AIに聞いたら、それらしい答えが返ってきた。朝9時台の検証は「試した回数」を先に数える
仲値トレーダー
取引記録を貼り付けて、AIに「勝ちやすい条件を探して」と頼んだことはないでしょうか。
私はあります。
数十秒で、きれいな答えが返ってきました。曜日の傾向、前日の結果との関係、狙い目になりそうな条件。理由まで付いています。
読みながら、検証がひとつ終わった気になりました。でも、あれは検証ではありませんでした。
1.AIは、探せば必ず何かを見つける
AIの精度が低いという話ではありません。探せば見つかる、という性質のほうが問題になります。
記録に条件をあてはめて「この条件のときだけ成績が良い」を探す作業は、手でやると1つに数分かかります。だから普通は5つか10個で力尽きます。ところがAIに渡すと、数十秒で30通り、100通りと進みます。
つまり、試した回数だけが桁違いに増えて、判断する側の基準は昔のままになるわけです。
では、実際の数字で説明していきます。
2.私の29営業日を、33通りの条件で切ってみた
私はドル円の朝9時台だけを記録しています。2026年7月20日から8月31日までの29営業日で、合計681.9pips。私1人の記録なので、母数としては小さいです。
この記録に条件を33通り作り、全部あてはめました。曜日、前日の結果、日付の偶数と奇数、月の前半と後半、その組み合わせです。
いちばん良く見えたのは金曜でした。金曜の6日は1日平均33.60pips。全体平均は23.51pipsです。
33.60 ÷ 23.51 = 1.43倍
これだけ見れば「金曜に集中する」という結論が出そうです。
3.でたらめなデータでも、74.4%は発見が出る
では、この1.43倍がどのくらい珍しいのかを数えました。
29日ぶんの数字はそのままに、日付との対応だけをシャッフルします。曜日も前日も成績と無関係にしたうえで、また33通りから一番良いものを選ぶ。2万回まわしました。
意味のないデータでも、33通りの中で一番良い条件は、中央値で全体平均の1.54倍になりました。
私の実データの1.43倍は、それを下回っています。
もう1つ。33通りのうち「統計的に有意」に見える条件が1つ以上出る確率は、中身がでたらめでも 74.4% でした。1 − 0.95の33乗 = 81.6% という理論値とほぼ同じです。AIに100通り試させたら、1 − 0.95の100乗 = 99.4% になります。
つまり、発見があったこと自体は情報になりません。何通り試したかを添えて初めて意味が決まる、ということです。
私の金曜も、探索を織り込むと片側0.7673。1.43倍は消えます。
4.重く受け取りすぎるのに、中身は揺れている
アメリカの大学で意思決定を研究しているログ氏らのチームが、同じ助言を「人からの助言」と「アルゴリズムからの助言」に見せ分けて、どちらを重く使うかを測りました。
写真から体重を当てる課題では、アルゴリズムだと言われたときの採用度が0.45、人だと言われたときが0.30。どの課題でもアルゴリズム側が重く使われています。
面白いのはここからです。同じチームが研究者119人に予想させると、大多数が逆を答えました。専門家の間では「人はアルゴリズムを嫌う」が通説だったからです。
一方で、受け取っている中身のほうは安定していません。
大手IT企業の研究チーム、ミルザデ氏らの検証では、算数の問題で数値だけを差し替えると全モデルの正答率が落ちました。答えに関係のない一文を1つ足すだけでも、最大65%下がります。
そして、いちばん効く例を1つ。
2024年に「AIが人間のアナリストより高い精度で業績の方向を当てた」という論文が出て、話題になりました。ところが、共著者の1人が再現を試みたところ、データと分析に食い違いが見つかりました。論文は2025年2月20日に取り下げられ、いまも公開されていません。
専門家の論文でもこうなります。1回の出力を、そのまま結論にする理由はないと思っています。
5.AIに渡してよい仕事と、渡してはいけない仕事
では、どう使えばいいのか。
金融庁が2026年3月に改訂した金融機関向けの資料には、誤りが含まれうることの注意喚起と、回答の根拠と情報ソースの明示が並んでいます。プロの現場でも根拠を出させるのが前提です。
金融安定理事会も2024年11月の報告書で、同じAIモデルとデータを多くの参加者が使うと相場の相関が高まると指摘しました。同じ道具に同じ質問をすれば、同じ答えが返る。
私の使い分けは、こうなりました。
- 渡してよい仕事 集計と整形です。中央値を出す、pipsを円に換算する。答え合わせができるものだけ
- 条件つきで渡す仕事 仮説を挙げてもらうまで。採用の判断は渡しません。挙がった数は記録します
- 渡さない仕事 条件を探させて、良かったものを選ばせること。探索そのものが結果を作るからです
そのうえで、必ず1つ足します。今いくつ試したかを書き出させること。
野球で例えるなら、100球のうち一番良い1球だけを見せられて「この投手は良い」と言われるのと同じです。何球投げたのかを聞かないと、意味が決まりません。
6.私が見つけて、そして消えていったもの
実際に見つけて、実際に消えた順に3つ書きます。
- 曜日のクセ 本当に効いて見えました。試した数を数えずに使い始め、2週間で崩れました。乱数でも同じくらいは出る差です。
- 前日の結果との連動 前日が良い日は今日も良い、という形が出ました。大きい2日を外すと消えました。
- AIが付けてくれた「理由」 これがいちばん危なかったです。数字に理由が付くと納得してしまいます。母数を確認しませんでした。
3つとも探し方の問題でした。腕の話ではありません。
7.まとめ
最後に、残しておきたい3つです。
- AIは探せば必ず見つけます。33通り試すと、でたらめなデータでも74.4%は有意に見える条件が出ます。100通りなら99.4%です
- 見つけたことより何通り試したかが情報になります。私の金曜1.43倍は、探索を織り込むと消えました
- 人はAIの助言を人の助言より重く取ります。研究者ですら向きを逆に予想していました。疑う先は自分の受け取り方です
例外を1つ。記録がまだ少ない段階では、この話は当てはまりません。数を貯めるほうが先です。
明日からの手を、1つだけ決めておきます。
次にAIへ記録を渡すとき、質問の最後に「試した条件の数も書いて」と付け足してください。
一文足すだけです。今日はここまでにします。読んでくださって、ありがとうございました。
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ただ、試した数を数え始めると、その手前で止まります。
- 記録の形がそろわず、条件をあてはめる以前に数えられない
- 数を書き出しても、途中で思いついた条件をつい足してしまう
- 見送った日の記録が抜けて、母数が実際より小さくなる
ここも意志の強さではないと思います。毎朝、同じ形で同じ項目を残す。この作業自体に負荷がかかります。
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矢印は、条件が揃ったという事実の表示です。勝ちの合図ではありません。損切りとロットは、ご自身のルールで決めてください。
まずは質問に一文足すところからで大丈夫です。受け取るのは、そのあとで構いません。
