連載小説【ごっこ遊び】

連載小説【ごっこ遊び】

芍薬椿

芍薬椿

紫ちゃんに会った時シンパシーを感じた。

「エムはね、女の子だからカッコいいものが好きなの。男の子みたいな格好しているのもかっこいい男の子みたいになりたいから」

「女の子だから?」

「そう!女の子だからかっこいいものが好きだし、かっこいいものに憧れるの。だからかっこいい男の子と恋をしたいし、かっこいい男の子と友達になりたいし、かっこいい男の子に先生になって欲しいの」

「じゃあ私と同じじゃん!」

ケラケラ笑った紫ちゃんを見たのは初めてだった。いつもなんかつまらなそうな顔をしているから、笑わせたいっていう気持ちはずっとあった。紫ちゃんを笑わせたら私の勝ち!そんなゲームをひとりでしていて、その日見事に私は勝った。

紫ちゃんと私は1日の時間の流れが似ている。

10時ごろに起きて、15時ごろから仕事を始めて、深夜直前に帰宅して寝る。お互い一人暮らし、家は近所だけれど、私は紫ちゃんの家に行くことがすごく嫌だったし、紫ちゃんはおうちに誰かを呼ぶことが嫌いだったから相性が良かった。

エムちゃんはいちゃいちゃするのにちょうどいいって言いながらよくご飯を食べにきてくれた。

彼氏の瀬名くんが来ると冗談を2つ3つ言ってさっさと帰っちゃう。私はいつの頃からか瀬名くんが来ない日を選んで紫ちゃんを呼ぶようになっていた。

瀬名くんは何も言わない。瀬名くんと紫ちゃんは知り合いだし、LINEも互いに知っている。私よりも古い付き合いだから別に私と紫ちゃんが何かあるとは思っていないみたいだ。

紫ちゃんはヘビースモーカーで、タバコ税が上がるたびに文句を言いながら仕事量を増やしていた。すごく堅実な男の人だと思う、私よりもずっとずっと堅実な人だなあと。だから変に社会不適合とかって自嘲している姿を見ると「なんでだろう」って単純に不思議だった。私の目から見て紫ちゃんはすごく立派で大人で社会人だったから。間違っても昭一くんみたいに水道料金を止められることはない。ああいうのが社会不適合っていうんだよって紫ちゃんに教えてあげたいけれど、そんなこといちいち言ったらバカだと思われるかもしれないと思っていまだに言わずにいる。

昭一くんと瀬名くんは仕事仲間だから、私の家にもよく遊びに来る。足が臭いことが嫌だからいつもお風呂に入ってもらう。裸で出てきた時は紫ちゃんが私の目の前に立ちはだかって未然に事故を防いでくれた。あれは嬉しかった。

「エムちゃん、このことはしっかりと瀬名くんに言いなさいね」と珍しく怖い顔で私にいった。そんなこと言われなくてもちゃんと言うよ、私子供じゃないもんとぶうを垂れようかと思ったけれど、紫ちゃんの妹になれたような気がして嬉しかったから「はい」と微笑んだ。

ごっこ遊びが昔から好きだったから、今もごっこ遊びの台本を書いている。それが私の職業だ。紫ちゃんと瀬名くん、昭一くんはごっこ遊びを実際にしてくれる人。

いろんなキャラクターになれるからいいんだよと瀬名くんは目を輝かせる。いろんなキャラクターを作れるからいいよねと私は瀬名くんの手を握る。

視点が違う。でもいいと思うものは同じ。だから私たちはいつまでも仲良しでいられるのだと思っていた。

瀬名くんが彼氏で、昭一くんが親友で、紫ちゃんが友達で。

ある時、ふと思った。

じゃあ、私は何なんだろう?彼女なの?親友なの?友達なの?

眩暈がした。わからなくなった。紫ちゃんの言葉の意味も、昭一くんの視線の意味も。

そして瀬名くんの狂気に満ちたセックスのやり方も。

****to be continued....***


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芍薬椿

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