インジケーターを足すほど、判断に時間がかかる。FXのチャートは「情報の重なり」から減らす
仲値トレーダー
チャートの下に、窓が3つ並んでいる。上のチャートにも線が5本引いてある。
そして、いざ形が整ったときに手が止まる。1つ目は買い、2つ目も買い、3つ目だけが売り。どれを優先するか決めていないので、迷っているうちに動きが終わる。
私も、同じ画面を何年か使っていました。増やせば見落としが減ると思っていたからです。実際に減ったのは、見落としではなく、判断できる回数のほうでした。
では、少しずつ解説していきます。
1.指標を38種類並べても、元になっている数字は4つです
まず、材料の話からいきます。
MT5(メタトレーダー5、FXで広く使われている取引ソフトです)の公式資料を数えると、標準で入っている指標は38種類あります。2つずつ組み合わせるだけで703通り、3つなら8,436通りです。
ただ、この38種類が読んでいる元データは同じです。1本の足が持っている数字は、始値、高値、安値、終値の4つだけ。つまり4つの数字の並べ替え方が38通りある、という意味になります。
ニュースで例えると分かりやすいと思います。5つの局で同じ事件を見ても、取材元の通信社が1社なら、5回確認したことにはならない。同じ話を5回聞いただけです。
統計では、これを多重共線性と呼びます。同じことを言っている変数を並べると、どれがどれだけ効いているのか決まらなくなる現象です。
2.私の記録で、いちばん性質の違う2つを数えてみました
海外の研究に行く前に、自分の数字を出します。
私はドル円の朝9時台だけを記録しています。直近は27営業日、成立48回。私1人の記録なので、母数としては小さいです。
この1時間の中には、性質の違う2つの場面が入っています。獲得幅の平均で見ると、片方が18.43pips、もう片方が7.55pipsで2.44倍の差。pipsというのは値動きの最小単位のことで、ドル円なら0.01円が1pipsになります。
その2つが同じ日にどれくらい連動しているのかを、両方成立した21日で計算しました。相関は0.333。順位に直して数え直しても0.355(片側p=0.058)でした。
2乗すると0.111です。つまり片方から説明できるのは11.1%だけで、残りの88.9%は別の情報だ、ということになります。
本当に別物の2つでも、共有している情報は1割ちょっと。では、同じチャートに並べた指標どうしはどうなのか、という話です。
3.同じ線を100だけ下にずらしただけの指標があります
ここからが本題になります。
例を1つ出します。ウィリアムズ%Rと、ストキャスティクスのファストKです。名前も見た目も違いますし、普通は別々の窓に表示されます。式を言葉にすると、こうなります。
- ファストK 終値から期間の安値を引き、期間の高値と安値の差で割って、100を掛ける
- ウィリアムズ%R 期間の高値から終値を引き、同じ差で割って、マイナス100を掛ける
引き算の向きが違うだけです。実際に数字を入れて2,000通り計算したところ、2つの差はどの行でもぴったりマイナス100でした。相関は1.000000です。
同じ期間で並べたとき、この2つは同じ線を100だけ下にずらしたものになります。片方を消しても、失う情報はゼロです(ソフトの初期設定では平滑化がかかるので、画面上で完全一致まではいきません)。
これは極端な例ですが、程度の差なら普通にあります。相関0.9の指標を2本並べると、係数のばらつきは5.26倍、幅にして2.29倍。0.95なら10.26倍と3.20倍です。情報は増えないのに、判断のブレだけが増えます。
あと、よく見るルールに「5つの指標が全部同じ方向を向いたら入る」があります。5本が本当に独立なら、片方向に揃うのは32回に1回、3.125%です。ところが実際は同じ4つの数字から作っているので、揃う日はもっと頻繁に来ます。厳しくしたつもりが、厳しくなっていないということです。
4.情報を増やすと、正答率は止まって、自信だけが伸びます
では、なぜ増やしてしまうのか。
アメリカの心理学者オスカンプ氏が、1965年に有名な実験をしています。32人の判定者に、ある人物の資料を4段階に分けて読ませ、読むたびに25問の予測問題と「何%くらい当たっていると思うか」を答えさせました。
