パズドラで急成長するガンホーの孫泰蔵会長が、東大受験に2回失敗した時に、兄・孫正義ソフトバンク会長から教わったこと。(2014年5月)

パズドラで急成長するガンホーの孫泰蔵会長が、東大受験に2回失敗した時に、兄・孫正義ソフトバンク会長から教わったこと。(2014年5月)

(株)ソクラテス代表 寺澤浩一

(株)ソクラテス代表 寺澤浩一

だいぶ昔の話になりますが、1990年代終わり頃の数年間、僕はある大手証券会社のベンチャー企業支援事業のお手伝いをしていたことがあります。具体的には、全国の中堅・中小企業の経営者や起業家向けに月刊情報誌を編集・制作する仕事でした。その中で、当時注目され始めていたベンチャー起業家に毎月1人ずつお会いし、インタビュー記事を書いていました。
ガンホーの孫泰蔵会長(当時はインディゴ代表取締役)にお会いしたのも、その企画を通してです。今から16年前になる1998年の1月、東京には珍しい大雪が降った日でした。渋谷駅近くの小さなオフィスを訪ねると、孫さんは笑顔で迎えてくれました。それから約2時間、孫さんは僕の質問の意図を素早く察知し、丁寧かつ誠実にインタビューに応じてくれました。

以下はその時のインタビュー記事です。いま振り返ると、その悠揚たる語り口には、孫さんのその後の活躍を予感させるものが確かにありました。
では、まず当時のプロフィール紹介から。

孫 泰蔵(Taizo Son)1972年、佐賀県生まれ。2年目の浪人時代に、兄であるソフトバンク孫社長(当時)から「計画」とその「実行」の神髄を学ぶ。東京大学経済学部在学中、ヤフー・ジャパンの創業に関わり、検索エンジンのシステム構築のプロジェクトリーダーを務める。1996年2月、大学3年でインディゴ株式会社を設立、代表取締役に就任。「JavaROM」のヒットで一躍注目を集める。「外部との境界のない会社をめざし、自分たちの可能性と外的な刺激との相互作用によるきらめきを大切にしたい」と語る。

兄から「事業計画」の神髄を学び、米国ヤフー創業者のヤン氏から「起業のスピード感」を教えられました。

●計画とは「足し算」ではなく「割り算」で作るもの

2回目の大学受験に失敗した時、私は生まれて初めて「これはまずい」と思いました。一念発起して3月に上京し、予備校に入学して一人暮らしを始めました。

まずやったことは、受験までの1年間の極めて厳密な学習計画を作ることでした。めぼしい参考書と問題集を100冊ほど買い集め、まず30分ずつやってみる。そこから1冊を終える時間を割り出し、それを緻密にスケジュール化しました。すると1日18時間勉強しなくてはならない。しかし自分の限界を知るために、あえて挑戦してみようと思ったのです。

この計画作りには、兄(ソフトバンク・孫正義社長)のアドバイスが大きく影響していました。兄は言いました。「事業でも勉強でも、計画が最も重要だ。そして毎日の頑張りを足し算していく計画ではなく、ある時点の目標を決めて、それを実現するために毎日何をしなくてはならないかという割り算型の計画を作らなくてはダメだ…」

しかし実際にやってみると、なかなか18時間はできない。また進捗状況を曖昧にしか把握していない部分については、兄からきつく注意されました。「できないのはしかたない。しかしやったつもりになっているのが最も悪い。経営でそれをやったら命取りになるんだ」とね。兄はその当時から会社で日次決算をしていましたから、曖昧さを残すなという話には真に迫るものがありました。

何回もくじけそうになりながら、それでもやり続けました。次第に小さな達成感が積み重なり、理解が深まり、計画達成にドライブがかかっていきました。結局1年間の計画は8ヵ月目で終了し、全国模擬試験でも15万人中3位になりました。

自己管理を徹底して、頭がちぎれるほど一つのことをやり通したことは、本当に自信になった。そして計画を立てることの神髄を兄から学び、それを身をもって経験できたことは、大学に合格した以上のものを自分に与えてくれたと思います。

ここでソフトバンクの「日次決算」を補足します。一般に企業は年1回決算を行い、株主や金融機関、税務署などに報告します。上場企業の場合は四半期ごとに決算短信を発表しますが、自社内では月次決算を行っている場合が多い。日次決算とは、これを毎日行うということになります。

