に僕は人を愛するということが分からないんだよ。たぶん、両親が死んでも涙を流さない自信がある。親不孝なヤツだよ。
勉強はできないけど、バカじゃないから、悲しい、や、愛している、という感情は知っているんだ。だけど理解できない。それはなぜか。きっと向き合わなかっただろうね。
あの日、じいちゃんは行きたくない戦地に向かい、知らない異国の人と闘った。その無意味さを体験している。
僕は逃げ出した。時が過ぎるのを黙って我慢していただけだった。母さんから、子供なんて欲しくなかった、と言われた時に何もしなかったんだ。涙も流れなかったよ。ただ、言葉を聞いただけ。今でもあの日のことを気にしているのに、向かい合って話そうとしないんだ。
あの日、僕は何て言いたかったんだろうね。
ちなみに、両親が離婚しなかったのは、取り敢えず子供が大学を卒業するまでは我慢する、という結論になったからだけなんだ。そして、何だかんだ、今も別れずに暮している。僕はというと地元を離れ、遠くの街で一人、生きているよ。
たぶん、じいちゃんが残した店は継がないだろう。父さんの代でお終いさ。
了