「涙はどんな時に流れるのだろうか?」
この問いに対して殆どの人が悲しい時だと答えると思うんだ。僕もそう答えるからね。
そろそろオジサンと呼ばれる年齢に近付いてきて、何か感動できるような映画とか小説を読んだりすると目頭が熱くなるようになってきたけど、現実の生活の中で涙を流すことがないんだ。
ハッキリと涙を流したのは中学二年生の頃、母さんが、離婚する、と言って離婚届を父さんに突き出した時が最後だったと思うよ。
僕の目の前で行われたから、パニックになったのかもしれないね。条件反射のように流れ出たよ。防衛本能だったのかもしれないね。
「彼のことが忘れられないの」
居酒屋チェーン店で飲み放題を注文し、ポテトフライと軟骨の唐揚げをつまみに終電近くまで付き合わされること自体は嫌いではないんだけど、彼女の悲しさが理解できないんだ。僕には諦められないほどの想いがないから。
ああ、言っておかないとイケないことがある。彼氏のデリカシーがないところに腹を立ててケンカになり、別れる、と言ったのは彼女からなんだけどね。
そう言えば数年前に、僕もじいちゃんとお別れをしたんだ。