ここからは僕の推測です(笑)。
しかし毎日PLやBS、CFといった膨大な資料を作るわけではなく(たいへんな作業ですから)、会社別・事業別・業態別・製品サービス別などのセグメントごとにもっとも適したKPI(成果指標:売上・利益の対前年比や予算比、限界利益率やF/L比率、1人当生産性、等々)を設定し、それをチェックして事業の進捗管理をしていたんだと思います。

ソフトバンクの孫社長は当時、1000を超えるセグメントのKPIを毎日チェックして、問題があればその数値をドリルダウンして原因を特定し、翌日にはすぐに対策を講じるという離れ技をやっていたのです。「1000本ノック」と呼ばれたその緻密な経営管理があったからこそ、サラリーマン社長にはできない大胆な投資を次々と行い、キッチリと回収して成長を続けてきたのだと思います。

●人生を変えたヤフー・ジャパンのキックオフ会議

大学の頃は、兄とは違った道を歩もうと漠然と考えていました。しかし大学3年生の冬、兄の家に遊びに行き、そこで何気なくインターネットとヤフー社の話を聞いたのです。スタンフォードの学生が趣味で始めた検索システムが、ものすごい勢いで増殖している。そのビジネスを兄は日本で始める計画を持っていました。「春休みに、自分もアルバイトで手伝いたい」と私は兄に頼みました。そして1996年1月のヤフー・ジャパンのキックオフミーティングの末席に、仲間と一緒に参加させてもらったのです。

その会議が私の人生を大きく変えました。私は、その会議に圧倒され、カルチャーショックを受けました。オープンな雰囲気の会議室を英語が飛び交う。数億円単位の事項が次から次へと決まっていく。そして1時間後には、3ヵ月先の4月1日にサービスを開始することが決まっていました。出席していた米国ヤフーの創業者、ジェリー・ヤン氏が言いました。「これが世界のスピードなんだよ…」

私は心から感動しました。自分とほとんど歳が違わない人たちが、こんなにも自由で、グローバルな活動を楽しんでいる…。私は居ても立ってもいられなくなり、発言を求めました。そして自分なりの意見を述べたあと「検索エンジンのシステム構築に関して、ぜひプランを出したい」と申し出たのです。「では2週間後にプランと予算を提出するように」と言われた時、私の中で何かが動き始めました。

私たちは徹夜でプランを練り、幸運にもそれが採用されました。それからインターネットに詳しい学生を100人ほど集め、24時間4交代制で約2万件のデータによるシステムを構築しました。4月1日にスタートした日本版ヤフーは、こうしてできあがったのです。

孫さんは、このくだりを、本当に楽しそうに語ってくれました。このスピード感は、今のヤフーの宮坂社長にも「爆速経営」として受け継がれています。ヤフーの爆速経営はありがちなスピード狂ではなく、日次決算という精密なインジケーターで制御されたものなのです(たぶん)。

●ネットワーク構築の最適ソリューションを提供したい

現在のインディゴ(株)は、そのプロセスの中から生まれました。日本版ヤフーのシステム構築を行うなかで、インターネットに関するアイデアが湧き上がってきました。ならば会社を作ってやってみよう、と思ったわけです。

初めに手がけたのが「JavaROM」というホームページのデザイン作業を一変させるソフトでした。日本初ということにこだわり、めちゃくちゃなスケジュールで開発しました。学生ベンチャーという珍しさもあり、日経産業新聞等で「Webデザインを変える画期的ソフト」として大きく取り上げていただきました。それを契機として、いろんな方とのつながりができました。

インディゴは今、3期目に入っています。やっと事業計画といえるものができ、これからが本当のスタートだと思っています。日本の企業が本格的なネットワーク構築を開始した現在、そのインフラやシステムや、またビジネスのオペレーションにいたるまで、私たちが一本化された窓口として最適なソリューションを提供していきたい。インディゴは、ベンチャービジネスとしてのスタート地点に、やっと今立ったところなのです。

そして10数年後、パズドラの爆発でガンホーは大きな注目を集めました。いま孫さんにお会いしたら、どんな話を聞かせてくれるのでしょうか。このストーリーを改めてお目にかけながら、ちょこっと連絡してみようかな。



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この記事のライター

(株)ソクラテス代表 寺澤浩一

(株)ソクラテス代表取締役。 学生時代(慶応義塾大学文学部)よりコピーライターとして活動。1980年、(株)ユーピーユー入社。営業、編集、経理財務などを経験。1998年、(株)ソクラテスを設立。中小企業診断士として経営全般のコンサルティング、及びコンテンツ制作を行っています。

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