イライラした日ほど負けている気がする。FXの感情記録は「言葉の細かさ」で決まる
仲値トレーダー
トレードのあと、ノートにこう書いた日はありませんか。
「今日はメンタルが崩れた」
「焦ってエントリーしてしまった」
私も長いあいだ、この書き方でした。1か月後に読み返しても、崩れた日と崩れなかった日が成績と結びつきません。結局「気をつけよう」で終わる。
感情の記録が使えないのは、続かないからではありません。粒度が粗すぎて、あとから比べられないからです。
1.「メンタルが良かった」では何も残らない
感情の粒度という考え方があります。自分の状態をどれくらい細かく言い分けられるか、という意味です。
「嫌な感じ」で止まる人と、「焦り」「腹立ち」「不安」を分けられる人がいます。同じ場面でも、後者のほうが記録に残る情報が多い。
感情の記録は感想文ではなく、あとで数えるためのデータです。数えられない形で書けば、どれだけ続けても比較できません。
では、少しずつ見ていきます。
2.感情が強い人ほど負ける、とは限らなかった
「感情は敵だから消せ」というのが、いちばんよく聞く話だと思います。これを測った研究が2つあって、結論が割れています。
まず1つ目。アメリカの研究者ロー氏らのチームが、デイトレード講座の参加者80人を25営業日追跡しました。毎日その日の損益と気分を7段階で回答してもらう形で、有効な日次回答は755件になります。
その日が気持ちよかったかどうかと、その日の損益の連動が、成績下位の3分の1では52.0%、上位の3分の1では32.4%。1.60倍の差です。
つまり、負けている人ほど「その日の結果」と「その日の気分」がぴったり動いていました。
3.効いていたのは強さではなく、見分けるほう
2つ目の研究が、通説をひっくり返します。
アメリカの経営学の研究者ソ氏と、感情研究のバレット氏が、株式投資のシミュレーションで101人を20営業日追いました。判断をしながらその場で感情を報告してもらう形式で、1,870件の分析になります。
- 感情を強く感じていた人のほうが、成績が良かった
- 感情に判断を引っ張られなかった人のほうが、成績が良かった
- マイナスの感情を細かく言い分けられる人ほど、感情に判断を引っ張られていなかった
- ところがプラスの感情の細かさでは、統計的な差が出なかった
3番と4番が、初めて聞く方の多いところです。嬉しい・満足を分けても判断のブレは減らず、減ったのはマイナス側を分けられた人だけでした。
1つ目と矛盾して見えますが、測っているものが違います。ロー氏らは損益に気分が引っ張られる度合いを、ソ氏らは感情の強さそのものを測りました。
つまり、強い感情が問題なのではなく、損益に連動して勝手に動く感情が問題ということです。
4.私の25営業日。結果のほうが先にばらついている
私はドル円の朝9時台だけを記録しています。7月20日から8月25日までで25営業日、成立45回ぶん。1日の合計獲得幅はこうなりました。
- 平均 25.14pips、中央値 19.20pips
- 最大の日は104.4pips、最小の日は5.4pips。19.33倍の差
- 平均を下回った日は25日中18日。72.0%
pipsは値動きの最小単位で、ドル円なら0.01円が1pipsです。
見ていただきたいのはここです。結果のほうが、感情より先に大きくばらついている。
平均を下回る日が7割あるなら、7割の日に「今日はいまいちだった」という感想が出ます。そのまま書けば、残るのは自分の状態ではなく相場の荒さです。
野球で例えるなら、打てなかった日のフォームだけを反省しているようなものです。相手投手が誰だったかを書いていない。だから読み返しても使えません。
5.「気付けている」という自信は、成績と無関係だった
もう1つ、身も蓋もないデータがあります。
イギリスの研究チーム、カンダサミー氏らが、ロンドンの金融機関のトレーダー18人と、年齢を合わせた非トレーダー48人を調べました。使ったのは、自分の心臓の鼓動を脈に触れずに数える課題です。
正解率はトレーダーが平均78.2、非トレーダーが66.9。そしてこの正解率が、損益と、市場で生き残った年数を予測しました(年数の説明力34.4%)。
