戦争が終わり、じいちゃんは日本に帰って来た。
焼け野原になって何もかもがなくなった故郷に戻り、露店商を始めたんだ。食料品が簡単に手に入らない状態だったから、遠くまで荷車を引いて仕入れに行っていたらしい。コツコツ貯金して店を構えられるようになった。それが、僕の実家になっている。じいちゃんの後、僕の父さんが引き継いだんだ。
この話を聞くまで、じいちゃんが苦労してきたなんて気付かなかったよ。いつも優しくて、オットリしていたからね。
今でもじいちゃんのイメージといえばタバコを吸い、昼食後は椅子に座って眠り、夕方になるとコーヒーを飲み、また眠る。後は飼っていた『チコ』と言う名の猫にエサをあげている姿だ。
じいちゃんは数え切れない程の辛い体験をしてきたのに、一つもそれらのことについて愚痴ったことがない。楽天的で呑気な人だったよ。昔は・・・・・・・・・、みたいな話をされた覚えがない。今、考えるとすごいよね。僕みたいにグダグダと現状に不満を言わないんだから。