相場の相手は、同じ個人トレーダーだと思っていた。仲値トレードは「手元に残る額」で数える
仲値トレーダー
含み益が出たとき、こう思ったことはないでしょうか。
「この分だけ、どこかで誰かが負けているんだろうな」
逆に損切りしたときは「取られた」と感じます。私も長いあいだ相場をそういうものだと思っていて、勝つ相手を探すことばかり考えていました。
ただ、自分の記録を見返しても、相手が誰だったのかはどこにも書いていないんですよね。
では、少しずつ解説していきます。
1.私の記録には「誰から取ったか」が書いていない
私はドル円の朝9時台だけを記録しています。
直近21営業日の合計は530.0pipsでした。pipsというのは値動きの最小単位のことで、ドル円なら0.01円が1pipsになります。
ただ、この530.0pipsの中身がかなり偏っています。
いちばん大きかった1日だけで104.4pips。104.4 ÷ 530.0 = 19.7%です。21日ぶんの5分の1近くを、1日で取っていたことになります。
1日あたりの平均は25.24pipsですが、その平均を下回った日が21日中16日ありました。76.2%です。
つまり、取れた日と取れなかった日の差は、相手が弱かったか強かったかではなく、その日に値幅が出たかどうかで決まっていた、ということです。私1人の記録なので母数としては小さいですが、少なくとも私の手元に「誰から取ったか」を書いた列はありません。
では、世界の外為市場では実際に誰が何をしているのか。ここから見ていきます。
2.方向を当てようとしている取引は、多数派ではない
国際決済銀行が3年に1度おこなっている、世界の中央銀行が参加する実態調査があります。2025年4月の調査では、世界の外国為替取引は1日あたり9兆6,000億ドルでした。
ここからが意外なところです。
このうち、いわゆる為替の売買にあたるスポット取引は3兆ドルで、全体の31%しかありません。スポット取引というのは、その場で通貨を交換する、いちばん普通の取引のことです。
いちばん多いのは為替スワップで42%を占めています。これは資金を短期で融通するための取引で、方向を当てにいくものではありません。
輸出入企業のような非金融の顧客が相手の取引に至っては、全体の5%まで下がっています。2019年が7%、2022年が6%なので、下がり続けている形です。
そして13%は「価格形成に関わらない取引」に分類されています。銀行が社内でリスクを移し替えるための付け替えで、値段を作る側の取引ですらありません。
つまり、9兆6,000億ドルという数字の中身は、方向を当てる勝負ばかりではないということです。
3.日本の個人を全部足しても、世界の1日ぶんに届かない
次は日本の数字です。
金融先物取引業協会が毎月出している統計では、2026年7月の店頭FXの出来高は882兆768億円でした。46社ぶんの合計なので、日本の個人がまるまる1か月で動かした金額になります。
これを1ドル150円で割ってみます。
882兆円 ÷ 150 = 約5兆9,000億ドル。
世界は1日で9兆6,000億ドルです。
つまり、日本の個人が1か月かけて動かす金額が、世界の1日ぶんに届いていないということになります。調査の時期も集計の仕方も違うので厳密な比較ではありませんが、1ドル100円で計算しても届きません。
野球で例えるなら、こちらが素振りをしている横で、別のリーグの試合がまるごと進んでいるような感じです。相手を探しても見つからないのは、当たり前でした。
4.値段を動かしているのは、見えない注文の偏り
では、何が値段を動かしているのか。
アメリカの大学の研究者、エバンズ氏とライオンズ氏が発表した研究があります。為替の値動きを、経済の指標ではなく「注文の偏り」で説明しようとしたものです。
それまで、経済指標から為替を説明しようとするモデルは、日々の変動の1割も説明できないことがほとんどでした。
ところが2人が注文の偏りを変数に入れたところ、説明力が5割を超えました。注文の偏りというのは、買い注文と売り注文のどちらがどれだけ多かったか、という差のことです。
当時のドイツマルクの市場では、10億ドルぶんのドル買いが積み上がると、値段が0.01マルクほど動いていました。
ここが厄介なところになります。この偏りは、チャートを見ても分かりません。値段が動いたあとに、結果として見えるだけです。
5.私たちは、自分が思っているのと逆のことをしている
日本銀行が2018年に出した調査に、こんな話が出てきます。
日本の個人FX投資家へのアンケートでは、7割が「順張りをしている」と答えていました。順張りというのは、上がっているものを買い、下がっているものを売る形のことです。
