【20228-3】No,1
芍薬椿
野球部に入れなかった寄田はそのことを今もコンプレックスに思っているらしい。
「もう少しだけ早く転校していたら、ふつうに野球部に入部してた」
「野球が好きだったの?」
「めみは頭の回転が遅くてイライラする」
子供っぽい八つ当たりも最近は可愛いと思えるようになった。寄田が生きていた世界はあたしが想像するよりもずっと閉鎖されていたらしい。
寄田を動物に例えると犬みたいだと思う。
自称狼の雑種。
雑種はいい意味で、どこが出発点かはわからないけれどいいとこ取りしてるなって感じだから。
「めみはなんで?とかどうして?が多すぎる」
真剣に向き合って今度はあたしがイラつく。
「疑問を持つことっていいことじゃない。理由を知ったらいろんなことをさらに考えられるよ」
学歴マウントを取れるようになったあたしの言葉はいちいちトゲトゲしている。
自称狼の雑種は従順だ。
クールな印象で営業しているから、その癖であたしとの再会を試みたみたいだけど、あたしはそういうハリボテの印象が不気味に感じてしまう。
嫌いな理由を丁寧に伝えるほど仲が良かったわけではないのでフェードアウトした。
「俺はコンプレックスの塊。なんだけど、そういうのを見せないのが俺の営業スタイルね」
ふーんと返事をする。
お前の仕事の活躍なんて興味ねえよと涌田になら言えるけど、何せこの子は繊細ですから、、、
「ねえ!めみ!!ねえ、ねえ!!今度の休み、ディズニーランド行こうよ!」
「行かない」
「なんで!?女の子好きじゃん!デートって感じじゃん!今までの女の子はみんな喜んでくれたよ!いや、違う、俺が行きたい!!」
「じゃあその喜んでくれる女の子探して行ってこい。めみは行かない」
「わかったよ、じゃあね」
プツンと電話が切れたので怒らせたことが確認できた。あたしは困りながらも次の手段を考え始める。
翌日、早速新しい犠牲者が出たことを寄田本人から報告される。
「寄田、、、、」
気が強いのは同じ寅年だからという、不明晰な裏付けをしてあたしはなんとかこの不条理を飲み込む努力をした。
寄田くんへ
あたしはディズニーランドもUSJも行きたくありません。
なぜなら混んでいるからです、なぜなら苦手だからです、なぜならはしゃげる性分じゃないからあなたに寂しい思いをさせてしまうからです。
家の中でしかはしゃげないことをなぜ無視するように都合よくスルーするのか。
一番わかっているだろうが、、、
業務連絡は以上です。