問題はここからです。同じ課題で「どれくらい当てられた自信があるか」も聞いています。その自信は、実際の正解率とも、損益とも、生き残った年数とも無関係でした。
「自分は感情に気付けているほうだ」という手応えは、当てにならないということです。信じられないから、外に出して数えます。
6.実際にどう書くか
まず段階の数です。3段階では足りません。
イギリスの研究者プレストン氏とコールマン氏が、2段階から11段階までの評価尺度を並べ、信頼性と識別力を比べました。2段階・3段階・4段階は明確に劣り、7段階くらいまでは増やすほど良くなるという結果です。ロー氏らの研究も7段階でした。7でOKです。
次に、点数だけでなく名前を書くこと。
アメリカの脳科学者リーバーマン氏らが感情を呼び起こす画像を見せて脳の反応を測ったところ、感情に名前を付けたときだけ、扁桃体という警報装置にあたる部分の反応が下がりました。
キルカンスキー氏らの研究チームは、クモが怖い人を実際のクモに慣らす実験で同じことを試しました。名前を付けた群は1週間後の身体反応の下がり方が大きく、使った感情語の数が多い人ほど下がり方が大きかったそうです。
「不快」の一語ではなく「焦り」「悔しさ」「退屈」と分ける。それ自体が処理になります。
具体的には、この3つでOKです。
- エントリーの前に、いまの状態を1から7で書く
- その横に、感情の名前を1語だけ書く。マイナス側はできるだけ具体的に
- 結果は、あとで別の欄に書く。感情を書く時点では結果を見ない
3番が肝心になります。結果を見てから書くと、残るのは結果の感想です。ロー氏らの下位3分の1と同じことを、自分でやることになります。
あと、相関を出そうと思った方へ。無関係な数字を25日並べただけでも、0.3以上の相関は15.0%の確率で出ます。25日で意味があると言えるのは0.396以上です。最初の1か月は、分布を眺めるだけでOKです。
7.私の負けパターン
数字を並べておいて何ですが、私自身この記録を何度も台無しにしました。
- 負けた直後に感情を書く 「悔しい」しか出てきません。書いていたのは感情ではなく、結果への反応でした。
- 良い日だけ細かく書く 勝った日は長く、負けた日は一行。並べても使えません。
- 5段階にして、真ん中ばかり選ぶ 迷ったら3を付けていました。付けていないのと同じです。
3番を7段階に変えただけで、数字が動くようになりました。細かく見たかったからではなく、逃げ場を減らしたかったからです。
8.まとめ
お伝えしたかったのは、次の3点になります。
- 問題は感情の強さではありません。損益に連動して動く感情のほうです。成績下位の人ほど、その日の気分と損益が強く連動していました
- 判断のブレを減らすのは、マイナス側を細かく言い分けられることでした。プラス側の細かさでは差が出ていません
- 「自分は気付けている」という手応えは、実際の精度とも成績とも無関係でした
なお、眠れていない日や、生活のお金に手をつけている状態なら、記録より先にやることがあります。ロットを下げるか、その日は見送る。順番はそちらが先です。
そのうえで、今日は一つだけ。
次のエントリーの前に、いまの状態を1から7で書いて、感情の名前を1語添えてください。結果は見ないまま書くのがポイントです。
10秒で終わります。感情の数値化については、こんなところです。今日もお付き合いいただき、ありがとうございました。
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ただ、この記録を実際に回そうとすると、別のところで詰まります。
- エントリー前に書くはずが、チャートを見ているうちに書き忘れる
- 見送った日に何を書けばいいのか分からず、記録が飛ぶ
- 判断そのものが日によって変わるので、感情の欄だけ揃っても比べられない
これも意志の話ではありません。判断とその前の状態を、毎日同じ形で並べ続けること自体に負荷がかかります。
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まずは今日の1行を書くところからで大丈夫です。受け取るのは、そのあとで構いません。