結果はこうでした。
- 正答率 26.0%、23.0%、28.4%、27.8%
- 自信 33.2%、39.2%、46.0%、52.8%
正答率は最初と最後で1.8ポイントしか動かず、統計的に意味のある増加はありませんでした。一方で自信は19.6ポイント上がっています。ズレは7.2ポイントから25.0ポイントへ、3.47倍に開きました。
もう一つ、面白い数字があります。答えを書き換えた問題数が、資料が増えるほど減っていったそうです。つまり最初の断片で作った印象が先に固まって、あとから来た資料は確認に使われていた、ということになります。
指標を増やしたときに安心する理由は、ここだと思っています。安心は増えます。ただ、当たるようにはなりません。
5.複雑にするほど外れる。だから減らす順番を先に決める
もう一本、数字で裏を取ります。
オーストラリアの研究者グリーン氏と、アメリカのアームストロング氏が、予測手法の「単純」と「複雑」を比べた研究を集めました。32本の論文、97件の比較です。複雑にしたほうが当たると示した論文は、1本もありませんでした。数値で比較できた25本では、複雑にすると予測の誤差が平均27%増えています。
では、実際に減らしていきます。3段階でOKです。
- 同じ役割のものを1つに絞る。方向を見る道具、勢いを見る道具、幅を見る道具の3つに仕分けて、各1つだけ残します
- 残す前に「これが逆を向いたら、私は見送るか」と自分に聞く。見送らないなら、それは飾りです。外します
- 外したあとは最低20営業日そのままで記録する。減らした直後の数日で判断しない
私の場合、この仕分けで画面に残ったのは2つでした。
6.私の負けパターン
白状しますと、私のチャートは一時ひどい状態でした。3つ挙げます。
- 負けた翌日に1つ足す 原因を探すのではなく、道具を足していました。負けの理由が指標不足だった日は、1日もありません。
- 逆を向いている1つだけ、後から無視する 4つが買いで1つが売りなら多数決だと言って入る。数え方を決めていないので、毎回違う理屈になっていました。
- 週末に全部消して、月曜にまた並べる 消すこと自体が目的になっていました。何を残すか決めていないので、結局は同じ画面に戻ります。
道具ではなく、外す基準を決めていなかった。ここだったと思っています。
7.まとめ
今日の中身を、3行に畳みます。
- インジケーターを減らすというのは、道具を捨てることではなく、重なっている情報を1つにまとめることです。38種類が読んでいる元の数字は、4つしかありません
- 同じ線を100ずらしただけの組み合わせが実在します。増やしても情報は増えず、判断のブレのほうが増えます
- 情報を足すと自信は19.6ポイント伸びましたが、正答率は1.8ポイントしか動きませんでした
ひとつだけ、当てはまらない場面があります。まだ自分の型が決まっていない、いちばん最初の時期です。ここは色々表示して、どれが自分の判断と噛み合うかを見る段階になります。減らすのは、型が決まってからでOKです。
そのうえで、今日の分はこれだけです。
チャートを開いて、いま表示している指標を紙に書き出してください。そのあと「これが逆を向いたら見送るか」を1つずつ聞いて、答えがノーのものを消します。
3分で終わります。インジケーターの話は、ここまでにします。読んでくださって助かりました。
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ただ、指標を減らしたあとに、別の困りごとが出てきます。
- 残した1つが黙っている日に、何を根拠に見送るかが決まっていない
- 減らした直後の数日で結果が悪いと、元に戻したくなる
- 何を見るかは減らせても、いつ見るかが毎日ずれる
根性の話ではないと思っています。毎日同じ順番で、同じ数だけ見る。この作業そのものに負荷がかかります。
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まずは1つ外すところからで大丈夫です。受け取るのは、そのあとで構いません。
