THE ONLY
芍薬椿
「あたしが死んだら死んでくれる人じゃなきゃ好きにならない。
そういう人じゃなきゃ好きにならない。
この世で恋愛してるのに、命捧げられないで愛してるなんて言える?
そんなので愛してるなんて嘘つきだ。
あたし、嘘つきは嫌い。本当のことを言う人しか好きじゃない!!
大嫌い!!」
そう言って部屋に籠城したのが11月13日、日曜の1日をひとりで過ごすはめになった。
わがままなのはわかってる。聞き分けのないことをいい歳して何を言ってるんだってそこまでちゃんと理解できてる。でもだめなの、彼の前だとどうしても。
いつからなんだろうか。出会った頃はきちんとお姉さんをしていたつもりだったんだけど、、、
「ねえ!あたしだけ!他の人見たらダメ!あたしが死んだら30秒以内にあなたも死んで!あたしが泣いたら抱っこして!」
驚いた顔をしながら仕方がないなあと笑ってくれる。
優しさに泣けてきて、罰が悪くて、口が尖っていく。あたしのご機嫌をとるのがうまいから、何も言わずに抱っこしてすぐに笑わせてくれちゃったりする。
「どうしてそんなに面白いの?」「どうしてそんなにかっこいいの?」「どうしてそんなに優しいの?」
あたしの目がどんどんキラキラしていく。自分でもわかる。
彼がいればあたしの健康は約束されている。彼がいればあたしは幸せだ。
彼がいれば完璧だったし、彼がいればあたしは隕石がぶつかっても気づかないくらい満たされる。
15歳で離れ離れになった。彼もあたしも心身を壊した。
合わせる顔がないからとあたしにバレないように白馬の騎士になってくれた。
でも、あたしが目の前で結婚を決めてしまったから目を覚ましてくれた。
「合わせる顔がなくてもほしいものがある」
4歳から一緒にいたふたりが15歳で離れてしまったあともお互いに片時も忘れることはなかった。
あたしは結婚の報告を友達にする時でさえ、「彼がいればこの結婚を今すぐやめられる」と公言したほどだった。
彼といると全てが完璧になる。
ああだからかもしれない。あたしはあたしに帰還する。それで今まで誰にも言えなかったようなわがままを平気で言ってしまうんだ。
「お菓子買ってあげるから。抱っこしてあげるから。ほら、出ておいで。めみちゃん、出ておいで」
そんな子供騙しには騙されない。
「夕食はめみちゃんが好きなもの作ってあげるよ!」
お鍋が食べたいけど、そんなことで釣られるほど安い女じゃない。
「明日はお勉強手伝ってあげるから!」
「あんた、あたしより偏差値低かったじゃないの!」
また憎まれ口を叩いてしまった。後悔して泣きそうになる。
「あ!偏差値で思い出した!今日実家から保育園の頃の写真送ってもらったんだ」
「見る!!見せて!!」
目があってあたしは観念して抱きついて「ごめんなさい」と言う。
「我が家の毎月の恒例行事ですね」
大好きという言葉以外に彼を表現する言葉が見当たらない。
父が死んで実家と折り合いをつけた今となっては彼があたしの人生の最古参だ。