前回は「ピックアップ障害」ではないかと医師に言われた女性の例をご紹介しました。
今回は男性不妊を疑われたケースから、「精索静脈瘤」をご紹介します。
精索静脈瘤でクリニックに駆け込まれるケース
ご夫婦2人でクリニックへ来院された患者さん。
奥様には特に問題はなかったのですが、旦那様に精索静脈瘤が見つかったとのことでした。
とはいえ、「男性不妊」と診断されたわけではないそう。
精索静脈瘤の症状がどの程度なのか、自然妊娠を望むのならオペは必要なのか不安になり、クリニックへ足を運ばれました。
そもそも精索静脈瘤とは
「精索」とは、精巣から繋がる精子の通り道「精管」や血管、神経、リンパ管などが束になったものです。
この中に、精巣から心臓へ血液を戻すための血管「精索静脈」があり、ここが蛇行・拡張して瘤のようになるのが「精索静脈瘤」です。
精索静脈には血液の逆流を防ぐ「弁」が付いているのですが、弁が何らかの原因で機能しなくなると血液が逆流し、瘤ができてしまうのです。
「精索静脈瘤」は一般男性の10~20%程度がかかる症状。
そして、男性不妊症の原因の約30%が「精索静脈瘤」と言われています。
精索静脈瘤ができることで、精子機能にさまざまな弊害が発生します。
・精巣内の温度が2度~3度上昇
・活性酸素や腎臓・副腎の代謝産物が増加
・精巣内が低酸素状態になる
すると、精子を作る機能が低下したり、精子の質の低下を招いてしまうのです。
精索静脈瘤と診断された場合、手術をしないと妊娠できないのか
では、精索静脈瘤と診断された男性が子供を望む場合は、手術をするしかないのでしょうか?
まず、精索静脈瘤を治療するならば、方法は手術がメインとなります。
瘤ができた箇所を切除し、スムーズな血液の流れを作れば症状の改善は可能です。
ちなみに、手術で精子の質が改善される確立は6割程度。
個人差はありますが、手術後3カ月~半年ほどで精液所見の改善が見られるようです。
1,357人を対象にした精索静脈瘤の治療に関する解析レポートがあります。
治療はあらゆるグレードの精索静脈瘤において、不妊男性の妊娠率と精子濃度を改善する可能性が示唆されたというものです。
ただし、この研究では正常な精子形成や運動性の改善に関してはあまり明らかにならなかったと結論づけられています。
また、運動率と正常な精子形成を目的にオペをしたケースでも、実際に1カ月で改善が見られた方や3カ月後に向上した方、まったく改善が見られなかった方など結果はまちまちでした。
一方で、精索静脈瘤の治療にサプリや漢方を使うクリニックもあります。
精索静脈瘤では活性酸素の増加によって、精子の質が低下することがわかっています。
そのため、精巣内の酸化ストレスを中和するために、抗酸化作用を持つ栄養素(ビタミンC・E、亜鉛やオメガ3脂肪酸など)のサプリメントが処方されます。
漢方では、精索静脈瘤を「血の流れが悪くなっている」いわゆる「瘀血(おけつ)」の状態とみなし、「桂枝茯苓丸」や「桃核承気湯」を処方することも。
薬物による治療については、2022年に発表されたレポートが参考になります。
精索静脈瘤が認められ、オペをしていない男性213人を対象に、経口抗酸化剤を投与した研究です。
結果として、経口抗酸化剤の投与は精液量や精子濃度、運動性を改善することがわかりました。
ちなみに、一般的に抗酸化剤と言えばコエンザイムQ10や亜鉛などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
実は、それら以外にもトマトに含まれる「リコピン」も抗酸化作用があり、精索静脈瘤の軽減に効果があるようなのです。
実際にラットを使った研究では、精索静脈瘤を持つラットにリコピンを2ヶ月間投与したところ、精子の濃度や生存率の向上が見られました。
ほかにも、人を対象にした実験では精子無力症や奇形精子症などの男性へのリコピンの投与は、精子の質改善に効果があったとの報告があります。
まとめ ~オペをするか否かは妊活の進め方次第で~
精索静脈瘤の治療は主に手術となりますが、薬物治療を行う場合もあります。
では上記の患者さんはどうされたかと言うと、結局はオペを見送ることとなりました。
理由としては、ご夫婦2人共30代後半というのが大きい要因。
オペの後は、どうしても回復するまでタイミングが取れません。
年齢のことを考えると、回復期間を無駄に過ごしてしまうよりはステップアップをした方がいいと判断されたためです。
もちろん、これまでに「オペをして良かった」「手術のおかげで授かれた」という患者さんも沢山見てきました。
しかし、オペには様々なリスクもあります。
・年齢
・リスクベネフィットの価値観
・治療にかかる費用
など、様々な条件を照らし合わせて、ご夫婦で決めて行くのが良いでしょう。
もちろん、その中には先ほど挙げたサプリメントや漢方による治療も選択肢に入るかもしれません。
ただし、どの結論を選んでも土台となる身体が健康でないと、治療の成果を十分に発揮できません。
オペの有無に関わらず、改善できる習慣に取り組むのが大切というのは忘れないでくださいね。