夢の檻①
目を覚ました。
カーテンの隙間から朝陽が差し込んでいる。時計を見ると午前6時42分。心臓が不規則に鼓動し、体が冷たい汗で濡れていた。
「また、か……」
夜ごと、同じ夢を見る。暗闇に閉じ込められ、何者かが囁く。「目覚めるな」と。その声を振り払うように目を覚ますたび、世界が少しずつ変わっているような気がする。
バスルームへ向かい、鏡を見る。
映った自分を見て、息が止まる。
鏡の中の自分が、一瞬、違う顔をしていた。見知らぬ男——いや、見覚えがある。だが、思い出せない。
呼吸を整え、もう一度鏡を見る。
いつもの自分がそこにいた。
「疲れてるだけだ……」
そう呟くが、違和感は消えない。
夢の中で見た「目覚めるな」という囁きが頭から離れない。もし、これが夢なら?もし、目覚めるたびに違う現実を生きているのなら?
悠は、カレンダーを見つめる。昨日と今日の日付が、わずかに異なっている気がする。何かが、おかしい。
会社へ向かう途中、悠は奇妙な déjà vu を感じる。すれ違う人々の顔が、以前どこかで見たような気がする。
「どこで……?」
足が自然と向かったのは、駅前の古びたビル。その地下へ降りると、錆びた扉がひとつ。
引き寄せられるように扉を開ける。
そこは——赤い部屋だった。
血のような深紅の壁、古びた木製のテーブル。椅子には、悠とそっくりの男が座っていた。
「ようやく来たか」
男は悠を見つめ、静かに微笑んだ。
「お前は、誰だ?」
「俺はお前だよ」
悠の鼓動が高鳴る。
「お前は、何度もここに来ている。覚えていないのか?」
—- 悠は、今までに何度ここへ来たのか? そもそも、これは現実なのか?
部屋の隅には、埃をかぶった時計がある。針は止まっている。
悠が時計に触れると、頭の奥で強烈な痛みが走る。
何かが思い出されそうになる——だが、それは霧の中に消えてしまった。
悠は混乱したまま赤い部屋を後にし、外の世界へ戻る。しかし、街の様子が微妙に違っていることに気づく。
信号機の色が逆転している。見覚えのあるカフェがまったく別の店に変わっている。
「違う……何かが違う」
携帯を取り出し、知人に連絡を取ろうとするが、電話帳にあるはずの名前が消えている。メモリーに残るのは、見覚えのない番号ばかり。
恐る恐るひとつの番号に電話をかけると、聞き覚えのある声が応答した。
「ようやく気づいたか」
それは、赤い部屋にいた「もう一人の自分」の声だった。
「お前は今、どの夢の中にいる?」
悠は理解する。
彼がいるのは、本当に現実なのか? それとも、また別の夢なのか?
彼は、どこまで堕ちていくのか。
悠は辺りを見回す。街の建物が、ゆっくりと形を変え始める。
まるで、夢が崩壊しているように——。
次の瞬間、彼はまた目を覚ました。
カーテンの隙間から朝陽が差し込んでいる。時計を見ると午前6時42分。
悠は、息をのむ。
「……また、か?」
目覚めたはずなのに、昨日と同じ朝が繰り返されている。外に出ると、見知らぬ人々が彼を見つめ、何かを呟いている。
その中に、赤い部屋にいた男の姿があった。
「お前は、まだ目覚めていない」
悠は立ち尽くす。
終わらない夢の中で、彼はただ、出口を探し続ける——。
夢の檻②
主人公の鳴海遥は、夢と現実の境界が崩れた世界に閉じ込められてしまう。彼は目覚めるたびに自分が別の現実にいることに気づきますが、それが本当に現実であるかどうかはわかりません。ある日、彼は夢の中で「赤い部屋」に導かれる。そこで彼は、自分とそっくりな人物を見つけ、「あなたはここに何度も来ていますね」と言われます。