ところが実際の売買データを集計すると、日をまたぐ取引では逆張りの形が出ていました。つまり、自分では順張りのつもりでいても、実際の注文は逆を向いていた人が多かったということです。
建玉のデータもこれを裏づけています。2026年7月末の店頭FX全体の建玉は11兆9,642億円で、そのうち買いが8兆451億円。
80,451 ÷ 119,642 = 67.2%です。
3分の2が同じ方向を向いています。相手を探す以前に、私たちはかなりの割合で同じ側に立っていることになります。
6.注文の相手は、FX会社になる
もうひとつ、構造の話をしておきます。
日本の店頭FXは取引所を通しません。FX会社との相対取引になります。相対取引というのは、取引所に注文を並べるのではなく、業者と1対1で値段を決める形のことです。
つまり、あなたの買い注文を受け取っているのは、隣にいる個人トレーダーではなくFX会社です。FX会社はその注文をまとめて外の銀行に流します。これをカバー取引と呼びます。
「個人同士で奪い合っている」という絵は、そもそも成り立っていません。
ちなみに、スペインの証券監督当局が2015年1月から2016年9月までの差金決済取引の口座を調べた記録があります。3万656人のうち82%が損失で終わり、損失の合計1億4,200万ユーロのうち9,000万ユーロは手数料やスプレッドなどのコストでした。日本の店頭FXそのものの調査ではありませんが、出ていく側の金額が思ったより大きいことは分かります。
7.では、何を数えればいいのか
勝つ相手を探すのをやめて、手元に残る額を数える。やることはこれだけです。
私がやっているのは次の3つになります。
- 1回ごとの獲得pipsから、その取引にかかったコストを引いた数字を記録する
- 月の終わりに、合計獲得pipsとコストの合計を並べて見る
- 「今月は何回入ったか」を数える。回数が増えた月はコストも増えているはずなので、そこを確認する
相手が誰かは分かりません。分からないものを分析しても、答え合わせができない。逆に、自分が払った額と回数は、明細を開けば必ず分かります。
分かるものから数える。これが遠回りに見えて、いちばん早いと思っています。
8.私の負けパターン
ここでは最後に、相手を探していた頃の私の負けパターンをお伝えします。
- 大口の動きを読もうとして待ちすぎる 「そろそろ機関投資家が入ってくる」と考えて待っているうちに、その日の値幅が終わっていました。
- 負けた直後に「取り返す相手」を探す 別の通貨ペアを開いて入り直していました。相手が変わっただけで、自分の基準は何も変わっていません。
- 明細を見ないまま次の月に入る pipsの合計は覚えているのに、引かれた額は覚えていない。ここが長いあいだ抜けていました。
相手を探している間は、自分の数字を見ていない。これに気付くまで、ずいぶん時間がかかりました。
まとめ
覚えて帰っていただきたいのは、次の3行です。
- 世界の外為取引のうち、方向を当てにいく取引は多数派ではない。相手を探しても見つからない
- 値段を動かすのは注文の偏りで、それはチャートを見ても事前には分からない
- 分からないものより、分かるもの(自分の回数とコスト)から数える
今日やることは一つだけです。
取引明細を開いて、直近1か月ぶんのコストの合計を出してください。
pipsの合計はだいたい覚えているはずです。そこにコストの数字を並べたとき、印象がどれくらい変わるか。それが今日の答えになります。
以上が、相場の相手についての話になります。ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
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ただ、実際にやってみると、次の壁が出てきます。
- コストを数え始めても、その日に入るかどうかの基準が毎回ブレる
- ブレたまま回数が増えるので、コストの合計だけが伸びていく
- 「今日は見送る」と決められる材料が手元にない
これも意志の問題ではないと思っています。毎回同じ基準で見続けること自体が、それなりに重い作業だからです。
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矢印は、条件が揃ったという事実の表示です。勝ちの合図ではありません。損切りとロットは、必ずご自身のルールで決めてください。
まずは今日の記録から始めてください。受け取るのは、そのあとで大丈夫です。
